第66話 裏切者
<side ジャンヌ>
謎の男と供に三人を抱えて、今は無くなった自分たちの住処に向かう。先ほどとは打って変わって隣の男は不気味なくらい何も喋ろうとはしなかった。
「お前の目的は何なんだ?何故、私たちに協力する?」
「……それが私の目的のためにも必要なことだからだ」
男は静かにそう告げた。読めない男だ。だが、恐らくこの男は私たちの敵ではないということが分かった。
「ジャンヌさん!!」
仲間の一人が私たちのもとに駆け寄ってくる。
「よかった……!そっちの三人は大丈夫ですか!?」
「ああ。今は気を失っているだけだ……私の不注意のせいですまなかった」
「何を言ってるんですか!皆ジャンヌさんに助けられてここまで来れたんですよ!……ところで、あの黒ずくめの男の人はいないんですか?」
「いや、私の横に……」
横を向くとそこには既に誰もいなくなっていた。ただ、あの男が抱えていた私の仲間二人が地面に横たわっているだけだった。
「どこかへ行ってしまったんですかね……。とりあえず、こっちに来てください!」
「あ、ああ……」
<side end>
***
森の奥に向かう二人を見送り、僕は敵五人が倒れている場所へ戻ることにした。何故、あの五人がジャンヌさんたちを今更になって襲ったのかという謎を明らかにしようと思ったからだ。
敵五人が倒れている場所に向かうと、そこには見知った男の人が一人いた。
あれは……ギリアムさん?どうして、こんなところに?
木の陰に隠れて様子を見る。すると、目を覚ました五人のうちの一人とギリアムさんが会話を始めた。
「その様子だと、任務失敗のようですね」
「も、申し訳ありません!!もう一度チャンスを頂ければ、次は必ず成功させてみせます!」
「次?あなた方に次のチャンスなどありませんよ」
そう言うと、ギリアムさんは男の胸に剣を突き差した。
「あ……な、何……で……?」
「何で?まあ、ストレス発散ですかね。丁度イライラしていたんですよ」
ギリアムさんはそう言いながら剣を男の胸にねじりこんでいく。苦しそうな男の叫びが響いた後、男は動かなくなった。
「……あ……た、助けて……助けてえええ!!」
目を覚まして様子を見ていたであろう一人がその場から逃げ出そうとする。だが、それをギリアムが許すはずがない。ギリアムさんが懐から取り出した拳銃から銃弾が三発放たれる。
「ぐああ!!……あ……」
一発目は男の足、二発目、三発目が男の頭部に当たり、男は動かなくなった。
ギリアムが振り返ると、そこには青ざめた顔で身体を震わせる五人組のリーダーがいた。
「さて、二人も死んでしまいましたし……あなたから事情を聴きましょうか。包み隠さず全て話してくださいね?」
「……は、はい……」
リーダーのような男は途切れ途切れながらも、ギリアムに自分たちに起きたことを伝えていた。
「鼓舞の異能力者に謎の男ですか……面倒ですねぇ……」
報告を聞いたギリアムは手を顎に当て考え込んでいるようだった。
「その謎の男については何か分かることはありませんか?」
「え、えっと……そうだ!全身を真っ黒なスーツで覆っていました!…・・そ、それと異能の様なものは使っていなかったと思います!」
「全く参考になりませんね……。もっと思い出してくれませんかね?」
ギリアムは男の首筋に剣を当て、問いかける。
「そ、そんなこと言われたって……。後は黒髪だったくらいしか……」
「黒髪……?なるほど……もしかすると彼かもしれませんねぇ。ありがとうございました」
ギリアムが笑顔でお礼を告げると、、男は安心したような笑顔を浮かべた。
「い、いえ……お役に立てたなら何より……え?」
男のセリフが言い終わる前にギリアムは男の胸を突き差していた。
「役に立ったお礼に苦しまぬよう、心臓を狙ってあげましたよ。感謝してくださいね」
ギリアムが笑顔でそう言うと、男は地面に突っ伏して動かなくなった。その後、ギリアムは残りの二人にとどめを刺した後、その場から立ち去った。
まさか副騎士団長のギリアムのやつがこの件に関わっているとは……。イギリス騎士団と、ここで虐げられている人々はリバーシの打倒という点で仲間のはずだ。つまり、ギリアムはリバーシ側の人間である可能性が高い……。今回、こうしてギリアムが動いているということは恐らくだがリバーシがイギリスを本気で落とそうとしているのではないだろうか?
イギリスは対リバーシにおいて重要な拠点だ。実際、過去のリバーシとの戦いではイギリスが食料の補給ラインとなったり、兵士たちの休養所となったことでリバーシとの戦いを長期で続けることができたという記録がある。
だが、作戦の全容がまだ掴み切れない。……確か、ジャンヌさんたちを襲った人たちがまだ残っているはずだ。彼らから話を聞く必要があるだろう。それと……ご飯も欲しいし、ちゃんとした寝床も欲しい。そうと決まれば、ジャンヌさんたちの下へ向かうか。
予め、あの三人組の一人に付けておいた発信機を頼りに僕はジャンヌさんたちの新たな住処を目指すことにした。
***
<side ジャンヌ>
仲間に連れられ、辿り着いたのは私たちが少し前に暮らしていた拠点だった。リバーシの襲撃に会い、一度は捨てた拠点だが、あの襲撃から時間もたっているしまだ使える家も多くは無いが残っている。
食料に関しても、食糧庫に入りきらなかった分を土の中に保存していたため十数日は何とかなりそうだ。
「問題は、今後も襲撃される可能性があるということだな」
拠点の中の一つの家に大人たちを数人集めて話し合う。
「今回は、あの男のおかげで助かったけど今後も狙われる可能性は高い。ここにいつまでも残るわけにはいかないだろう」
「ジャンヌさん。その件についてだが、俺たちは戦おうと思っている」
「本気で言っているのか……?」
周りの仲間たちを見るが、全員覚悟を決めた目をしていた。
「……俺たちは敗北者だ。だから、今の立場も仕方ないとそう思っていた。でも、今のままじゃダメなんだ。俺たちの守りたいものを守るためにも……戦わなくてはいけない。あの男に会ってそう思ったんだ」
「だが、死ぬ可能性だって高い!もし、死ねばあんたらの家族はどうなる?残された人たちはどうするんだ?」
「ジャンヌさん。逃げ場なんてない。世界連合が動き出しても俺たちを助けてくれる保証なんてない。あんたがいなくても俺たちは戦う。皆で話し合ってそう決めたんだ」
もう、仲間たちに何を言っても無駄だ。彼らの目は、かつて私と供にリバーシに挑んでいった仲間たちと同じ覚悟の決まった目だった。
「……仕方ないね。私もあんたらと供に戦うよ」
「ジャンヌさん!ありがとうございます」
「私たちが進もうとしている道は途方もなく苦しい茨の道だ。もう後戻りはできないよ?」
「「「はい!!」」」
話し合いが終わり、解散となった。家の中には、私と負傷して気を失っている三人組だけが残った。
「その様子だと、覚悟は決まったみたいだな」
いつの間にか部屋の入り口にはあの男が立っていた。
「ああ。私たちは戦うよ」
私の返答に男は静かに頷いた。
「そうか。ならば、私も力を貸そう。……それと、貴様には話しておこう。今回の戦いが持つ大きな意味をな」
男の話した内容は衝撃的なものだった。そして、何故この男が私たちに力を貸そうとしていたのかも全て理解できた。
「すまないが、あそこのボロボロの家を借りるぞ。明日からよろしく頼む」
そう言うと、男は家から出て行った。
私がいると必ず戦いが起きる。だから、もう仲間を戦場に立たせないために私は戦うことを一度やめた。だが、守るためには戦わなくてはいけない。今回の戦いでもう仲間たちが戦わなくて済むと言うのなら、もう一度私は戦場に立とう。
<side end>
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