第55話 美月&戦鬼VS雪鬼&陰鬼 決着
第55話です。
<side 美月>
「……危なかったわね……。」
たくさんの氷柱が私と戦鬼の周りを囲んでいる。
それにしても、万が一に備えて解毒薬を持っておいて良かったわね……。
氷柱が落ちてくる直前、ポケットに解毒薬を入れておいたことを思い出した私は、間一髪で異能を駆使して氷柱を防ぐことに成功していた。
ついでに近くにいた戦鬼も守っておいた。
「あー……。毒がそろそろ回って来たな。おい、金のやつ。俺にもその解毒薬寄越せ。」
「何言ってるの?あなたがいつ毒を貰ったのよ……?」
「ああ?一回、陰鬼の剣が俺の頬をかすっただろうが。あんときのだよ。」
「はあ!?……あなた、その状態で今まで戦っていたの?」
もし戦鬼の言っていることが本当なら、戦鬼は毒を受けている状態で今まで戦っていたことになる……。
いや、でもこの男ならそれくらいできてもおかしくない……か。
「はぁ……。あなた、馬鹿でしょ?……はい。早く飲みなさい。」
「おう。ありがとよ。」
戦鬼は解毒薬を受けとるとすぐに、それを飲んだ。
「ふー。生き返るぜぇ。さて、元気も出たことだし反撃と行きますか。」
「ちょっと待ちなさい。」
今すぐにでも飛び出そうとしている戦鬼に待ったをかける。
「あなたも私もかなりダメージを負っているわ。悔しいけれど、私はこの場から動くことはできない……。だから、私があなたに迫る攻撃を全て防ぐから、あなたが雪鬼と陰鬼の二人を倒して。」
不本意だけれど仕方ない。今の私には戦鬼のサポートくらいしかできない。
「……そうか。なら、俺からもてめえに一つ頼みがある。」
「何かしら?」
「そんなに難しいことじゃねえ。俺は異能を失った。本来の俺の異能があれば、ガキ一人に陰キャ一人なんざ余裕で倒せる。だから、てめえが俺の異能になれ。」
戦鬼は真っすぐと外にいるであろう雪鬼と陰鬼を睨みつけてそう言った。
「……意味が分からないのだけど。」
「はあ!?これ以上ないくらい分かりやすいだろうが!俺、戦う。お前、俺の異能の代わりになる。それだけだろ!」
「だから!それが分かりにくいって言ってるの!!具体的に私はどうすればいいのよ!!」
「ああ?そんなん、俺が欲しいと思ったタイミングで俺の足元から武器を出すんだよ。てめえの異能なら銃とかは出せなくても剣くらいなら出せんだろーが。」
「そういうことね。それならそう言いなさいよ。分かったわ。」
やっぱりこの男は単細胞すぎる。
でも、その戦闘力は本物だ。
「防御と武器の提供は任せなさい。だから……。」
「ああ。後は任せろ。」
私の異能で戦鬼を活かしきって見せる。
「それじゃあ、行きましょうか。」
「おうよ。」
***
ガシャアンッッ!!
氷柱の壁を壊し、外に出る。
壁の外には雪鬼と陰鬼の二人がこちらを見ていた。
「戦鬼、この攻撃で決めるわよ。」
「ああ。」
返事と供に戦鬼が陰鬼と雪鬼に向かって走り出す。
戦鬼が先に狙ったのは陰鬼だった。
ギインッ!!
剣と短剣が激しくぶつかり合い、火花が散る。
すぐに次の攻撃に移ろうとする戦鬼の背後から黒い影が現れる。
だが、戦鬼はその影を一切気にすることなく陰鬼の本体に攻撃を
仕掛けに行った。
あのバカ……。
いくら何でも信用しすぎじゃないかしら。
まあ、悪い気はしないけど……。
隙だらけの戦鬼の背中に影の凶刃が迫る。
だが、その刃が戦鬼に届くことはない。
戦鬼の足元にある金属片を壁のようにして、戦鬼に迫る攻撃を防ぐ。
陰鬼は戦鬼の背後から現れた壁に驚いているようだった。
そして、戦鬼はその一瞬の隙を見逃さない。
「っしゃあ!!」
陰鬼の本体に戦鬼の重い一撃が入る。
一撃を食らわせた後、すぐに戦鬼は陰鬼に追撃していく。
「……させない。」
だが、それを雪鬼が雪鬼が阻止しようとする。
戦鬼と私に向けてサッカーボールくらいの大きさの氷のつぶてが放たれる。
それでも、戦鬼は私を信じているのかそれらには見向きもせず、陰鬼に攻撃を食らわせに行く。
そうよね……。防御は私の仕事!!
視界を遮らない程度に私を覆うように金のドームを作る。
私の防御壁はこれでいい。
後は、戦鬼に迫る氷を防ぐだけ。
戦鬼の邪魔にならないように、最小限のガードで氷を防いでいく。
私を覆う防御壁に氷がぶつかる音さえ気にならなくなるほど、私は集中していた。
その時、戦鬼が両手に持っている剣を雪鬼の方に投げつけた。
「……っ!!……残念だったわね。」
その攻撃は雪鬼の不意を突くことはできたが、あっさりと防がれてしまった。
でも、雪鬼の氷のつぶては止んでいた。
「……。」
だが、戦鬼の手元に武器はなくなった。そして、陰鬼の本体と影がその隙を狙って戦鬼に迫る。
戦鬼がちらっとこちらを見る。
分かってるわ。
上等なものじゃなくてもいい。
イメージするのは刀。
「戦鬼!!」
声を掛けた時には、戦鬼は足元に出てきた二本の刀を掴んでいた。
「上出来だ!!」
武器が突然現れることなんて想定しなかったであろう、陰鬼の顔が歪む。
「おいおい、いつもの無表情はどうしたよ。」
攻撃をしようとしていた陰鬼は隙だらけだった。
「……!!!」
陰鬼の短剣を弾き飛ばし、戦鬼はそのまま上から刀もどきを振り下ろす。
「てめえの負けだ。」
ゴスッ!!!
鈍い音が響き、陰鬼の身体が地面に横たわる。
そして、それと同時に陰鬼の影は姿を消した。
「……いつものてめえみたいに影に任せてればよかったのにな。まあ、楽しかったぜ。」
「……まさか陰鬼が倒されるなんて……。」
雪鬼が少なからず動揺している。
今がチャンスね。
「戦鬼!!」
「ああ。一気に行くぜ。」
私の声に応えて戦鬼が雪鬼に走り出す。
「おい、ちびっ子。悪いがてめえの攻撃パターンはもう覚えた一気に決めさせてもらうぜ。」
「……舐めないで。」
雪鬼の全身から目で見て分かるほどの冷気があふれ出す。
あれはやばい……。
はたから見てもそれは明らかだった。
戦鬼も雪鬼の雰囲気にやばさを感じたのか雪鬼に急いで攻撃を仕掛けに行く。
「ダメッ!!」
嫌な予感がした。
「ああ?」
私は戦鬼の全身を金属で無理やり覆う。
少しでも、厚く、何からも守れるように……。
「氷の世界」
雪鬼の言葉がやけによく耳に響いた。
そして、私の身体が氷に覆われた。
「……あ……。」
体温が急激に奪われる。
戦鬼は守れたのだろうか?
雪鬼はどこにいるのか?
何も分からない。
意識が遠のいていく。
ごめん……シン君。
私は……ここまでだ……。
最後の力を振り絞り、戦鬼を覆っていた金属で氷を突き破り戦鬼の前に道を開く。
……おねがい……。
***
<side 戦鬼>
俺の目の前に光が差し込む。
外は辺り一面、氷で覆われていた。
正真正銘、雪鬼の最後の切り札だった。
「……な、なんで……。そう……あの女ね。」
雪鬼は一切、動こうとしていなかった。
「……攻撃しねえのか。」
「……異能の覚醒は使いすぎると力尽きる……。……これが私の最後の攻撃だった。あなたの勝ちよ。」
今までの戦いが嘘だと思うくらい、決着は呆気なかった。
「そうか……でも、この勝負は俺の勝ちじゃねえ。あの女の……金富美月の勝利だ。」
らしくねえ……。
自分でもそう思うが、今回の勝利は金富美月がいなければ手に入れられなかった。
「……あなた、本当に戦鬼?」
「あ?正真正銘、俺だよ。」
雪鬼は動けねえみたいだし、金富の奴を氷から助け出しに行くか。
「……とどめは……?」
雪鬼が不思議そうに聞いてくる。
「ささねえよ。てめえも知ってんだろ?俺は、戦いたい奴は見逃すようにしてんだ。……次は、俺一人の力でお前に勝つ。」
「……馬鹿ね。」
ドサッ
限界だったのだろう、雪鬼が氷の上に倒れる音が聞こえた。
綺麗に凍っている雪鬼の前で足を止める。
雪鬼が気を失ったせいで、手元にあった武器も崩れ落ちていた。
おまけに、雪鬼に投げつけた武器は既に地面に張り巡らされている氷の下だ。
「あー、殴るしかねえか……。」
ハア……。
ため息を吐きながら、目の前の氷をひたすら素手で殴り始める。
めちゃくちゃ手がいてえ……。
でも、誰かと共闘して勝つっていうのも悪くない……な。
***
次回から、シンVS疫鬼です。




