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第80話 イギリス攻防戦 その4

よろしくお願いします!

<side エリザード>


 ウィリアムが何処かへ行ってから暫くすると、爆弾を持って特攻する国民はいなくなった。


「女王陛下!先ほどウィリアム騎士団長からギリアムを倒したと連絡が来ました!!」


 部屋に入ってきた騎士の言葉を聞き、ほっと胸をなでおろす。


「ならば、後は門の近くにいる敵を押し戻し再び門を閉じるだけです。あと少し、頑張りましょう」


 気合を入れ直そうとしたその時、騎士から予想外の言葉を掛けられた。


「いや、それが……敵は突然撤退していったのです」

「ほ、本当ですか!?」


 急いで外を見ると、そこには確かに門から離れていく敵の姿があった。


「ど、どうして……いえ、ともかくこれはチャンスです。すぐに門を閉じなさい!!」

「はい!!」


 空を見れば日はもうほとんど沈みかけていた。


 敵にとっては間違いなくチャンスだったはず。でも、敵は引いていった。その理由は分からないけれどともかくこれで明日を凌ぐことが出来れば私たちの戦いに負けは無くなるはずだ……。


「そういえば、ウィリアムはまだ帰ってきてないのですか」

「いえ、まだ戻ってきてはいません。ですが、騎士団長のことですから敵にやられたということは無いと思うのですが……」


 ウィリアムが負けたということは目の前の騎士が言う通り考えにくい。なら、何故まだ帰ってきていないのだろうか。


「……嫌な予感がしますね」


 私の予感は的中しており、その日のうちにウィリアムが王城に帰ってくることは無かった。


<side end>

***


<side 神崎>


 味方の騎士たち全員が喜んでいた。

 それだけ今日を無事に乗り切れたことが彼らにとって価値があったんだろう。正直、エリザード女王が国民とは言え爆弾を持ちこちらに敵意を持った人を王城に入れた時はその判断を間違いだと思った。


 けれど、騎士たちは奮闘し結局、死者を出すことなく今日を乗り切った。


『光!何をしているんだ?君もこっちに来い!』


 騎士団の中で数少ない日本語を喋ることができる人の一人であるクリスさんに声を掛けられる。


『あ、いえ……俺は今日はほとんど活躍できませんでしたし、せめて夜くらいは警備に回りますよ』


 イギリスに来てから俺は殆ど戦いでは役に立てていなかった。俺の異能は俺との間に絆を感じてくれる人間が多いほど力を発揮する。

 だが、イギリスに俺の知り合いは殆どいない上に言語の違いから上手くコミュニケーションを取ることも出来ていなかった。


 それでも俺の異能を知った騎士団の人たちの協力もあり、それなりに戦えてはいるが他の異能力者たちと比較した時に俺が活躍できていないのは明らかだった。


『はあ……。神崎、ちょっと付いてきてくれ』


 クリスさんはそう言うと、俺の腕を引いていった。


『え……ちょ、ちょっとクリスさん!?』


 クリスさんは互いに今日の戦いを労っている騎士団たちの中に俺を連れて入っていった。


「~~~」

「〇×△」

「□☆◇」


 クリスさんと騎士団員が何やら英語で話をしているということだけは分かった。

 やはり言葉も分からないし、ここに俺がいるのは場違いだ。


 そう思った次の瞬間、俺の近くにクリスさんと話をしていた騎士団員たちがやって来た。

 彼らは真剣な表情で俺の肩に手を置くと、笑顔を向けてきた。


『カンザキ、ダイジョーブ!』

『ダイジョーブ!』


 一人を皮切りに次々と俺に大丈夫だと声を掛けてくる騎士団の人々。


「え……え……ど、どういうことですかクリスさん!」


 クリスさんに尋ねると、クリスさんは俺の近くに来て喋りだした。


「君が俺たちの仲間になった時、皆に聞かれたんだ。君と仲良くなるために日本語を教えてくれってな」

「な、なんで……」

「俺たちは供にリバーシと戦う仲間だ。仲間と仲良くなろうとすることは別に可笑しいことじゃないさ。まあ、君の異能を強化しようという打算も多少はあるのかもしれないけどね」


 俺の周りで未だに大丈夫と言い続ける騎士団員の方々を見る。心のどこかで俺は言い訳をしていたのかもしれない。

 俺が活躍できないことは仕方ないと、ここじゃ俺の異能は力を発揮できないから俺が戦えないのは仕方ないんだと。


 でも、違うんだ。ここにいる人たちはこんなにも俺を受け入れようとしてくれている。それなのに言語を理由にこの人たちを積極的に関わりを持とうとしなかったのは俺だ。

 俺が活躍できないのは他でもない俺のせいだったんだ。


『……はは。こんな俺が絆の異能力者でいいのかな』

『いいに決まっている』


 俺の独り言に答えたのはクリスさんだった。


『……と俺は思う。最初は誰だって力も覚悟もない。君は異能力者である前に一人の高校生だ。悩んで当然、間違えて当然なんだ。君はこれから時間をかけて少しづつ成長していけばいい。君が成長するまでの間は俺たちが君を支えるさ』


 そう言ってクリスさんは俺の頭を撫でてきた。

 その手は温かく、クリスさんの言うことを聞くと不思議と心が落ち着いた。


「~~~!」

「○○×!!」


 意味は分からないが、クリスさんの周りにいた騎士団員たちも俺に何か声を掛けてくれていた。


『なんて言ってるんですか?』

『何も心配するな。神崎は俺たちの大事な仲間だ。一緒に戦おうって言ってるよ』


 自分の愚かさに涙が出てきそうになる。

 近くにこんなにもたくさんの仲間がいるのに、そのことにも気付かずに絆の異能の本来の力を発揮できなかった。

 俺がもっとちゃんとしていれば負傷者だって減ったかもしれない。


『Thank you』


 英語で感謝を伝える。

 いつまでもくよくよしているわけにもいかない。俺は絆の異能力者だ。明日は、この最高の仲間たちと供にリバーシを倒すんだ。



<side end>

***



「ほっほっほ。噂通り騎士団長様はかなりの実力を持っておるようじゃのう」


 夕暮れ時の教会の中、ギリアムを倒したウィリアムに近づく影が一つあった。


「……誰だ」


 ウィリアムが剣の切っ先を向けた先には一人の老人がいた。


「ほっほっほ。儂は邪鬼。いわゆる八鬼神と呼ばれる者の一人じゃよ」


 老人の言葉に警戒心を高め、老人を威圧するウィリアム。

 しかし、ギリアムを圧倒したウィリアムの威圧を受けても老人は平然としていた。


「おー怖い怖い。全く老人に対して優しさが感じられんのう」

「何が目的だ」


 ウィリアムの言葉に笑みを浮かべる邪鬼。


「提案をしに来たんじゃよ。もしお主が儂の提案に乗るならば、お主の願いは叶うぞ?」

「リバーシに所属する貴様の提案に乗る必要などない」


 邪鬼の言葉を無視し、剣を振り上げるウィリアム。しかし、彼の動きは次の邪鬼の一言で止まった。


「お主の大切な女王様を普通の女の子に戻せるとしてもか?」


 僅かに止まったことでできたウィリアムの隙を邪鬼は見逃さなかった。


「まあ、話を聞け。騎士団長よ」


 ウィリアムの背後に周り耳元で囁きかける邪鬼。そして、邪鬼の狙い通りウィリアムは動きを止め邪鬼に耳を傾けていた。


「お主はエリザード女王を普通の女の子に戻したい。そうじゃろ?なら、儂らに力を貸せ。そうすればあの女は晴れてイギリス女王の立場からは解放される」

「……だが、それはエリザード様の望むことではない」


 自らに言い聞かせるようにウィリアムはそう呟いた。


「じゃが、このまま女王を続けてもあの女王は幸せにはなれんぞ?あの女王に待つ未来は破滅じゃよ。儂らとの戦いによって傷つく仲間たちを見て心を痛め続ける。それでもあの女王は戦い続ける。心が壊れるまでじゃ」


 邪鬼の言葉にウィリアムは何も言い返すことはなかった。


「何、安心するがいい。あの女王が大切にしているイギリス国民は儂が責任もって保護すると誓ってやるわい。分かるじゃろ?ここで戦いを終わりにした方がいいんじゃよ。イギリスという国のためにも、お主の愛する女王のためにもな」


 ウィリアムという男が幼いころからエリザードという一人の女の子を見続けていたからこそ感じていた思い。女王ではなく一人の女の子としての幸せを掴んで欲しいという願い。

 そこから生じる僅かな心の隙間に邪鬼は入り込んだ。


 邪鬼の『反転の異能』は覚醒することで新たな能力を得る。それは物事を歪曲させるという能力である。

 真逆とまではいかないまでも、少しだけ物事を捻じ曲げる。それは時に、反転よりも恐ろしい力を発揮する。


 そして、今回ウィリアムの思いは邪鬼によって捻じ曲げられた。愛するエリザード女王のためにイギリス王城を落とすことが正解なのだと。


 ゆっくりと剣を下ろすウィリアム。その瞳は濁っていた。



 初日を乗り越えたエリザード女王率いるイギリス。しかし、二日目を前にして彼らは最大の手札を失ってしまったのかもしれない。


 彼らがそのことに気付くまでにそう時間はかからない。イギリスの命運をかけたイギリス王城攻防戦二日目が幕を開ける。


初日が終了!

次回から二日目!テンポよくいけるように頑張ります!

ですので、これからも是非読んでやってください!

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