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第48話 誰かがやらなきゃいけない

48話です。



 『心さん!…東京の方でロボットたちが急に爆発したみたいです。…それに、ロボットが爆発した後、ロボットの周りにいた異能力者や自衛隊の人たちがどんどん倒れてます…。』


無線から佳奈ちゃんの声が聞えた。


やられた…。

初めからロボットは爆発させるつもりだったんだ…。



僕と有本さんが思わず呆気に取られていると、ルミちゃんが有本さんの足を凍らせた。


「ぐあっ!」


「有本さん!」


しまった…。完全に油断していた…。


「シン…動かないでね。…動いたらこの男の命はないから…。」


「ひひひひひ…。残念だったねぇ。」


毒島が僕らを見て、心底楽しそうに笑う。


くそっ…。

どうすればいい…。この場での最善手は何だ?



頭をフル回転させるが、状況は更に悪化する。


突然、部屋の中に女性を担いだ男が入ってきた。


「…陰鬼じゃないか…。その様子だと、治癒の異能力者を捕獲することには成功したみたいだね…ひひっ。」


「…。」



毒島の言葉を聞き、陰鬼に担がれている女性をよく見るとそれは確かに優理だった。



「優理!…おい、どういうことだ?」


優理はどうやら気を失っているようだった。


「…ひひっ。どうもこうも、僕の異能にとって治癒の異能力者ほど厄介なものはないからね…。これで、僕のウイルスを治す手立ては今の世界には存在しなくなった…。ふひっ。」



考えられている…。

戦鬼はかなり脳筋なところがあったから少し舐めていたが、この男は僕の想像以上に深く作戦について考えていた。


どうする…。

ルミちゃん、それに優理を担いできた陰鬼と呼ばれる男、そして…毒島。

ルミちゃんは雪鬼、毒島と呼ばれていた男は疫鬼と呼ばれていたところを考えるとこの場には少なくとも八鬼神が3人…。

戦うにはあまりに分が悪すぎる…。


でも、それでもやるしかない…。

この状況を打開するには僕が動くしかないんだから。


「…シン。忘れたの?こちらには人質がいる…。」


僕から戦意を感じ取ったのか、ルミちゃんが僕に再び脅しをかけてくる。



くそ…。そうだった…。

じゃあ、僕はこのまま何もできないのかよ…。



「ひひっ…。戦鬼を倒したと言っても、人質がいれば何もできないか…。そうだ…面白いことを考えた!」


そう言うと疫鬼はどこからか注射器を取り出すと、有本さんと優理に注射器で何かを打ち込んだ。


「お前!何をした!!」


「ひひ…。僕からのプレゼントだよ…。彼らには僕特性のウイルスを注射したよ…何もしなければ5日程度でこの二人は死ぬ。」


「…っ。僕に何かを命令する気か…。」


「いや、何もないよ?」


は…?


「君一人じゃ、僕たち3人を倒すことはできない…。頼りになる日本の異能力者は皆、僕のウイルスでやられている…。ひひっ…僕はね、人の絶望する顔が好きなんだよ!…交換条件なんて出さない。…君に希望なんて与えない。君はただ、自分の大切な人が死んでいくのを見ることしかできないのさ…!!」


「まあ…。もし、僕らの居場所を探し当てて、僕たちを倒すことが出来れば話は別だけど……手がかりが無い状態で、5日以内に君は僕たちを見つけられるかな?…仮に見つけたとして、僕たち3人を倒せるかな…ひひ。」



悔しいが…疫鬼の言う通りだ。

ここで、この3人をあっさりと逃がすわけにはいかない。


「…待て。…本当にいいのか?ここで僕を放っておけば必ず後悔するぞ。」


「…それは楽しみだ。」


疫鬼はそう言うと、僕に背を向けて部屋から出ていった。

そして、それに続いて優理を担いでいた男とルミちゃんも部屋を出ていった。


くそっ!間に合え!!


3人が出て行った後を急いで追いかけるが、部屋は氷で固められたいた。


刀を抜き放ち、扉を壊す。

階段を上がって地上に上がった時には、周りには誰もいなかった。



やられた…。

完全敗北だ…。



僕は部屋に戻り、ウイルスを注射されぐったりとしている有本さんと床に倒れている研究員のような人を連れて、重い足取りで地上へ出た。


その後はホテルへ戻り、急いで救急車を呼んだ。


搬送される有本さんの横で泣きじゃくる佳奈ちゃんの顔が強く印象に残っていた。



***


有本さんが運ばれた病院には有本さん以外にもたくさんの疫鬼のウイルスに感染した人がいた。



疫鬼…。

やらなくてはならない…。


今、もしここにいる人たちを助けることが出来るとするならばそれは僕だけなんだ。

僕がやらなくてはならない…。



「…どこへ行くんですか?」


有本さんの病室から出ていこうとした時、佳奈ちゃんが声を掛けてきた。


「……。」


「リバーシの人たちを倒しに行くんですか…?」


「……。」


「…もう、無理ですよ…。」


佳奈ちゃんの泣きそうな絶望したような声が聞える。

その声を聞くと、胸の奥がざわざわして気持ち悪くなる。


そして、疫鬼のむかつく顔が頭に浮かぶ。


疫鬼の思い通りになっている。

今、この病院にいる人はほとんどが絶望したような顔を浮かべている。


この正体不明の病気の原因がリバーシの仕業だということは、既に国会に届いた手紙により伝わっていた。


治す方法もない、このウイルスが原因の疫鬼がどこにいるかも分からない、リバーシに太刀打ちできる異能力者はウイルスのせいで戦えない。

諦める材料には十分すぎた。


だが、諦めるわけにはいかない日本政府は、特別部隊を用意し、顔さえ分からない疫鬼たちを探し回っているらしい。



「…心さん。お父さんのために戦うというなら…嬉しいですけど、やめてください……。」


「…。」


「リバーシのこと…調べました。…いくら心さんが強くても、きっと勝てません…。今度は心さんがウイルスに感染するかもしれない……。…なら、被害は少しでも少ない方が……。」


悔しいなぁ…。


戦鬼との時もそうだけど、僕に圧倒的な力がないからこうして不安にさせてしまう。


有本さんが、ウイルスに感染した人たちが死ななきゃならない理由なんてないのに…仕方ないと無理やり受け入れようとしている。

理不尽な目にあった時、そうやって乗り越えていくのかもしれないけど僕にはどうしても納得できない。


だから、戦おう。

必ず勝つんだ。

全部、取り戻す。何一つとして、リバーシの奴らに理不尽に奪われていいものなんてないんだから…。



僕は何も言わずに病室を出ていった。



***


<side 有本佳奈>


どうして……。


心さんは最後まで何も言うことなく部屋を出ていった。

心さんの気持ちは凄く分かる。

私だって本当はお父さんを助けるために今すぐ駆け出したい…。


でも、それ以上に怖かった。

これ以上、大切な人を失うことが。そして、取り残される人の気持ちを考えることが…。

私までいなくなったらお母さんは一人になってしまう。


それに、私が頑張ったところで何もできない…。


いくら機械がいじれたって、いくら頭が良くたって、私には何もできない…。

きっと、私がリバーシの人たちに立ち向かっても何もできずに殺される。それは、きっと私以外の誰が言っても同じだ。


気付けば私の眼もとに涙がたまっていた。


「…何で、何で私のお父さんがこんな目に……。」



お父さんだけじゃない。

今回の事件でたくさんの人が被害にあった。


そして、心さんがまた新しい被害者になってしまうかもしれない。


心さん…。

強くて、頼りになって、優しくて……フリピュア好きを必死にアピールする姿には少し引いたけど、それさえも私のことを思ってくれての行動で…。

いや、フリピュア好きは本当なのかな…?


心さんとの日々を思い返すと、温かい気持ちがあふれてくる。


その心さんがいなくなってしまうかもしれない…。


そう思うと、私の目から涙は止まらなかった。



「入るわね…って佳奈?…どうしたの?そんなに泣いて?」


病室に入ってきたお母さんは私のもとに来た。


「…お母さん…ヒック…おがあさん……!!」


私はお母さんの胸に飛び込んで思いっきり泣いた。

お母さんは、自身も辛いのにただただ私を優しく抱きしめてくれた。


**


「…お母さん、ごめんね?お母さんも辛いのに…。」


「いいのよ、別に。それで、あんなに泣いていたのはどうして?お父さんの件だけってわけじゃないんでしょ?」


「…うん。」


それから私はお母さんに今回の事件の一連の流れを説明した。

お母さんにはこの事件の詳細を知る権利があると思ったから…。



「…そうだったのね。そっか…この人はまた誰かのために頑張ろうとしてたのね…。」


お母さんはお父さんの寝顔に手を触れて優しい笑みえを浮かべた。


「…お父さんって、昔も人のために頑張っていたの?」


「ええ。この人は、昔からたくさんの人が幸せになる研究がしたいって頑張ってたのよ…。ねえ、佳奈。貴方はどうしたいの?」


「…え?わ、私は…。」


「心君のこと助けたくないの?」


「…それは、助けたい。心さんにいなくなって欲しくない…。」


「なら、貴方がやらなきゃいけないことは一つよ。」


「でも、そうしたらお母さんが…。」


「…私なら大丈夫よ。待たされることには慣れてるの…。それに、私は心君に託したい…。この人の運命を、心君には申し訳ないけど、助けて欲しいから…。だから、佳奈、貴方が少しでも心君を助けたいと思うなら手伝ってきなさい。」


お母さんは真っすぐ私の目を見てそう言った。



助け…たい…。

やっぱり、私は心さんもお父さんも助けたい。


「…ありがとう、お母さん。ごめん、私やらなきゃいけないことがあるからもう行くね…。」


こうしていられない。

すぐに心さんの手助けをしなくちゃ…!


「ちょっと待ちなさい。…佳奈、これを持っていきなさい。」


お母さんは一本のUSBを私に渡してきた。


「これは…?」


「お父さんのポケットに入っていたらしいわ。もしかしたら、使えるかもしれないから持っていきなさい。」



私はUSBを大事に鞄にしまった。


「…ありがとう、お母さん…。ちょっとの間だけ、行ってきます。」


「気を付けてね。」



今度こそ取り戻すんだ…楽しい平和な日々を…。


***


有本さんは研究に集中しすぎるあまり、付き合っていた頃はデートに遅刻することも結構あったみたいです。


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