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かわいいに救われて今を生きる  作者: 餅月ドン
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一話② 「始まる日常、終わる一生」

 

「はい、今日はこれで終わりです。今年一年間よろしくお願いします。では、えー、解散」


 スーツと眼鏡を着用し、かしこまった態度の四十代の男性担任教師の清水先生が締めの言葉を述べ、教室から立ち去った。


 私の右の方で集まった女子三人組が「井上先生が良かったよね~」などと不満な気持ちを出しつつも盛り上がっている。

 私は椅子にまたがるように後ろを向き、後ろの席の黙々と帰宅準備を進めている男子に話しかけた。


「サッカー部の人いなくて残念だったね~」


「ほんとだよ、なんで俺のクラスだけサッカー部いねぇんだよ。」


 同学年のサッカー部員は総勢二十人、学年のクラスは全八組、なのにだ。まぁないこともないだろうが、それなりに予想外で悲しい結果であったことは間違いない。

 兄は感情が表に出やすい。多分今は、、うん、早く他クラスの友達に会いに行きたいようだ。

 そんな兄の態度を愛華は可愛く思う。


「まぁ、仕方ないよ。私は琴子ちゃんと奈々ちゃんとこれから過ごすつもりだからお兄ちゃんに構ってあげられないかも~頑張ってね!」


「はいはい、頑張って生きていきますよ」


 琴子とは同じ吹部の友達であり、一年の頃から愛華とは仲良くしている。奈々という人物は今朝初めて会話をした存在のようだ。

 友達いいな~と思いながら、俺は荷物を持って教室を後にした。



 教室を出て同じサッカー部の尾田の下へ向かったが、尾田は数人で仲良く話している最中であった。和希に気づくと手を振ってきたが、邪魔をしては悪いと思い、手を振り返すだけして家の近所にあるスーパーに向かった。



 毎日兄妹のどちらかが朝食や夕食を作っている為、愛華には負けるが和希にもある程度の料理スキルがある。和希はスーパーに向かう途中で作るものを考えておき、着いたら速やかに麻婆茄子の材料と昼飯用のカップ麺を購入して家に帰った。

 手洗いうがいを済ませ、二階の自分の部屋のベッドにダイブし、スマホゲームを始める。

 始めたゲームは『アドベンチャーワールド』というRPGの類のゲームで、主人公は自分。目的はモンスターを倒して世界を救おうという、よくある設定のものだ。


「あっぶね、このレベルでもギリギリなのか」


 今日から配信開始のこのゲームだが中々に難しい。

 途中、カップ麺を食べたりコーヒーを飲んだりしたが、始めてから既に五時間が経過していた。

 レベル上げに時間をかけ、強敵を倒す際には少し余裕を持てるようにするのが和希流なのだが、このゲームは他のゲームと比べて敵が強く感じるらしい。

 ゲームガチ勢というわけではないが、和希はゲームが好きである。

 休みの日に和希がしていることといえばゲーム、アニメ、漫画の三択であり、部活や学校がない日は常に家にいるといってもいい。



「お、もうこんな時間か。この辺で終わりにしておくか」


 体勢を変えた際に壁に掛けている時計が目に入った。

 窓の外は夕陽に染まり、穏やかな雰囲気に包まれている。

 なんとなく駆け足で下の階に降り、台所で手をしっかり洗ってから夕食の支度を始める。

 慣れた手つきで炊飯器をセットし、テレビをつけて録画したアニメを見る。リビングにあるテレビがキッチンから見える構造の家の為、料理をしながらアニメを見れるのが有難い。

 一話を見終わり、二話目のCMを飛ばそうとリモコンを操作していたらドアの開く音がした。


「ただいまー、あぁ疲れた。ん、良い香り!」


「おかえり。夕食は麻婆茄子ね」


 疲れが食欲をそそる香りで吹き飛ばされたのか、愛華は速やかに手洗いうがいを済ませ、ご飯の盛り付け作業に入った。


 二人とも手を合わせてしっかりと「いただきます」と唱えてから夕飯を口にする。




 夕飯を食べ終え、後片付けを済ました2人はソファーに座り、片方はスマホゲーム、片方は友達と連絡を取っていた。


「お兄ちゃんは今年楽しめそう?」


「んー、まぁなんとかしてみるよ。」


「私たちの仲間にしてあげよっか?」


「いや、それは遠慮させて。明日は頑張って誰かと話してみるよ」


 妹の優しさを感じ、兄として妹に不安を感じさせない為にも明日は頑張ろうと心に軽く誓う。


「あ!そういえばアイス!」


「…忘れてた。どうする?今から買いに行く?」


「いい?じゃあ行こー!」


 約束を忘れてたことに少し謝罪の気持ちを持ちつつ、愛華テンション高いな〜と思い、部屋に戻る。

 黒の財布を持ち、黒いパーカーを羽織ってドアを開けると、同時に愛華も部屋から飛び出してきた。二人は縦に並んで階段を駆け降りて近くのコンビニへ向かった。


「苺のアイスがいいかな~」


「なんでもいいよ、俺チョコのやつなんか買お」


 コンビニに到着して入口の左側にあるアイス売り場で目当てのものを探す。俺は即断したが愛華は二つで迷っているようだ。その様子を見た俺は、部活も頑張ってるし買ってやるかと考え、その二つと自分が選んだチョコのアイスを持ってレジに行き、会計を済ます。


「アイスあんなにあったら迷っちゃうよね。ありがと、二つ買ってくれて」


 二人はアイスを食べながら家に向かっている。

 和希はチョコの棒アイス、愛華は苺味の棒アイスと期間限定の甘酒味の棒アイスを買った。


「お兄ちゃんありがとね〜。それもちょっと欲しいなー」


「ん、いいよ」


「あー、これもまた美味ですな」


「苺もいいなーやっぱ」


 交差点の信号が赤になったので止まる。

 ちょっと甘酒味のアイスとはどんな味なのか気になるが、それはまた次の機会があることを願おうなどと適当に考えて、信号が青に変わるのを待っていると愛華が話しかけてきた。


「明日からの学校生活楽しみだな〜!」


「仲良しさんがいるのって良いよな〜」


 信号が青に変わり、停止していた足を動かす。


「琴子ちゃんと奈々ちゃんもそうだけど、私はお兄ちゃんと同じクラスなのが凄く楽しみなんだよ」


 隣を歩く妹が口角を上げ、八重歯をちらつかせて言ってくる。

 なんだよ、可愛いなおい。


「ありがとな。俺も愛華と同...


 ん?


 眩しい。


 あ、




 衝撃が走った。

 なにが起きたかわからない。

 身体が熱い、寒い、わからない。



 地面に倒れてるのか、俺。



 愛華、愛華は、!?


 あ、。。

 顔を左に向けるとそこには赤に塗れた妹の姿が。…


「愛華……ありがと、ごめんな」


 二人は手を繋ぎ、、そして、この世界から去っていった。

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