第77話 イギリス攻防戦 その1
お久しぶりです!
これからまたのんびり書いていこうと思います!
<side エリザード女王>
ギリアムが私たちを裏切っていたということが分かった翌日、日本から三人の異能力者がやって来た。
「日本から来ました金富美月です。こっちの二人は聖園優理と神崎光です」
「来てもらって早速で申し訳ないのだけれど、この国をリバーシから守るための協力をお願いしてもいいかしら?」
「はい。私たちはそのために来ていますから」
やって来た三人の瞳には強い光が宿っているように感じられた。金富美月は世界的にも名前が知れ渡っている。
恐らくこの三人は強力な助っ人になってくれるはずだ。
「クリス!この三人と騎士団員で挨拶を済ませといて。それと、必要な情報交換を早めに済ませときなさい」
「は!!」
近場にいたクリスに三人を残し、奥の部屋に入る。
部屋の中にはマーリン様が待っておられた。
「お待たせしました。リバーシの動きで何か分かったことはありますか?」
険しい顔つきのマーリン様はゆっくりと口を開いた。
「……恐らく、明日には襲撃をかけられる」
早いとは思うが、それでも可能性としては十分高いと考えられる範囲内だ。
「敵の狙いはイギリス王城だけでしょうか?国民が狙われる可能性はありますか?」
「……国民が敵になるかもしれない」
マーリン様の口から出た言葉は私が予想していないものだった。
「そ、それは……淫鬼が来るということですか?」
「……邪鬼も恐らく来る」
『淫鬼』と『邪鬼』。悪名高い八鬼神の中でも集団戦において最強と呼ばれる二人だ。
淫鬼の操る魅了の異能力は使用者の外見と相まって、男女問わず簡単に多くの人を魅了し操ってしまう。
そして、邪鬼の操る反転の異能力はあらゆるものを反転させることができる。好意は悪意となり、悪意は好意となる。
噂によれば、ドイツは邪鬼によって滅びることになったと聞く。
「ならば、私たちはどうすればいいんでしょうか?」
その二人が来る可能性が高い以上、対抗策を練らなくてはならない。
「……打つ手はない」
だが、マーリン様の口から出た言葉は非情なものだった。
「そんな……!何か、何かないのでしょうか?」
マーリン様が静かに首を横に振った。
「……この国の国民の愛国心は高い。それは、あなたの努力のおかげと言える。でも、今回はそれが逆手に取られた。それに、もうリバーシは市民への下準備は恐らく既に終わっている。全世界で嫌悪の対象となるリバーシは、邪鬼の異能で憧れの対象となる。そのリバーシが、自らが少なからず嫌悪している国を討つとなれば……」
「手を貸さない理由がない……」
マーリン様が静かに頷く。
そんな……。
今までに国民のために努力してきた。この国の人々をリバーシと言う脅威から守り、幸せにしようとしてきた。
その思いは国民にも伝わり、私は国民に支持されるようになった。でも、今回はそれが全て逆効果になってしまった。
「……正直、今回の戦いで私たちに勝ち目はほとんどない」
マーリン様の言う通りだ。だが、それでも……私は諦めるわけにはいかない。
「それでも、私たちは戦います。アドバイスありがとうございました。マーリン様は早くこの城からお逃げください。あなたの異能はリバーシから恐らく狙われています」
マーリン様を背に、部屋から出ようとする。
しかし、その私をマーリン様が呼び止めた。
「……勝ちはないかもしれないけど、負けはなくせる」
「どういうことですか?」
足を止め、マーリン様と向き合う。
「……明日と明後日の二日間を凌ぐことが出来れば何とかなるかもしれない」
「二日間もですか」
リバーシと悪意を持った国民を相手に二日間、国民を殺すことなく王城を落とされないように耐え抜く。
正直、かなり厳しい。でも、やるしかない。
「分かりました。二日間ですね。何としても耐えてみせます」
「……お願い。後は私に任せて欲しい」
部屋を後にして、王城内にいる権力者を素早く集める。
時間はないが、二日間を耐え抜くための話し合いをしなくてはならない。
<side end>
***
<side ギリアム>
薄暗い部屋の中に一組の男女が私を見て笑っている。
「さっき報告があったけど、やっぱり王城内に潜んでいた構成員は全員捕らわれちゃったみたい」
「ふむ。そうなると作戦の第一段階は失敗みたいじゃなぁ……。誰のせいじゃろうなぁ」
「そうねえ……。誰のせいかしらねぇ」
ニヤニヤとした表情で私の方を向く二人。私の失敗を心の底から楽しそうにしている目の前の二人が自分の味方とは思えなかった。
「申し訳ありませんでした、淫鬼様、邪鬼様」
下唇を噛み、頭を下げる。屈辱的だった。
「あら。別に私はあなたが騎士団員を逃したことを責めてはいないわよ。ただ、調子に乗ってたのに無能力者のシンにあんなにあっさり追い詰められちゃうなんてねぇ」
馬鹿にしたような笑みを浮かべる淫鬼。
「儂も別に怒ってはおらんよ。それにお主の作戦がなくとも準備は十分すぎるほど整ったしの」
暗にお前など必要ないと告げてくる邪鬼。
この二人にとっては自分など道端の石ころ程度の存在なんだろう。たまたま利害が一致していたから味方に入れただけ。
腹立たしいが、目的を達成すればこの二人との関係性もお終いだ。
「それなら良かったです。明日はよろしくお願いします」
この二人がいれば負けはない。私の目的のためにも利用できるだけ利用しなくてはならない。
しかし、二人の返事は私の予想とは全く違ったものだった。
「あ、明日は私高みの見物しとくから」
「儂もそのつもりじゃよ」
「な……!何故ですか!今回はあなた方にとっても重要な作戦でしょう?」
焦りを抑えつつ疑問をぶつける。
「まあ、そうなんじゃがな。ギリアムとやら、お主は一応儂らの仲間になりたいんじゃろ?」
「え……まあ、そうですね」
「別に儂らは来るもの拒まずじゃが、お主は違う。お主はイギリスが欲しいんじゃろ?なら、儂らがイギリスを奪った後に、そこを任せてもいいと思えるだけの力を示して欲しいのぉ」
邪鬼はこちらを一瞥してそう言った。
要は試されているのだ。自分がリバーシとして有用な人物であるかどうかを。
既に一度失敗している以上、この申し出を断れば私には大した力も度胸もないという判断を下されることになるだろう。
ならば、選択は一つだ。
「分かりました。淫鬼様と邪鬼様の力を借りずとも、私だけの力ですぐにイギリスを落としてみせましょう」
「楽しみにしておるよ」
「それじゃ、また明日ね」
最後に、私に声を掛けて二人は部屋を後にした。
ここまで来た。あの女王を裏切り、リバーシと手を組んでまで私は権力を求めた。
あと少し、もう少しで私は人生の勝ち組となり支配する側にいける。
リバーシという脅威にも怯えず、目上の人間を気にすることもなく自由に生きることができる未来が目の前まで迫ってきている。
「失敗は許されない。私の未来のためにも犠牲になってもらいますよ……女王」
そして、夜は明けイギリスとリバーシの戦いが幕を開ける。




