22 目的と手段
セイルが目を覚ましたのは、昼頃のことだった。
――しまったな、寝すぎたか……。
数日間の徒歩の旅、またそれが仮眠程度の休養しかなかったというのだから、セイルも疲れが溜まっていたのだろう。横になったのが日暮れ間もないころだったというのに、今ではすっかり日も高くなっていた。
――懐かしい夢を見た気がする。
ゆっくりと上体を起こし、ベッドの方を確認する。そこでは、リーレが寝息を立てることもなく、静かに眠っていた。
――少し魔力と呪力の消耗が見られるな。何かと戦闘でもしたのか……?
セイルは疑問に思った。
旅の道中でセイルはリーレを圧倒したものの、その実力は中々のものだと感じていた。宿でも、暴走したとはいえ、扱ったことがないというのが疑問に思える程の威力の魔法を使っていた。半吸血鬼や吸血伯爵と戦うには早いとは判断したものの、それは相手が悪いだけであり、実力そのものではそこまで変わらないだろうと考えていた。
そんなリーレが、使い慣れていないような魔法を使ってまで戦う程の敵がいただろうか。この街には吸血鬼が多いとはいえ、そこまで活発に動けている訳でもない。神盾聖騎士団が居るにしても、気づかれるような杜撰な偽装をしたつもりはなかった。
――また、これは何か有りそうだな……。
溜息を一つ吐き、昼食でも食べに行こうかとセイルは立ち上がった。
§
夕方、武器の手入れや魔導具の調整をしていたセイルは、リーレが目覚めていることに気がついた。
「いつまでも寝たフリをしているな」
セイルがそう声をかけると、
「うう……あと五分……」
などと戯けたことを抜かすので、セイルは魔力を小さな氷塊に変換し、それを飛ばしてリーレの背中に入れた。
「――ひにゃわっっ⁉――?……!?」
思わずといった様子で口から飛び出た声に、セイルは笑ってしまった。
「ちょっと、何するんですか……!わ、笑わないで下さい!」
――吸血鬼も二度寝はするし、背中の冷感には弱いのか。
そんな茶番はさておき、セイルはリーレに今後の方針を話し始めた。
「この街に来た理由は、お前を昇化させるためだ」
「より高位の吸血鬼になるため、ですか」
「そうだ。昇化のための条件は様々だが、基本の不死族であれば、その呪いを強化することが条件となる」
昇化というのは、その存在の位階が上昇することだ。主に魔物に見られる現象で、それには基本多くの魂が必要になる。取り入れる魂の種類で、昇化の先が変わることもある。
吸血鬼にしても、人間や魔物などを多く殺すことで呪いが強まり、昇化を促すことができる。
「私に、この街の人間を虐殺しろ、ということですか?」
「いいや、違う。それよりも、もっと適任がたくさんいる」
しかし、この街の近くには魔物の大規模な生息地もない。じゃあ、何が――
と、そこまでリーレが考えたとき、頭に昨夜の戦闘が思い浮かんだ。
「ま、まさか……」
「そう、吸血鬼を狩る」
魂を呪いに変換し取り入れるなんてのは非効率的だ。呪いを吸収したほうがずっと効率がいい。
そうセイルは続ける。
別に昇化の贄を別種族に限る必要性はない。むしろ、数の多い種族であればそれを狙わないのはもったいない。虫の魔物であれば、孵化直後にまだ動けない兄妹達を喰らって昇化するなんてのは特段珍しくもなく、またそれは本能により刻まれた行動だ。
吸血鬼などは人間をベースにしているからか、あまりそういった点に気が付かなかったのかもしれない。もしくは同族を殺すのに躊躇したのか、まあそれはどうでもいい。
「幸い、この街には吸血鬼どもが腐るほど居る。ここでしばらく鍛錬に励むといい。実戦経験も積めることだしな」
と、ここでセイルは一度言葉を切って、リーレの方を向いた。
「ところで、昨夜は何と戦った?」




