第二話 脱出と情報
セイルの一人称視点だったところを、三人称視点に変更しました。
「さて、いろいろすべきことはあるんだが、最優先するのは『この街からの脱出』だ」
やることは山積みだが、これだけはやっておかなければならない、とセイルは続ける。
「なぜ出ていく必要があるの?この街はかなり拠点には向いていると思うけれど」
リーレの言うように、この街は拠点にちょうどいい規模の街である。セイルも一ヶ月ほど滞在しているが、なかなか住みやすい所だと思っている。
しかし、この街に居続けるのは二人にとってリスクが高すぎる。その理由は二つある。
「神盾聖騎士団が危険すぎる。奴らは不死族を探知することができる。この宿は幻惑魔法の応用で辿り着きにくくなっているからいいんだが、それも時間の問題だろう。
それに、リーレの存在も問題だ。ここにいる奴らには、リーレのことを知っている奴もいるだろう。バレるのはマズい。多分君は死んだことになっているだろうから、十中八九疑われるだろう」
一つ目、神盾聖騎士団はリーレにとっては鬼門である。セイルとしても、できるならば接触は避けたい。
二つ目、リーレの出身は分からないが、吸血鬼にとって長距離移動はあまり簡単なことではない。夜間は通常、街へ入ることはできないので、門からは出られないし入れない。たいてい街の門の近くには堀があるので吸血鬼は渡れない。流れる水の上では、吸血鬼のあらゆる能力が無効化されるからである。橋は門の前にしかないので、門番に見つからないようにするのは至難の業である。
だから多分、リーレが死ぬときにこの街にいたのは間違いない。吸血鬼になってから移動はしていないとリーレも言っている。その場合、リーレが知り合いに見つかってしまうと不死族と疑われてしまう。真祖が吸血鬼になるまでには少なくない期間が必要である。つまりリーレは数年前に行方不明になった存在なのに、今ごろ出てきたらとても不自然である。
これらの理由から、セイル達はなるべく早くこの街を出ていかなければならない。
しかし、これにも大きな問題点がある。
二つ目の理由で挙げたように、吸血鬼が街から移動することは難しいという点である。
「だからこれから俺達がすることは、そのための準備になる。情報収集と脱出手段の確保が優先事項だと考えているが、リーレはどう思う?他にやるべきことがあれば言ってくれ」
セイルはリーレに助言を求める。一人だと、どうしても自分では分からない穴ができることも多い。意見は多ければ多いほどいい。
しかし、リーレからは特に何もないようである。
「異論がないなら、この方針でいく。
さて、次に具体的な行動について話す。
リーレは基本的にここで待機。下手に行動してリスクを冒す必要はない」
「その場合、私は何をしていればいい?」
何もしないのは時間の無駄だが、現状、リーレにできることはない。
「そうだな、この本を使って魔法の練習でもしていればいい。リーレは魔法が苦手と言ったが、吸血鬼の大量の魔力は大きな武器になる。自衛の為にも身に着けたほうが何かと便利だ。ただし、放出するのは禁止だ」
セイルがリーレに渡したのは、数冊の本。魔導書ではないが魔法について書かれた本であり、これをもとに練習を繰り返せば、そのうち魔法も使えるようになるだろう。身体強化に使うだけでも戦闘力に大きな違いが出る。吸血鬼の魔力を使わない手はない。
「脱出に関しては、もうすでに案はある。後ほど確認するから、考える必要はない。
脱出手段の確保と情報収集はどちらも俺がやっておくから、余計な行動はしないでくれ」
街を出るには昼の行動が必須で吸血鬼には厳しいが、魔道具を使えばできないこともない。
リーレは早速本を開き、ベッドに座って読み始めた。
これからセイルがすべきことは、件の半吸血鬼の情報と神盾聖騎士団の情報を集めることと、脱出に必要な魔道具を確保することである。
しかし、情報というものは重要なもので、魔導具も然り。……つまり何が言いたいかと言うと、セイルは金が心配だということだ。
一応情報屋はこの宿の一階にあるバーにいるのだが、全ての情報をそいつから仕入れたら、素寒貧になってしまう。
ではどこから仕入れるかといえば、それは一つしかない。
「神盾聖騎士団か………。」
当事者である。
セイルはリーレに気づかれないよう、静かに溜息を吐いた。




