第69話 前哨戦 決着
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何故、戦鬼がここにいるのか。その理由は今朝の電話にあった。今朝、僕に電話を掛けた人物こそ他でもない戦鬼だった。その内容は仲間を二人見つけた。これからイギリスに戻るというものだった。
そのとき、戦鬼がオランダの辺りにいるということを聞いた僕は戦鬼に、ここに来てジャンヌさんの仲間を守るようお願いしたわけだ。
ここに戦鬼がいるということは、リバーシの襲撃には間に合ったということだろう。
突然現れた戦鬼にギリアムは動揺を隠し切れないようだった。
「な、何故……戦鬼がこんなところに!?」
「あー?誰だお前?」
ギリアムはリバーシと繋がっていると思っていたが、戦鬼はギリアムに見覚えはないようだった。
「まあ、どうでもいいか。おい、シン。残りはどうせこいつだけなんだろ?俺にやらせろよ」
「く……!いや、待てよ……。くくく……そういえば戦鬼は異能を失っているのでしたね。なら、私の敵ではありませんよ!」
戦鬼が異能を失っていることはリバーシの内部でもよく知られているようで、ギリアムは剣を持ち戦鬼に突っ込んでいった。
「貴方を倒して、逃げさせてもらいますよ!!」
ギリアムは剣を戦鬼に振り下ろそうとする。その瞬間、剣を振り上げガラ空きになっているギリアムの腹に戦鬼の蹴りが突き刺さった。
「ごばあああ!?」
地面を転がるギリアムに戦鬼が近づいて行く。ギリアムから余裕は完全に無くなり、顔を青ざめていた。
「ひっ!……す、すいませんでした!い、命だけはお助けを……」
命乞いを始めるギリアムの姿はあまりに惨めなものだった。
「ちっ……もう終わりかよ。つまんねえな」
戦鬼はそう言うと、ギリアムに背を向けて僕の方に歩み寄ってくる。その背後をギリアムが突き差そうと襲い掛かる。
だが、その程度の行動を読めないほど戦鬼は馬鹿じゃない。
「死ねえええ!!……なっ!?」
「てめえみたいな小物は本当にだまし討ちとかが好きだよなぁ」
ギリアムの剣を振り向きざまに戦鬼が刀で弾く。そして、ギリアムの腹に峰打ちを食らわせた。
「ごはっ!?」
その一撃でとうとうギリアムは気を失い、その場に倒れた。
「……これで終わりか……。中々歯ごたえのある相手ってのはいないもんだな」
「お前ほど強いやつが多い方が驚きだよ。あっちの方は大丈夫なのか?」
「ああ、安心しろよ。ちゃんと二人に守り抜けって言ってあるからよ」
「なら、いいんだが……」
僕と戦鬼が気を失っているギリアムを横目に会話をする。いつの間にか、僕ら以外の戦いも終わりを迎えているようだった。「鼓舞の異能」はやはり強力で、見る限り怪我人はちらほらといるものの重傷人はいないようだった。
その時、僕と戦鬼目掛けて誰かが突っ込んでくる。
「くっ……!」
咄嗟に刀で受け止めたものの、予想以上の力に僕と戦鬼は元居た場所から吹き飛ばされてしまった。僕らを吹き飛ばした人の顔を見ると、その目は虚ろなものになっていた。
「てめえが出張るほどそいつは重要なんだなぁ……淫鬼」
戦鬼がそう言うと、木の影から見覚えのある美女が姿を現した。
「ええ。一応、彼はまだ利用できるのよ。ここで、貴方たちに連れ去られるわけには行かないのよねぇ」
淫鬼の周りには、彼女に魅了されているであろう男たちが数人いた。
「逃がすと思ってんのかよ?」
「逃がす?違うわよ……。貴方たちはそこで何も出来ずに見てるしかないのよ」
淫鬼がそう言うと、僕らの身体を蔓の様なものが縛り上げた。
「これは……」
「どうかしら?私の新しい下僕の異能は?それじゃ、また会いましょう。戦鬼、シン」
淫鬼はそう言うとギリアムを連れて何処かへ消えていった。そして、彼女たちが姿を消すと同時に僕らの身体を縛っていた蔓も朽ち果てていった。
「おいおいシン。あの女の好きにさせてよかったのかよ?」
蔓から解放された戦鬼が不満げにそう言ってくる。確かに、抵抗しようと思えば抵抗はできた。あっちの方が異能力者の数は多かったが戦えないこともなかっただろう。
「淫鬼の目的はギリアムを連れ去ることだ。いくら僕と戦鬼でもギリアムを連れ去られないようにしながらあの数の異能力者たちを相手にするのは少々分が悪い。それに……勝負所はここじゃない」
「その勝負所では俺も暴れられるんだろうな?」
戦鬼の言葉に僕は頷いた。「なら、いい」と呟いて戦鬼は先に何処かへ姿を消していった。
「シン……!こちらも決着がついた。この後はどうするんだ?」
ジャンヌさんの問いかけに今日はここまでと言って、拠点に引き返すように伝える。重傷人もいない上に、イギリスの騎士団員を味方に付けることができた。今回の戦いは僕らの勝利と言っていいだろう。だが、勝負所は次だ。
淫鬼がいなくなった場所を睨みつけ、僕は次の一手を打つために頭を回転させるのであった。
***
拠点に戻ると、そこには戦鬼の姿はなく、ジャンヌさんたちの仲間がいた。横を見ると、氷漬けにされた敵らしき人物が十数人程度いた。この様子だと上手くいったみたいだ。
「シン……あんたには感謝しないといけないね。あんたのおかげで今回の戦いに勝てた。それで、次はどうするんだ?」
ジャンヌさんが僕に声を掛けてくる。だが、今回の戦いでジャンヌさんたちの仕事は半分以上終わっている。
「今回の戦いでこの街に潜むリバーシの連中は数を大きく減らしたはずだ。明日にでも街へ行き、街の人と話して暮らせるようにするといい」
「分かったよ……ところで、あんたらはどうするんだ?」
「また、新たな戦いの場へと向かう。だが、ジャンヌよ……ついてこないか?」
正直、これからの僕の戦いにジャンヌさんの異能は必要なものになる。できれば、是非仲間に引き入れたいのだが……。ジャンヌさんは僕の言葉に首を横に振った。
「あんたらのやろうとしていることは正しいことだと思うし、力を貸してやりたいとも思う。でも、私にはこいつらを置いて何処かへ行くことなんてできないよ」
ジャンヌさんの言葉は僕が予想していたものだった。
「そうか……。明後日の朝までは待つ。もし、気が変わったらこの森の近くにある洞窟の前に来い」
僕はそう言い残してその場を後にした。
ジャンヌさんと別れた後、暫く歩くと一台のキャンピングカーを見つけた。そのキャンピングカーの前には戦鬼が立っていた。
「よう。待ってたぜ」
「ああ」と返事を返しながら車に乗る。中には、寝転がってタブレット端末でフリピュアを見ている雪鬼と運転席に座っている陰鬼の姿があった。
「雪鬼はいるだろうと思っていたけど、まさか陰鬼もいるとはな……」
僕のつぶやきに雪鬼はタブレット端末から顔を上げた。
「……シン、久しぶり。仕方ないから、私が力を貸してあげる」
そう言うと雪鬼は再びタブレット端末に目を落とした。
「……」
そして、陰鬼は全く反応を返してくれなかった。
「一応、聞いとくけど僕らはリバーシに反逆するつもりだ。それでもいいのか?」
「……別に。フリピュアが自由に見れるならそれでいい」
「……問題ない」
即答だった。どうやら二人にリバーシへの忠誠心というものは全くなかったようだ。
「この二人は異能力が強力っていう理由で金で雇われてリバーシに所属していたからな、てめえが金を出すって言ったらついて行くって言ってくれたぜ」
「はあ!?」
何故僕が出資者になっているんだ!?
くそ……まあ、元八鬼神が仲間になるなら仕方ないか。
「はあ……分かったよ。今すぐには払えないけどそのうち払うよ……」
がっくりと僕が項垂れていると、陰鬼が声を掛けてきた。
「……別に金はいい。……俺は俺の目的のためにお前について行く」
陰鬼はそう言うと、再び黙り込んだ。すると、雪鬼も続けて声を掛けてきた。
「……私も貯金があるからお金は別にいい。……これはお礼」
そう言うと雪鬼は再びタブレット端末に目を落とした。雪鬼の言うお礼というのはフリピュアなりきりセットをあげたことだろう。中々義理堅いところがあるんだな……。
それぞれの考えをある程度確認した後、今日はもう遅い時間だったので僕らは睡眠につくことにした。
放置しすぎたから、そろそろ美月さんやら優理やらを出したい……。




