幕間 Ⅶ
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<side 聖園優理>
心君と仲違いのような形になった一週間後、私は両親から心君がイギリスに行ったとということを聞いた。
何でイギリスに?ヨーロッパがリバーシの本拠地だってことは世界中の人全員が知っていることだ。
どうしてそんな危険なところに行くの?
心君の思っていることが全然分からなくて、私は混乱していた。そんな時に、私たちは政府から仕事を与えられた。
「聖園さん、神崎君、準備は十分かしら?」
空港で金富さんに声を掛けられる。政府からの仕事と言うのはこれからのリバーシとの戦いに備えイギリスに行き、イギリスの方々と協力しろというものだった。
仕事である以上、私はイギリスに行くことに承諾したが心の中は乱れ切ったままだった。
飛行機に乗ると、私の隣に金富さんがやってきた。
「聖園さん……心君のことについて少しいいかしら?」
「はい……」
金富さんは隣に座るとゆっくりと話し始めた。
「心君がイギリスに言った理由をあなたは知っている?」
「いえ……知りません。金富さんも知らないんですか?」
「ええ。残念ながらね」
「……私、心君に酷いこと言っちゃったんです。助けに来てくれたのに、ありがとうって伝えなきゃいけないのに……。だから、きっと私のせいです……私のこと嫌いになっちゃって、私と離れたいと思ったから……」
ポロポロと涙が零れ落ちる。心君がイギリスに言った日から私は自分自身を責めてきた。謝りたかった、お礼を言いたかった。好きだって……伝えたかった。
でも、今更どんな顔してそんなこと言えるのだろう。心君の考えを理解できずに否定してしまった私にそんなこと言う権利なんてない。
「それは違うわね」
金富さんは涙を流す私にはっきりとそう言った。
「何でそんなこと言い切れるんですか……?」
「心君は聖園さんをその程度で嫌いになったりしない。私が好きになった心君はそんなに度量の狭い男じゃない。……聖園さんはどうなの?あなたが好きになった心君はその程度であなたを嫌いになるのかしら?」
私が好きになった心君は……優しくて、困っているときに助けてくれて、いつだって誰かのために頑張ってる。
「ならない……と思います……」
「そうよね。なら、シャキッとしなさい」
金富さんに両頬を挟まれ、顔を上げさせられる。
「それで、あなたに伝えておきたいことがあるの」
「ふ、ふぁい……」
私の返事を聞くと、金富さんは心君がイギリスに行った本当の理由を話し始めた。
「心君がイギリスに行く前日に私の家に心君が来たみたいなの。そこで、心君はお爺様にこう言ったそうよ。『誰にも迷惑を掛けず、誰にも頼る必要のない強さを手に入れます』」
「そ、それって……」
「気付いたかしら?私と聖園さんには共通点がある。……それはシン君に救われたっていうところ。そして、心君を愛しているっていうところよ」
金富さんの目には悔しさがにじみ出ていた。
「私たちのせいでシン君は一人で戦える強さを求めているのかもしれない。それこそ、もう二度と私たちが辛い思いをしなくて済むように一人で全てを相手にできるほどの強さをね。……私はそれが凄く悔しい。私だってシン君の隣にたって戦える。私は、シン君に頼られたい……」
あの日、心君の別れ際に見せた表情を思い出す。そう言えば、あの時心君は何処か悔しそうな申し訳なさそうな顔をしていた気がする。
心君は悪くないんだ……心君に頼られない私が、私の弱さが悪かったんだ。なのに、私は自分の弱さに目を背けて心君のせいにしてしまった。
なら、私がしなきゃいけないことはきっと一つだ。
「私もです。……私も心君に頼られるようになりたいです」
「聖園さん……いや、これからは優理と呼ばせてもらうわ。優理、私たちの目的は一緒よ」
「そうですね。美月さん」
美月さんが差し出した手を握る。
「「心君と供に戦えるようになる」」
迷っていたけど、もう迷いはない。イギリスに行くことが出来るのは運が良かった。イギリスでシン君の横に立つ。そして、幸せな未来を心君と一緒に掴むんだ。
***
<side エリザード>
シンがギリアムと供にイギリスを出た次の日に、日本から三人の異能力者がやって来た。三人はどうやらリバーシと戦う上で先立って連携を強化したいと日本から派遣されたようだ。
内部に裏切者がいる可能性がある今、日本の異能力者の存在はありがたい。調べたが、怪しいところもなく強力な助っ人になりそうだ。
そして、シンとギリアムがイギリスを出てから三日が経過した。本来なら、このタイミングでギリアムからの連絡があるはずだが、連絡が無い。
これは何か異常事態があったのかと心配していると次の日、ギリアムではないが騎士団員から連絡があった。
そして、その連絡は信じられない内容だった。
「クリスとウィリアムを呼びなさい!!」
「は、はい!!」
近くにいた使用人にすぐクリスとウィリアムを呼びに行かせる。もし、この報告が本当ならすぐに手を打たないと不味いことになる。
「エリザード様お呼びでしょうか?」
暫くするとすぐにクリストウィリアムがやって来た。
「ギリアムが裏切った可能性があるわ」
「な……本当ですか!?」
クリスが驚いたように声を上げる。一方で、ウィリアムは目を閉じて何かを考えているようだった。
「まだ完全にそうと決まったわけではないわ。でも、その可能性は高い。急いで全ての騎士団員を調査しなさい!もし、ギリアムが裏切者なら騎士団員の中にリバーシの構成員が紛れ込んでいるわ」
「はい!」
「はい」
ギリアムは変化の異能力者だ。その能力を使えば、人を誰かそっくりの見た目や声に変化させることができてもおかしくはない。
ギリアムが副騎士団長として遠征に行きだしたのは半年前だ。もしかすると、このイギリスの王城には既にリバーシの魔の手がすぐそこまで来ているのかもしれない。
そして、暫くするとクリスが部屋に入ってきた。
「残念ながら……ギリアムは黒です。今、王城にいる騎士団員の中でも数十人が偽物であることが確認されました」
「そう……。王城の外部に出ている騎士団員の人数は確認できるかしら?」
「はい。現在、100人近くの騎士団員が王城の外に出ています。しかも、確認したところその100人のうちほとんどのものと連絡が途絶えています」
やられた。王城外にいる騎士団員はほとんど全員がリバーシ側の人間だと思うべきだろう。このままでは確実にその偽物の騎士団員に手引きされたリバーシが襲撃してくるだろう。
時間は少ないが、リバーシの襲撃を簡単に許すわけには行かない。
「クリス、直ぐに王城内にいる騎士団員にいつでも戦えるように準備をするよう伝えなさい。それと、国民にリバーシの襲撃の恐れがあることを伝えて。それと、各地の警備隊に連絡して異変が無いか情報共有しなさい!時間は限られているわ!急ぎなさい!!」
「はい!」
国内はこれくらいしかできることはない。後は、国外だ。背に腹は代えられない。他国から協力を要請すべきだろう。
「やってくれたわね……でも、この国を落とせると思わないことね」
守り抜く。この国も、国民も何一つ奪わせさせない。
<side end>
***
次回からまた、主人公視点です。




