第44話 中学生と高校生の差は割とある
44話です。
木刀を振り、研究所内で必要だと思われる道具を用意していたら時間はあっという間に過ぎていき、27日の夕方を迎えた。
両親に友達と泊まり込みで旅行に行ってくると言って、僕は佳奈ちゃんの家に向かった。
「…これが通信機です。あと、これを持って行ってください。」
「…これは…?」
「GPS機能を搭載したお守りのようなものです。」
「分かった。それじゃ、僕は行くね。」
「…はい。また後で。」
また後で…?
また通信機で話そうってことかな?
まあ、いっか。
佳奈ちゃんの発言が少し気になったが、深くは考えずに僕は駅へと向かっていった。
駅で電車に乗り、群馬のとある駅へと向かう。
暫くして、電車が目的地である駅に到着した。
駅からすぐ近くのところにビジネスホテルがある。そこが今日の僕の宿だ。
「ふぅ~。」
ホテルに入って一息つく。
明日、僕が襲撃する予定の研究所はここから5,6キロくらいの位置にあるから、朝早めに出て、走っていけば何とかなるだろう。
晩御飯も近くのコンビニで買っておいたし、後は明日の動きを確認しとけばいいか。
時間もそれなりに過ぎて、時刻は20時を過ぎていた。
シャワーでも浴びるか…。
僕がシャワーを浴びようとした時、部屋をノックする音が聞こえた。
…ホテルの従業員かな?
「はーい。……佳奈ちゃん?」
「…き、来ちゃいました…。」
部屋の扉を開けると、佳奈ちゃんがいた。
…え?なんで?
「…お邪魔します。」
僕が混乱している間に佳奈ちゃんは部屋の中に入ると、大量の荷物をソファーの横に置いた。
「…え?あ、いや、ちょっと待ってね…。何でいるの?」
「…え?…私、また後でって言いましたよ?」
「あ、あれってそういうことだったのね…。」
「はい。ですから、今日はお願いしますね。」
「いやいや、帰りなさい。佳奈ちゃん、行ったはずだよね。来ちゃいけないって。」
「…でも、この辺って山奥なので…私の家まで電波が届くかどうかは微妙なんです。…だから、私はただ心さんの役に立ちたくてここまで来たんですけど……邪魔でしたか?」
佳奈ちゃんは少し悲しそうな顔をしてそう言ってきた。
その言い方はズルい…。
「…はあ。分かったよ。ここまで来ちゃったしね…。でも、研究所まではついてこさせないから。」
「は、はい!それで構わないです。」
僕の言葉に佳奈ちゃんは嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、僕はシャワー浴びるから適当にくつろいどいて。」
「…え?…は、はい…。」
シャワーから上がると、佳奈ちゃんはパソコンを使って何か作業をしているみたいだった。
「何見てるの?」
佳奈ちゃんの横から画面を覗き見る。
「…これは今の研究所付近の様子です。さっき小型のドローンを数台研究所の方に飛ばしたので、その映像を見てるんです。」
「なるほど…。」
映像から見た研究所は明日襲撃事件を起こすとは思えないほど静かだった。
「恐らくですが、ロボットたちを動かすのは明日の朝早くになると思います。…ですから、私たちもロボットが研究所を出るタイミングに合わせて研究所に行きましょう。」
「うん。そうしようか。」
「はい。」
「じゃあ、明日は朝が早そうだから僕はもう寝るね。」
僕はそう言ってソファーに寝転がった。
「…え?ち、ちょっと待ってください…。何でそっちで寝るんですか?」
「いや、だって佳奈ちゃんをソファーで眠らせるわけには行かないし、一緒に寝るわけにもいかないしねえ…。」
「…勝手についてきたのは私なんですから、私がソファーで寝ますよ。心さんがベッドを使ってください。」
「いや、でもねえ……。」
「…なら、一緒にベッドで寝ましょう。…心さんがベッドで寝るなら私もベッドで寝ます…。」
ええ…。
「いや、さすがにそれはダメでしょ。」
「な、何でですか?…もしかして、お母さんが言ってたように私を襲っちゃうから……?」
「そ、そんなことはしないから!…だいたい、僕はフリピュア好きだし?リアルの女には興味なんてないから襲うわけないじゃないか!」
佳奈ちゃんの発言を全力で否定する。
どうやら佳奈ちゃんの中では、まだ僕はフリピュア好きだけどリアルの女の子にも欲情する系の男子扱いのようだ…。
ならば、示す必要があるだろう…。
僕が、佳奈ちゃんにとって無害な存在であることを!!
「…佳奈ちゃん。君は知らないかもしれないけど僕は毎日、フリピュアの抱き枕におはようとおやすみのチューを欠かさずしてるんだ。それに、毎週フリピュアを見た後は必ずフリピュア宛のラブレターを送ってる。フリピュアショーは近くである時は必ず行くし、最前列で応援する。だから、フリピュアに夢中な僕の生活に3次元の女が入る余地なんてないんだよ。」
「……え…。は、はい…。」
僕が真剣な顔でそう言うと、佳奈ちゃんは顔を引きつらせながらそう言った。
あれ…?なんか、これって僕がただのやばい奴になってない?
佳奈ちゃんを安心させるためのはずの言葉が、逆に不安にさせてない…?
い、いや!でも、方向性は間違ってないよね!きっと!!
「…で、でも…そこまで私に興味ないんだったら、一緒にベッドで寝ても大丈夫ですよね…?」
佳奈ちゃんが恐る恐るそう聞いてくる。
「当然さ!」
僕は自信満々に答えた。
この返事により、佳奈ちゃんが僕に対して身の危険を感じることは100%なくなったはずだ!
「…じゃあ、今日は一緒のベッドで寝ましょうか。」
「そうだね!」
…あれ?なんか、おかしくない…?
気付いた時にはもう遅かった。
いつのまにか僕はベッドの中にいて、横にはシャワーを浴びて髪を乾かした佳奈ちゃんの姿があった。
シングルベッドということもあり、予想以上に僕と佳奈ちゃんの距離は近く、隣から香るシャンプーの匂いのせいで僕の心臓の鼓動が大人しくなる気配は一切なかった。
やばいやばいやばい…。
少しでも佳奈ちゃんの方を向けば、何がとは言わないがチラ見できてしまう。
いくら中学生とは言え女の子、しかも可愛いときたら男特有の生理現象が起きても仕方ないだろう。
僕は佳奈ちゃんの方に背を向けて、必死に頭の中でボディービルダーの数を数えることにした。
ボディービルダーが1人、肩がメロンのようなボディービルダーが1人、肩に小さい銃器を乗せたボディービルダーが1人………………ボディービルダーが135人…。
ボディービルダーの数も増えてきて、いよいよここからNo. 1を決める戦いが始まろうかという時には、僕の身体もだいぶ落ち着いてきてゆっくり眠りにつけそうだった。
No.1を決めるのは明日の夜にして、今日はもう寝よう。
僕がそう思ったとき、背中に何やら柔らかいものが当たる感触があった。
え?佳奈ちゃん?あんま無いと思ってたけど、意外にあるんだ…。じゃなくて!
何で急に抱きついてきたんだ?
僕が不思議に思っていると、佳奈ちゃんの僕を抱きしめる力が少し強くなった。
「…お父さん…。…どこにも行かないで…。」
佳奈ちゃんの寝言が聞こえた。
それは紛れもなく佳奈ちゃんの本音で、心の底からの願いだった。
しっかりしているから、忘れかけていたけれど佳奈ちゃんはまだ中学生だ。
突然、大好きな父親がいなくなれば寂しくなるのは当然だ。
…本当、ムカつくよなぁ。
ただ普通に家族で笑いあう日常を望んでいただけなのに、それさえ叶わないなんて…。
僕が奪われたものはほとんどない。強いて言えば、有本さんとのしょうもない日々くらいだ。
でも、知ってしまった。
佳奈ちゃんという女の子が悲しんでいることを、その子が平凡な日常を望んでいることを知ってしまった。
なら、取り返さないとな…。
***
夜が明けた。
準備を整えた僕はいつでも研究所内に突撃できるようにホテルを出る準備をしていた。
「よし、じゃあ、行ってくる。」
「はい。…気を付けてください。」
「うん。…佳奈ちゃん、必ず取り返すから。」
「…え?あ…。」
佳奈ちゃんの目を真っすぐ見てそう言った僕は佳奈ちゃんの返事を待たずに部屋を出た。
いつも見てくださる皆さん、本当にありがとうございます。
ここからは戦闘描写もどんどん入れていきたいと思ってます!




