第十話 脱出と神盾
前回からそうですが、視点が入れ替わります。
♰[セイル]♰
「少しいいかしら、冒険者さん?」
(――ッ⁉マズいマズいマズい!)
セイルは焦った。リーレの姿が見えないので、魔法の精度が甘くなっている。そこにアリサが来たのだ。泣きっ面に蜂である。
異変に気が付いたリーレは確実にセイルを探すだろう。そうなると、アリサに見つかってしまう可能性がある。魔法の精度が甘い状態で接触すれば、厄介なことになるのは間違いない。セイルはアリサが見つけるより先にリーレの魔法を正常な状態に戻さなければならない。
不審に思われても困るので、セイルはアリサと会話する。
「おはようございます、騎士様。何か御用でしょうか」
「いえ、今日も情報収集よ。ちょっと見覚えのある顔が見えたから、気になって声をかけたの」
嘘である。アリサはここ数日、セイルを探して街中を探していたのである。もちろんセイルはそんなことを知る由もないが、その言葉が嘘であるということは分かった。セイルは嘘を見抜くことができる。人は嘘を吐くとき、ほんのわずかだが魔力に揺れが生じる。ギルドにある嘘発見器的なものは、それを感知することで嘘を見抜く。セイルはそれを自分の力で再現することができる。ただし、それはかなり集中力がいる。すこしリーレの魔法に揺らぎが生じてしまった。
(しまった!)
ただしそんなことは感じさせないよう、平常心を装って会話をする。
「そうですか。お勤めご苦労様です」
ちなみに『ご苦労様』は上の立場の者が下の立場の者に言う言葉であって、この場合だいぶ不敬になるのだが、セイルはもちろんアリサもそんなことは知らない。
「ところで、顔に受けた傷はもう癒えたのかしら?」
セイルはこれだ、と思った。
「ええ。ちょうど昨日に教会で治してもらいました。気にかけてくださりありがとうございます」
そう言ってセイルはフードを取った。
♰[リーレ]♰
視界が、真っ暗になった。
(⁉)
何も見えなくなり、リーレは立ち尽くす。終わった―――リーレはそう思った。
しかし、いつまで経ってもリーレに対する驚きの声などはない。いや、ないわけではなかった。一人の少年が、え?と声をあげた。しかしその声は誰にも聞かれることはなく、街の喧騒に呑まれていった。
人々は、まるでリーレなどいないかのように通りを歩いて行く。
しばらくして、リーレに声がかかる。
「おい、勝手にどこかへ行くな」
セイルだった。
明日投稿する予定の第十一話で第一章は完結です。




