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第64話 旗を掲げる時は……

いつも読んで下さり本当にありがとうございます!今回もよろしくお願いします!!

 朝日が差し、目を覚ます。冬の森の中で一夜を過ごすなど自殺行為にしか思えなかったが、何とか死なずにすんだようだ。


 近くの川で顔を洗い、今日することを考える。とりあえず、今日の夜は昨日行った場所に行く必要がある。問題はそれまでどうするかだよなぁ。まあ、適当に森の中を探検でもでもするか。


 することを決めた後、僕は昨日のうちに買いためておいたパンを食べた後、行動を開始した。


***


 朝から森を歩き続けたもののこれといった面白そうなこともなく時間だけがただ無駄に過ぎていった。日もそろそろ沈みそうになっていたこともあり、もう昨日行った彼らのところに行こうかなと考えていた時、十人程度の集団を森の中で見つけた。


 何か面白そうなことが起きる予感がした僕は近くの岩の影から話を盗み聞きすることにした。


「あーあーめんどくせえなぁ。今更ゴミの掃除なんて必要ないんじゃねえか?」

「万が一に備えたいんだとよ。まあ、別にいいだろ。あいつらの中に実力者はほとんどいねーし、そんなに難しいことでもないんだからよ」

「まあ、確かにそうか……」

「ほら、そこいつまでも喋ってないでそろそろ行くぞ。俺たちは金貰ってんだからやるべき仕事はきっちりこなすぞ」


 集団の誰かがそう言うと、その集団は昨日僕が訪れた彼らの住処へと向かっていった。


 集団がその場を離れた後、僕はため息をはいた。


 面白そうなことがあるかと思ったけど、ただの仕事で掃除をしている人たちか……。街だけじゃなくて、離れている人々の住処まで掃除するなんて素敵な人たちだとは思うけど、何か面白いことが起きるかと思ったから少しがっかりだ。


 仕方ない。日が落ちたら掃除の人たちもいなくなるだろうし、昨日行った場所へ向かおう。


 僕は最後のパンを食べながら日が沈むときを待つことにした。


***

<side ???>


 ゆっくりと日が沈んでいく。今日も、秋のうちに貯めておいた食材を分け合って全員で生き抜くことが出来た。まだ食材の貯蓄は残っているが冬は長い。万が一に備えて一食の量を減らす必要があるかもしれない。


「「「姉ちゃん、ただいまー!」」」


 近くの森で遊んでいた子供たちが帰ってくる。皆、家族をリバーシに奪われながらも強く生きている子どもたちだ。


「おかえりなさい」


 今の状況にも文句ひとつ言わず、強く生きている。この子供たちが無事に生きて行けるようにすることが残された私の最後の仕事だろう。


「姉御……昨日のやつはどうするんですか?」

「来ても無視しなよ。私たちが考えなきゃいけないのは生き抜くことだ。得体のしれない奴の言葉に耳を傾ける暇なんてないよ」


 三人組に改めて念を押す。この三人は若い。目の前で家族を奪われているからこそリバーシへの憎しみも強い。でも、奴らに歯向かっちゃいけない。

 一人、また一人と私の前から消えていくあの喪失感を私はもう二度と味わいたくは無かった。


「ほら、子供たちも帰って来たしご飯の準備を進めるよ」


 私の周りの家でもご飯を食べ始めているようだ。私たちも早く準備してご飯を食べようと思った時、外で銃声が鳴り響いた。


「……!?あんたら、子供たちと一緒に奥に隠れてな」

「な!?姉御!俺たちも行くぜ!!」

「ダメだ!……あんたらは子供たちを一人にするつもりかい?私が行く。絶対に家から出てくるなよ」


 ついてこようとする三人組を睨みつけて私は部屋の外に出た。


 部屋の外には武装した五人の男たちがいた。

 見れば外には私以外にも何人かの私の仲間たちが外に出てきているようだった。


「……目的は何だ?」


 両手を上に挙げ、武装している五人に目的を尋ねる。


「この街のゴミを片付けに来た」


 五人のうちの一人は淡々とそう言った。やっぱりそうか……。いずれ来るだろうとは思っていた。でも、まさかこんなに早いとは思っていなかった。


「……どうにかして見逃してもらうことはできないか?」

「ダメだな。貴様らの存在は俺たちに何のメリットもない。まあ、お前らが俺たちに何かメリットを提示できるなら考えてやってもいいがな」


 どうやら交渉の余地はあるみたいだ。よかった……それなら、私がここまで生き残った意味が多少なりともできる。


「私がお前らに協力する。だから、ここの人を見逃してくれ」

「訳の分からんことをいう女だ。貴様一人が我々の仲間になったところで大した意味などない」


「私は異能力者だ」


 私の一言に五人の目の色が変わった。


「名前を聞こうか」

「私の名前は……ジャンヌだ」


 私の名前を聞くと、五人のリーダー格の男が口の端を吊り上げた。


「……いいだろう。貴様が我々の言うことを聞くならここの連中は見逃してやろう。さあ、こちらへ来い」


 男に言われ私は五人組の方に歩いて行く。


「「ジャンヌさん!!」」


 私の仲間たちが私のもとに来ようとするが、私はそれを手で制す。


「すまない……他の仲間たちにも謝っておいて欲しい。絶対に追いかけてくるな。助けなど必要ない。……生き抜いてくれ」


 別れの言葉を告げ、五人組の下へ行く。


「今生の別れはすんだか、なら着いてきてもらうぞ」


 両手を拘束され、私は五人と供に街の方へ連れていかれる。

 これでいい……これでいいんだ……。私一人が犠牲になって仲間たちを守れるならそれでいいのだ。自分の心にそう言い聞かせて歩いて行く。


 暫くしてから、背後の方で爆音が響いた。振り向いた先には、私の仲間たちの住処の周辺で火が上がっていた。


「どういうことだ!?約束と違うじゃないか!!」


 五人組のリーダーに詰め寄ろうとするが、身体を一人の男に押さえつけられる。地面に倒れながらも、リーダーの男を睨みつける私にリーダーの男は心底バカにした笑みを向けてきた。


「馬鹿じゃないのか?どうして俺が貴様一人との約束を守らないといけないんだ?くくく……面倒な仕事を押し付けられたと思っていたが、まさかあのジャンヌを捕らえることが出来るとは思わなかった」


 騙された。そうだ、こいつらはこういう人間だった。それなのに、私は仲間の命が救えることばかりに執着してしまい、そのことを忘れていた。


「貴様が間抜けなおかげで無抵抗な奴らを簡単に殺すことができたよ。ありがとよ」


「くっ……!!放せ!!」


 まだ、救えるかもしれない。一人でも救わないと……私が、行かないと!!


 だが、もがく私を男たちは二人がかりで抑え込みにきた。


「見苦しいな。諦めろ。特別な力もない一般人があの火の中で生き残れるわけがない。あいつらは貴様の愚かな判断のせいで死ぬんだよ!一人残らずなぁ!!」


 高笑いする男に何も言い返せない。男たちの拘束を解くこともできない。何も出来ずに私は涙を流し謝罪の言葉を呟くことしか出来なかった。


「すまない……すまない……」


「もう忘れたのか?意志を失った人間など怖くない」


 絶望する私にあの男の声が掛けられる。


「な……誰だお前は!?」


 突如、姿を現したその男に五人組は警戒しているようだった。


「意志一つあれば私は貴様らに力を貸すといったはずだ。貴様はまだ戦う意志を持つ気はないのか?」


「無視してんじゃねえ!てめえら、あいつを撃ち殺せ!!」


 五人が放つ銃弾を男は全て避けながら、私に声を掛けてくる。


「それでいいのか?貴様は奪われ続ける弱者のままでいいのか?」


「うるさい!!もう、意味なんてない!!仲間は私のせいで死んだ!もう守りたいものも!奪われるようなものもない!!……もう、戦う理由なんてないんだよ……」


 そうだ、もう私の手元には何も残っていないんだ。自分の愚かな判断が招いた現実に絶望し俯く。そんな私に男は尚、言葉をかけてきた。


「本当にそうか?貴様の仲間は誰一人そう思ってはいないぞ」


 何を言っているんだ?私の仲間は皆さっきの炎と爆発で死んでしまったはずで……。


「な、こいつらどこから出てきたんだ!?」


 五人組のリーダーの動揺した声が響く。顔を上げると、そこにはもう死んでいるはずの馬鹿三人組がいた。


「姉御!!俺たちは生きてるぜ!俺たちを襲ってきた奴らももう倒した!」

「後は姉御だけだ!今助けるぜ!!」

「姉御!俺たちにはあんたが必要なんだ!」


 な、なんで……。生きているのか?私の仲間は、守りたいものはまだこの手の中に残っているのか?


「私は意志を持ち、戦おうとする者に協力する。貴様の仲間は己の意志で戦うことを選び取った。さあ、もう一度問おう。貴様はどうする?」


 男の問いかけが私の心に深く深く響き渡った。



<side end>

***

次回もまたお願いします!

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