第53話 ピンチで覚醒は定番
53話です。
ブックマーク、評価してくださった方々ありがとうございます!!
誰かが見てくださるということが本当に力になっています!
<side 戦鬼>
「オラァ!!」
陰鬼の影を斬る。
そして、すぐに拘束されている陰鬼を攻撃しに行くが、復活した陰鬼の影が再び俺に襲い掛かってくる。
「しつけえなっ!!」
その影を迎撃する。
きりがねえ……。
先ほどからずっと同じことを繰り返していた。
陰鬼の影は実体がなく、いくら攻撃しようが何度でも蘇ってきていた。
金のやつはさっきから雪鬼の攻撃を防ぐことと、こいつらを拘束することに必死みたいだし……俺が何とかするしかないよな。
「危ね。」
考え事をしている間を見過ごしてくれるはずもなく、陰鬼の影が襲い掛かってくる。
だが、こいつらの動きはある程度分かってきた。
次は影ごとあの陰キャ野郎を叩き切ってやるよ。
その瞬間、左からとてつもない冷気を感じた。
この感じ……やばい!!
自らの感覚を信じて俺はその場でジャンプした。
<side end>
***
<side 美月>
「くっ!」
雪鬼の氷柱を限られた金でガードする。
分かっていたことだけれど、二人の八鬼神を拘束しながら雪鬼の攻撃をさばくのはかなりきついわね。
でも、不可能ではない。
さっきから雪鬼の攻撃も若干威力が下がっているように感じられるし、勝ち筋は十分ある。
まあ、問題は戦鬼が陰鬼に勝てるかどうかだけど……。
あの男、偉そうなこと言って負けたらどうしてやろうかしら。
その瞬間、とてつもない冷気が雪鬼の身体からあふれ出ていた。
この感じ……やばい!!
私は急いで雪鬼の身体の拘束を強める。
「……本当にムカつく。だから……塗りつぶしてあげる。私の理想の世界に……。」
雪鬼の声が聞えた瞬間、私たちがいた広間が一面氷で覆われた。
「……う…あ…。」
身体が動かない。
首から上は金で覆って防いだが、首から下は完全に氷で覆われてしまっていた。
戦鬼の姿は見えないが、私が拘束していた陰鬼も雪鬼の能力の餌食となったらしい。
味方ごとなんて……。
「ふふふ……。これが私の理想の世界。私以外はみんな凍ればいい。……この世界なら私以外は自由に動けない。……ねえ?お姉さん。貴方から殺ってあげるね。」
そう言って雪鬼は特大の氷柱を私に向けてくる。
まずい。
あのサイズの氷柱を防ぐには私の手元にある金があまりに少なすぎる。
逃げようにも氷で覆われてしまっていて身体は少しも動かない。
「……抵抗しても無駄だよ。」
その言葉と同時に氷柱が私に向けて放たれる。
「くっ!!」
何とか残り僅かな金でガードをするが、それも長くはもたない。
諦めたらダメ!
シン君と約束したんだから、何とかしないと……!
でも、何とかって何をすればいいの?
使える金は全てガードに回している。
身体は動かせない。
都合よく、この場に金が生まれることもない。
完全に詰みだった。
金のガードが破られる。
あ……。
「ちっ!!勝手に絶望してんじゃねえよ!!」
氷柱が金のガードを破った瞬間、戦鬼が私の足元の氷を壊し、そのまま私を抱えて氷柱を回避した。
「ふぅ。危ねえな。」
「なっ……。戦鬼、どうして?」
何故私を助けてくれたのか?
そもそも、どうして動けるのだろうか?
様々な疑問で頭がこんがらがって、出てきた言葉はどうして?だけだった。
「俺はあいつのあの技を一度見たことがあるからな。この部屋全体が凍る瞬間にジャンプしたんだよ。……それに、てめえがいなくなった瞬間勝ち目が無くなっちまうしな。」
「そ、そう……。でも、戦鬼が動けるなら戦況としては五分と五分じゃ……。」
「いいや、この空間で動けるのは俺だけじゃねえ。」
「え?」
その瞬間、私を抱えた戦鬼のもとに黒い影が襲い掛かってきた。
ギインッ!!
「ちっ……!影が凍るわけねえもんな。」
黒い影の攻撃をさばきながら戦鬼がそう呟いた。
影……?
もしかして、こいつ……陰鬼の影なの?
確かによく見ればその影は陰鬼に姿形がそっくりだった。
「くそっ!!」
私を抱えた状態で影相手に戦いを繰り広がる戦鬼だったが、徐々に追い詰められていっているのがよく分かった。
悔しいけど完全に私が足手まといになっている……。
「戦鬼!私のことは置いておきなさい!」
「ああ?そうかよ。なら、遠慮なく!!」
へ?
「き、きゃああああ!!」
気付けば私は上空に投げ飛ばされていた。
あの男……!!
せめて地面に優しく置くとかしなさいよ!!
「……隙だらけ。」
空中に投げ出された私目掛けて雪鬼が氷柱を放ってきていた。
嘘!?
くっ!!
操れる金を総動員して氷柱を防いでいくが、当然防げる量に限界がある。
流石にきつい……!
「きゃああ!!」
防ぎきれなかった氷柱が当たる。
全身を覆っていた氷のおかげで氷柱が身体に刺さるといったことはなかったが、衝撃は十分すぎるほど伝わってきた。
だが、一つだけいいこともあった。
「動ける。」
氷柱がぶつかった衝撃で私を覆っていた氷が破壊されていた。
「……氷は外れちゃったんだ。でも……避けきれる?」
気付けば私の周りにはたくさんの氷柱があった。
「ちょっとまずいわね……。」
「ふふふ……。」
雪鬼の不気味な微笑みと供に氷柱が私のもとに襲い掛かってくる。
「くっ!」
金を使って氷柱を防ぎながら避けれる氷柱は避けようとする……が、私の身体は思うように動いてくれなかった。
な、なんで……?
いや、考えてみれば当たり前だ。
さっきまで私は氷漬けにされていた……。それに加えてこの空間の気温はかなり下がっている。
この条件でいつも通り動けるわけがなかった。
そして、無防備な私をスルーしてくれるほど雪鬼は甘い相手じゃなかった。
「……っああ!!」
右足に氷柱が突き刺さる。
「……まずは完全に動けなくしてからだよね。……ふふ。大丈夫。殺しはしないから。だって……あなたはシンをおびき出すために必要だもん。」
「い、いや……。」
「そんなに怖がらなくても大丈夫……。すぐに終わるから。」
氷柱が一気に私のもとに向かってくる。
まさに絶体絶命。
雪鬼は完全に勝利を確信している。
この状況を待っていたのよ!!
ガンッ!ガンッ!ガンッ!!
私目掛けて放たれた氷柱が私の目の前に現れた鉄の壁に防がれる。
「……なっ!?……どういうこと?」
「どういうことだろうなぁ?」
突如現れた鉄の壁に驚いている雪鬼の背後に戦鬼が現れる。
「……な、なんで!?……きゃあ!!」
戦鬼の攻撃を受けた雪鬼が吹き飛ばされる。
「形成逆転ね。」
ギリギリだったけど上手くいってよかった。
「……あなた。……そう……あなたも覚醒していたのね。」
吹き飛ばされた雪鬼が立ち上がる。
「まあ、覚醒したのは半分俺のおかげだけどな。」
「何であなたが偉そうなのよ。」
だが、ほんの少しだけ戦鬼のおかげと言っていいかもしれない。
私は投げ飛ばされる前に戦鬼が言っていた言葉を思い出す。
~・~・~・~
「おい。てめえも異能を覚醒させろ。」
「……どうやってやればいいのよ。」
「あん?知るか。何かいい感じに感情が高ぶったらできんじゃね?まあ、てめえならシンの野郎のことでも思ってたらできんだろ。じゃあ、よろしく。」
「え?ち、ちょ……!」
~・~・~・~
悔しいけど、雪鬼がシンのこと喋りながら恍惚とした表情を浮かべるのを見たらムカついて異能が覚醒してしまった。
元々、お爺ちゃんから『金の異能の神髄は金属を全て掌握することにある。』って言われてたからできるとは思っていたけど……戦鬼の言う通りになってしまったことだけが屈辱よね。
「……ずるい。」
「あん?何言ってんだてめえ?」
「ずるいずるいずるい!!……大ピンチで覚醒なんて……フリピュアじゃない……!!」
へ……?
突然、敵がお子様になっちゃった。
雪鬼ことルミちゃんは可愛い。
何で敵にしちゃったんだろう……?




