第63話 イギリスを出よう
繋ぎ回です!
僕がイギリスに来てから早いもので一週間が経過した。未だに戦鬼からの連絡はなく、僕はひたすらイギリス国内で活動するリバーシを捕らえるという仕事を手伝わされていた。
「シン!そっち行ったぞ!!」
英国騎士団副団長のクリスさんの声が響く。
「くそ!!ここにも待ち伏せしてやがったか!!……何だ子供か……痛い目に会いたくねえならそこをどきな!!」
リバーシの下っ端と思われる男がナイフを突き出してこちらに突っ込んでくる。見た感じ異能力者でもなさそうだ。
突っ込んでくる男は焦っているせいか動きが単調になっている。僕めがけて突き出してきたナイフを躱し、そのままその腕を掴んで一本背負いを決めた。
「ぐ、ぐああ!!」
倒れた男に背後からまたがり取り押さえる。すると、クリスさんたちがすぐにやってきた。
「シン!よくやったな!!」
下っ端の身柄を別の騎士団員に預けると、クリスさんが僕の背中を嬉しそうに叩く。
「いえ、騎士団員の皆さんが上手く誘導してくれたからです。ありがとうございました。」
「全く……もっと嬉しそうにしてもいいんだぞ。さて、今日の業務はここまでだシンは先に城に戻ってくれ」
クリスさんに指示をされ、僕は大人しく王城に戻ることにした。
***
さて、王城に戻ってきたはいいが正直暇だ。クリスさんは早い段階から僕と騎士団員の皆さんの間を取り持ってくれたり、何かと僕のことを気にしていくれているいい人だ。しかし、僕のことを何かと子ども扱いしてくるし、中々異能力者を相手することは許してくれないから正直苦手である。
できれば、もう一人の副騎士団長であるギリアムさんのように国外に出て本格的にリバーシの異能力者たちと戦いたいものだが……。
そんなことを考えながら王城の浴場で湯船に浸かっていると、騎士団長であるウィリアムさんが浴場に入ってきた。
「お疲れ様です」
現在は僕も英国騎士団の一人なので挨拶をしっかりとしておく。
ウィリアムさんはこちらをチラッと見て身体を洗いに行った。
暫くすると、身体を洗い終えたウィリアムさんが湯船に浸かりに来た。
一人の方がいいかなと思い、僕は湯船から上がろうとしたが、ウィリアムさんに呼び止められた。
「……話したいことがある」
身体を再び湯船につけ、人二人分程度の隙間を空けてウィリアムさんの横に行く。
「……貴様は何故強さを求める」
「それが僕の夢に繋がるからです」
「……そうか。……その夢の先に望まぬ未来が待っているとしてもか?」
「……だったら、僕の夢を叶えて望む未来を無理矢理でも掴みに行きます」
「馬鹿な男だ……そんな都合のいい未来が訪れるとおもっているのか?」
「さあ?未来のことだからそれは分かりません。でも、その都合のいい未来を掴み取るための強さじゃないんですか?」
僕の言葉を聞くとウィリアムさんは納得したように笑みを浮かべた。
「……なるほどな。やはり貴様は……。……シン、明日から国外遠征について行け。ギリアムとクリスには俺から話を通しておこう」
「え!いいんですか!?ありがとうございます!!」
「ああ、頑張れ……」
ウィリアムさんに感謝を伝え、僕は浴場を後にした。
明日からが楽しみだ!!
***
次の日の朝、ウィリアムさんに呼ばれ僕は王城の城門前に来ていた。
「シン……無理して遠征についてくる必要はないんだ。今からでも君が断れば俺の力でなんとか出来るぞ?」
クリスさんが先ほどからしきりに僕を諭してくる。
「クリスさんお気遣いありがとうございます。でも、僕は皆さんと共に国外で戦いたいんです!」
「本人がそう言ってるのですから、それでいいじゃありませんか」
僕や言葉にギリアムさんが同意してくれる。クリスさんも渋々といった様子で引き下がってくれた。
「さて、シン君でしたね。この遠征では私がリーダーです。君には前線でガンガン働いてもらうつもりですがよろしいですか?」
ギリアムさんが僕に問いかけてくる。
「ちょっと待て!ギリアム、彼を前線で働かせるとはどういうことだ?」
ギリアムさんの言葉にクリスさんが待ったをかける。
「そのままの意味ですよ。シン君は優秀な騎士団員です。既に騎士団長と女王様からも許可は頂いていますよ。それとも、女王様と騎士団長の決定に異論があるのですか?」
「な……!くっ!!」
さすがのクラスさんでも女王様と騎士団長の決定には逆らえないようだった。
「分かりました。ギリアムさん。よろこんで前線にて働かせていただきます」
僕の言葉にギリアムさんは満足そうに頷いた。
「死なないように気をつけてくださいね」
不穏な言葉と怪しい笑みを残して。
いよいよ出発かという時、王城から女王様が姿を現した。その瞬間、全ての騎士団員が跪いた。
「遠征に行く一番の目的は情報収集です。イギリスを守るためにリバーシの動向を探ってきて下さい。……必ず全員生きて戻ってきなさい!」
「「「はっっっ!!!」」」
こうして今回の遠征に行くメンバー、ギリアムさんをリーダーとして僕を含めた総勢30名は飛行機に乗り、旧ドイツ領へと向かった。
***
飛行機から降りた先は街から少し離れた森の中だった。
「今回の作戦は情報収集です。これまでの偵察でこの街に以前のリバーシの襲撃で捕らわれた学生の目撃情報を手に入れました。今回は引き続きその情報を集めます」
ギリアムさんの言葉に全員が頷く。
「では、街へ行きますが基本的には二人一組で行きましょう。各自、街に溶け込む服装をした後に打ち合わせした通りの街へ向かってください。三日後にまたここで会いましょう」
ギリアムさんがそう言うと、元々打ち合わせしてあったのか周りの騎士団員はそれぞれに着替えを初めて行動を開始していた。
僕がどうしていいか分からず突っ立っていると、すぐにギリアムさんがやって来た。
「あなたは私とペアです。とりあえず、この服を着てください。それと、貴方の黒髪と黒い目はここでは目立ってしまいます。このウィッグとカラーコンタクトも付けてください」
ギリアムさんから渡されたものを身に付けた後、ギリアムさんの指示に従い僕はギリアムさんと供に近くの街へと向かった。
***
僕らが向かった街はそれなりに大きな街だったらしく、人は多くいた。更に、支配されているとは思えないほど街は活気付いていた。
「ギリアムさん……普通の街ですね」
「……ここだけ見ればそうですね」
昼間は街を歩き、新聞や道を歩く人から話を盗み聞いたりした。夕方になり、3日間泊まるためのホテルを決めた後、僕らはあるバーへと向かった。
「シン君、君は未成年でしたね。ここからは私だけで行くので、君はこれでご飯を食べて先にホテルに戻っていてください」
そう言うとギリアムさんは僕に一食を食べるには十分すぎるほどのお金を渡してくれた。
「分かりました!それではまた後で!」
自由に動けるチャンスだと思い、僕は早速その場を離れていった。
何を食べるか考えながら歩いていると、街から少し離れたところに着いた。そこはさっきの街とは違い、ボロボロの家が多くあり人気もあまりなかった。
変なところに着いてしまったと思い、すぐに引き返そうと思ったその時、僕の周りを棒を持った数人の人が囲んでいることに気付いた。
「てめえ……あの街から来てたやつだな。大人しく金を置いていきな」
リーダー格と思われる男が僕に声をかけてくる。
「嫌だ」
「へっ……そうかよ。なら、少し痛い目にあってもらうぜ!!」
そう言うと僕を囲んでいた数人が一斉に襲いかかってきた。
やれやれ、どうやら街の裏側は無法地帯のようだ。だが、こういうのは嫌いじゃない。
隠し持っていたナイフに手にかけ、一番近くにいた人を迎撃しようとした時、その場に銃声が響いた。
パァン!!
「ぐあ!!!」
撃たれたのは僕を囲んでいた男の一人だった。
「やれやれ、ゴミ屑どもはまだ自分たちの立場を理解していないらしいねぇ」
そう言って僕に近づいて来た男は警官のような格好をしていた。
中途半端な終わり方になってしまった……




