第43話 決行日は…。
43話です。
「じゃあ前から言っていた通り有本さんを連れ戻すための作戦会議をしよう。」
佳奈ちゃんが朝ごはんを食べ終わったタイミングで声を掛ける。
「…はい。…やりましょう…。」
先ほどのフリピュアの一件のせいか佳奈ちゃんの目は少し哀愁を帯びていた。
「…あの、こっちです。」
佳奈ちゃんに付いていき、地下室へと進んでいく。
おお…。研究室みたいなものはあると思っていたけど、まさか地下室にあるとは…。
テンション上がるな。
「着きました。ここは普段はお父さんが使っていた研究室なんですけど、今は私が使わせてもらっているんです。」
地下にある研究室はかなりの広さがあって、色々な機材が置いてあった。
「すごいな…。」
「心さん、こっちです…。」
佳奈ちゃんの言う方向へ向かっていくと、そこにはかなり大きめのコンピューターがあった。
「…心さんから頂いたロボットの頭部を調べて結果、受信機の存在の確認が出来ました。…その受信機の過去のデータを入手した結果がこれです…。」
そう言って佳奈ちゃんがコンピューターの画面をクリックすると、画面に群馬県が表示された。
「…ここって、群馬?」
「はい。群馬の何の変哲もない山の中です。…ロボットたちはこの山の中にあるある施設から電波を受け取って動いていました。ですから、きっとお父さんはこの山のどこかにいると思うんです…。」
「その施設の場所はもう分かってるの?」
「…はい。大体の目星はついています。…ただ、それらしき建物がないので…もしかしたら地下に施設があるのかもしれません…。」
すごいな…。施設の場所を突き止め、更に地下に施設があることまで予測がついてるなんて…。
佳奈ちゃんがいてくれて良かった。
「うん。地下にあるので間違いないと思う。」
それから僕は佳奈ちゃんに村田さんのもとで聞いた話をした。
「…そうだったんですね…。」
「うん。だから、僕らの有本さん救出作戦の決行は斉破重工が日本の異能力者を襲う日にしようと思うんだけど、どうかな?」
「…はい。私はそれでいいですけど…。…異能力者の方たちは大丈夫なんでしょうか…?」
「大丈夫だよ。僕は戦ったから分かるけど、あの程度のロボットで倒せるほど異能力者は弱くない。」
「…そう…ですよね。なら、後はその作戦がいつ行われるかですね…。」
「多分だけど、もうすぐ年が明けるでしょ?年始には日本の主要人物が集まってのイベントが行われる。その場には異能力者たちは護衛の役割を兼ねて必ず出席しないといけなかったはずだから、そのイベントが行われる1月3日が作戦日だと僕は思ってる。」
「…確かに、そうかもしれませんが100パーセントとは言い切れない気がします…。」
まあ、そう言われれば確かにそうなんだけど…。
僕と佳奈ちゃんが困り果てていた、その時だった。
佳奈ちゃんの手前にあったコンピューターからアラーム音が聞こえた。
「これは?」
「…ロボットが何かを受信したってことです。…もしかしたら何か新しい情報が入るかも…。」
「…っ!」
佳奈ちゃんが息をのむ様子が伝わってきた。
「佳奈ちゃん、何が分かったの!?」
「決行日は明後日です…。」
「なっ!?ちょっと待ってくれよ!明日は何もないはずじゃ!?」
僕の問いかけに対して、佳奈ちゃんは急いで近くにあったノートパソコンを操作しだした。
それから、パソコンの画面を僕に見せてくる。
そこには、国会議事堂に一つの犯行予告がされたというニュースが映し出されていた。
そのニュースの内容によると、12月28日にスカイツリーや東京タワー、レインボーブリッジなどの東京の知名な場所を一斉に攻撃するといった犯行予告がされていたらしい。
また、その中に異能力者たちを配置しておけといった内容も書かれていたらしい。
「これって…。」
「…間違いないと思います…。」
「だね。予想より早かったけど、これで動くべき日にちは分かった。12月27日の夜から僕は群馬に行っていつでも動けるように準備しておくから、後は任せて。」
時間はもう僅かだ。なら、早く準備を整えないと。
僕がそう思って、地下室から出ていこうとした時、佳奈ちゃんが僕の服を掴んでいることに気が付いた。
「…一人で行く気ですか…?」
「え?うん。」
「…私も行きます。」
「ダメだ。」
「…何で!?」
佳奈ちゃんがそう言ってくるような気はしていた。でも、今回の戦いに佳奈ちゃんを連れていく気は一切ない。
それが、有本さんとの約束の一つだからだ。
「理由は言えない。でも、佳奈ちゃんはここで待っていて欲しい。必ず有本さんは連れ戻すから。」
「…分かりました…。なら、せめて通信機だけでも繋いでください。…通信機越しに施設内の情報や外の情報を伝えさせてください。それなら、いいですよね…?」
「…まあ、それくらいなら。」
通信機繋ぐくらいならいっか。この家にいるならそんなに危険なこともないだろうし。
「…約束ですよ。なら、群馬に向かう前に私の家に寄ってください。そこで、通信機をお渡しします…。」
「了解。」
佳奈ちゃんと約束を取り付けた後、僕は有本家から出ていった。
時間としてはまだ昼を少し過ぎたくらい。
今日の残りの時間は全て木刀の素振りに使わないと…。
僕は一旦家に帰り木刀を手にすると、急いでいつもの山の中にある公園に向かった。
***
<side 有本 父>
この研究所に連れてこられてからもう一週間以上の時間が経過した。
家族を人質にされている以上、僕はそれが犯罪に加担することだと分かっていても全力で取り組まなくてはいけなかった。
そんな中、28日にロボットを遂に動かすことが決まったらしい。
「…所長!!28日に作戦を始めるってどういうことですか!?まだロボットは完成していないはずですよ!」
「ああ、有本君か。ロボットならね、もう完成したんだよ。君には伝えてなかったが、我々はリバーシと手を組んだんだ。そしたら、リバーシが研究員と資金を潤沢に提供してくれてね、ロボット開発は急速に進んだのさ。勿論、君が提供してくれた異能力者たちのデータも役に立ったよ。」
「ですが…!!」
「…有本さん、しつこいですよ?」
「あなたは…。」
僕に声を掛けてきたのはいつも所長の横でニヤニヤしている怪しい白衣を着た男だった。
「…所長、ロボットの調整は完了しています。……ふひ、後は作戦を実行するだけですね…。」
「おお!毒島君、ご苦労だったね。フフフ。これで私の長年の夢が叶う…。異能力者を倒し、この世界を科学で牛耳るという夢が…。さあさあ、有本君も毒島君も作戦実行に向けて準備を進めてくれたまえ。」
所長はそう言って僕と毒島さんを部屋の外に追い出した。
「ふひ…。有本さん、僕らの邪魔だけはしないでね…。黙っていれば、君たちは殺さずに置いてあげるから…。ふひひ…。」
そう言った毒島さんの顔は悪意に満ち溢れていて、僕はとてつもない嫌な予感に襲われた。
その日の夜、毒島さんの言葉が気になった僕は、作戦に使われるロボットを調べていた。
「…特に、何もない…か…。でも、一応実物の中を覗いてみよう。」
もしかしたら、僕らの知らないところで爆弾が設置されているかもしれない…。
そう思って、僕がロボットの実物の装甲を外して中を調べると、そこには小さな袋のようなものがあった。
何だこれは…?
僕はその袋を素手で触れないように注意しながら回収した。
これは、毒…いや、菌か…?
とにかく一旦僕の研究室に持ち帰ろう…。
僕は周りに人がいないことを確認しながら研究室へと向かった。
「…これは…。」
調べて結果、袋にはウイルスや細菌が大量に入っていた。
そのウイルスや細菌の中には見たことがあるものから今までに見たことのないものまで様々だった。
ただ、その袋の中でウイルスと細菌たちが互いを攻撃しあい、更に毒性の強いウイルスや細菌が生まれているということだけが分かった。
まるで蟲毒だ…。
とにかく、これはやばすぎる…。誰の仕業か分からないけど、早く全てのロボットから外さないと…。
僕が立ち上がろうとした時、突然全身から力が抜けていく感覚に襲われた。
え…?なん…で…?
「…邪魔をしなかったら殺さないって言ったのにね。ふひ。」
「…毒島さん…?」
「ふひひ。…そうだよ、やっぱりあんたは優秀だね…。僕の仕掛けに気付くなんて…。…でも、秘密を知られたからには放っておけないなぁ。」
「…くっ…僕の身体に何を…した…?」
「弱めのウイルスを入れただけ…。ひひっ…弱いって言っても28日の朝までは何もできないだろうけど…。…まあ、全てが終わった後また迎えに来るよ…ふひひ。」
…くそ…。
意識が、朦朧としてきた…。せめて、誰かに…この…情…報を……。
そこで、僕の意識は途絶えた。
<side end>
いよいよ、話が本格的に進んできた…!




