第65話 今!!
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日が沈み、昨日の返事を聞きに行こうと歩き出した先で銃声が聞こえた。そのことに何か嫌な予感がした僕は急いで銃声の聞えた方に向かった。
銃声が聞こえた方には先ほど見た五人の清掃員と、数人のそこの住人が話しているようだった。住人の中には昨日見た女性の姿もあった。
恐らく、彼らは掃除についていろいろと話し合っているのだろう。そう思っていると、住人たちが住む家の周りで数人の清掃員が何かを仕掛けている様子が見えた。
「くくく……この爆弾でゴミどもを一斉に掃除できるな」
「ああ、そうだな。この調子で他の家にもこいつを設置していくぞ」
どうやら彼らは爆薬でゴミを掃除するつもりらしい。中々物騒だが、もしかするとこの辺に住んでいる人はリフォームをしようとしているのかもしれない。それならば、古い家をゴミというのも分からないでもないし、爆弾で家を吹き飛ばすことにも納得だ。
なら、僕は住人を避難させておくか。ここの住人は僕の未来のためには必要不可欠な人材だからね!
僕は早速、近くの部屋に飛び込んだ。すると、そこには昨日見た三人組が子どもたちを守る様に武器を構えていた。
「な、てめえは昨日の!?くそ……やっぱり俺たちの敵だったのか!?」
初対面ではないはずだけどかなり警戒されてるみたいだ。
「ここにいつまで引きこもっているつもりだ?ここが安全だと誰が決めた?世界は今日も変わっていく。貴様らもまた新たな道を選ばなくてはならない。ここをでて、その目で確かめろ。そして、もし貴様らが新たな道を私と供に歩みたいというのならば、私は貴様らに力を貸そう」
僕はそう言い残すと次の家へ向かった。全ての家に警告はしたけど、全員ちゃんと逃げ切れるだろうか?
ちなみに、老人や小さな子供たち、怪我人は先に抱え避難させておいた。ものすごく抵抗されているけど命が関わっているから仕方ない。
いつの間にか外で話し合っていた人たちはいなくなっていた。きっと話し合いが上手くまとまったのだろう。
暫くして、最初に話した三人組を先頭に全ての住人が家から出たようだった。住人がこちらに来て、少したってから全ての家が爆発した。
「全員揃ったみたいで何よりだ。」
「あ、あんたは一体何者なんだ?どうして、俺たちを助けてくれるんだ?」
住人たちは助けられたことに疑問を抱いているようだった。
「私の悲願を達成するために貴様らが必要だからだ。それに、まだ終わりではない。これからが始まりだ」
僕がそう言うと、清掃員たちがこっちに向かってきていた。
「おいおい、まだゴミが生き残ってるじゃねえかよ」
「ちっ……だが、ここで全員殺してしまえば問題ないだろう」
ん?何か、おかしいぞ?もしかしてこの人たちは清掃員じゃないのか?
これは聞いておく必要があるな。
「おい、貴様ら。ゴミとは一体何を指してそう言っている?」
「ああ?ゴミはてめえらに決まってんじゃねえかよ。ああ、ゴミには自分がゴミだって自覚はねえか!ぎゃははは!!」
なるほど……どうやら僕は勘違いをしていたらしい。
目の前にいる男たちは清掃員なんかではなく、全員僕の敵だ。
そこからはすぐだった。
素早く男たちの中へ移動すると、コートの中に隠し持った木刀を使い武装している男たち全員を倒した。正直、異能力者もいない上に男たちの中に手練れは一人もいなかったため思ったよりもあっさりと決着はついた。
「す、すげえ……」
住人たちは僕の実力に少なからず驚いているようだった。
「お、俺はあんたについて行く!!」
「俺もだ!!」
「俺もついて行く!だから……姉御を助けてくれ!!」
住人の中から三人組が僕に頭を下げる。それを皮切りに次々と住人たちが僕にジャンヌという女性を助けて欲しいと願ってくる。
「……そこで何故私を頼る?助けたいというのなら何故自ら動かない」
「そ、それは……」
「力がないからか?……私は意志を持ち戦おうとする者に協力する。貴様らがそのジャンヌという女を助けたいというなら助ければいい。だが、私は手助けしかしない。その女を助けるという行動を起こすのは貴様ら自身だ……さあ、その女を助けたいなら助けに行くがいい」
自分の弱さを知り、それでも尚行動出来る人間は強い。さあ、ここの住人は僕の期待に応えてくれるだろうか?
真っ先に動いたのは三人組だった。
「あんたの言う通りだ。願うだけじゃ、思うだけじゃダメなんだ……!俺たちは行くぜ!!」
そう言うと、三人組はその女が連れていかれたであろう方向に走っていった。
「そうだ……俺たちも行こう。」
次々と自らの意志で動こうとする住人たち。その姿は間違いなく僕が望んでいたものだった。
「貴様らはここで待っていろ。そこの男たちが目を覚ますかもしれないし、私たちは新たな拠点を探さなくてはならない。貴様らはその問題を解決するために動いてくれ。……ジャンヌという女については私とあの三人に任せておけ」
「「「はい!!」」」
三人を除く住人に別の仕事を与え、僕はジャンヌという女性を救うべく三人を追いかけるのだった。
***
そして、なんだかんだあって僕はジャンヌという女性に手を差し伸べていた。
「私は……」
度重なる説得をしたものの女性はまだ僕の手を取ろうとしない。
「「「うおおお!!姉御を返せええ!!」」」
その間に三人組は五人の男たちに襲い掛かった。五人の近くにいては戦いに巻き込まれ説得が上手くできなくなるため、僕はジャンヌという女性を抑えている男を蹴り飛ばし、その女性を抱えてその場から離れた。
離れた位置から三人組の戦いを見るが、苦戦しているようだった。まあ、さっき僕が一人蹴り飛ばしたとはいえ人数差はあるし、三人組の武器は木の棒で敵が使う武器は銃だ。逆に勝てる方がおかしい。
「あ……彼らを助けてくれ!!私はどうなってもいい!あんたの言うことだって聞く!だから、あいつらを助けてくれ!!」
ジャンヌが僕に懇願してくる。
「自分で何とかしようと思わないのか?『鼓舞』の異能力者よ」
何と驚くべきことにジャンヌさんは異能力者だったのだ。こっちに来る途中で三人組からそれを聞いた時は驚いた。
『鼓舞』の異能は世界的にも割と有名な異能だ。自分ではなく仲間に対してあらゆる能力向上と戦う意志を付与するという能力だ。特に、リバーシとの戦いにおいてその能力は猛威をふるった。ただの一般人を訓練された兵士並みにする能力によって『鼓舞』の異能力者のいる街はリバーシの支配を逃れたと言われているが……。
「……っ!私の異能は一般人を戦場に立たせるものだ。私の異能があるから、本来戦わなくていい人たちが戦わなくてはいけなくなる……覚悟の無い人々に無理矢理力と戦う意志を与え戦わせてしまうことになる。この異能でたくさんの仲間たちが戦場に行き、そして死んでいった……。私はもう誰も仲間を死なせたくないんだ!だから、頼む!!助けてくれ……!!」
『鼓舞』の異能で能力が上がったからと言って死なないわけではない。恐らく、このジャンヌという女性は多くの戦場を経験してきたのだろう。そして、その度に死んでいく仲間たちを見てきたのだろう。
「「「ぐあ!!」」」
ついに、銃弾が三人組をとらえた。地面に横たわる三人に男たちがゆっくりと近づいて行く。
「頼む!!なんだってするから……だから……!!」
「甘えるな!!」
ジャンヌの身体が硬直する。その瞳は不安げに揺れていた。
「救える力がある。救う理由がある。ならば、ためらうな。守りたいものを見失うな。貴様が守りたいものは何だ!今、戦っている三人が守りたいものは何だ!戦場で死んでいった貴様の仲間たちが守りたかったものは何なんだ!!」
僕の言葉を聞いたジャンヌは唇を噛み締めた後、叫んだ。
「……っ。三人とも死ぬな!!生き残ってまた、皆と過ごす幸せな生活を取り戻すんだ!!勝て!!目の前の敵を打ち倒せ!!」
その声が三人に届くと、淡い光が三人を包み込む。
そして、立ち上がれないはずの三人が立ち上がり、放たれた銃弾を躱す。
「な、何だこいつら……!?」
避けることが出来ないはずの銃弾を避けたことに敵は驚きを隠せずにいた。そこからは一瞬だった。三人組は今までとは比べ物にならない速度と連携で敵を倒した。
これが『鼓舞』の異能の力か……。正直、想像を遥かに上回る能力だった。
「姉御!!助けれてよか……った……あれ?」
「おい!どうした……んだ……」
「お、お前ら……」
しかし、敵を倒した三人組の身体から淡い光が消えると三人はその場に崩れ落ちていった。
「あ……おい!この拘束を解いてくれ!!早くあいつらを助けないと!」
焦ったようにそう言うジャンヌの拘束を解き、僕らは三人を連れて彼らの仲間たちの下へと向かった。
久々に新しい異能力者が出てきましたね!
ちなみにジャンヌさんはフランス出身です。リバーシに襲われて、抗うものの敗北してしまい、各地の生き残った仲間たちと逃げ続けた結果この街に着いたという設定です。




