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かわいいに救われて今を生きる  作者: 餅月ドン
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一話① 「始まる日常、終わる一生」

 

 雲一つない青空に太陽が光り輝き、春の香りを含んだ風が心地を幾らか良くしてくれる。


 俺は今日、とても憂鬱である。


 理由は簡単、始業式だからだ。今日から高校二年生の生活が幕を開けてしまう。

 家から学校までの道をたらたらと歩きながら、和希は前を歩く女性に話しかけた。


「はぁー。なんで愛華さんはそんなに元気なんですかね?」


「え~、だって、新しい友達できるかもじゃん!お兄ちゃんは楽しみじゃないの?クラス替え。」


 後ろを振り返り、肩の辺りまでかかる艶やかな黒髪をなびかせてルンルンに答えるのは、和希の双子の妹の水野愛華だ。彼女は小柄な身体を大きく動かし、周囲に笑顔を振り撒く。近所のおばちゃん達からも好かれる元気っ娘だ。

 さらに、大きな黒瞳、笑うとチラッと現れる八重歯を持ち整った顔立ちの彼女は、誰もが認める、「素晴らしく可愛すぎる」と。

 兄である俺すらも可愛いな~と思うことがある。実はこっそり待ち受けにしていたことも、まぁ内緒だが。


「ん~、楽しみなような楽しみじゃないような。サッカー部の何人かと同じだったらいいな~」


 そう答えたのは愛華の双子の兄である水野和希、サッカー部に所属する高校生だ。

 言われるがままに授業を受け、放課後には嫌なコーチの下でのサッカーの練習を適当に流してから帰るような、なあなあな高校生活を過ごしている。

 低身長だが、容姿は整っていて和やかな笑顔をもつ。優しい性格だが少し人見知りなため、友達と言える存在があまりいない。友達と言えるのはサッカー部と他に数人程度だろう



 和希と愛華は今から十年前、二人が六歳の時に両親を事故で亡くしていた。

 その後は母方の祖父母の下で成長していったのだが、その祖父母も昨年の初めにこの世を去った。現在は海外在住の叔父から生活費や学費、娯楽費等を支給してもらって二人で日々を過ごしている。


 こうした背景をもつ和希と愛華は自然と信頼関係を築き、仲の良い双子兄妹のまま十六歳まで育った。


「愛華は何組だと思う?」


「んー、四組かな~。お兄ちゃんも四組な気がするからよろしくね!」


「まじか、双子で同クラなんてあるのかな?」


「見事的中致しましたら、お兄様、アイスをお与えくださいませ~」


「はいはい、外れたらそっちもアイスお願いね」


 愛華は少しふざけた調子で賭けを挑んできた。

 愛華の勘はよく当たる。

 俺がババ抜きで愛華に勝つ確率はもはや一割にも満たないのではないかと思えるほどだ。

 でも、この賭けは流石に当たらないだろう。そんな楽観的な思考を俺は持っていた。


「ほいよー。あ、そういえば今日の晩御飯頼める?」


「今日はオフだし作れるよ。愛華は部活?」


「うん!新入生歓迎会もうすぐだし。少し遅くなっちゃうかも。」


「おけ、頑張ってね」


 愛華は吹奏楽部に所属し、オーボエを担当している。新歓で吹部は演奏を見せるみたいだ。

 高校入学まではピアノを習っていて、素人の和希から見ても愛華には音楽の才能があるのだと確信できるほどの技術を持つ。

 しかも、愛華は勉強の方でも優秀で、新二年生の中ではトップクラスの成績を収めていた。



「人が集まってるね~、あ!琴子ちゃんいた!」


 学校の門の前に着いた二人は、昇降口の前に人だかりができているところに向かう。

 昇降口の前には名前の書かれた大きな紙が張り出されて、何人もの学生がクラス替えに関する話題で盛り上がっている。


「私たちのクラスは~っと、、あった、四組だね!一緒だね!」


「まじかよ…アイスあとでね。」


 約束を守ることを伝えて自分たちのクラスメイトを確認した後、和希は重い足取りで四組の教室に、愛華は軽い足取りで琴子の下へと向かった。

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