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第5話 ギャップが凄い人はなぜか魅力がある

第5話です。


評価をしてくださった方、ブックマークに登録してくれた方々、ありがとうございます!

応援してくださる皆さんの期待に少しでも応えることが出来るよう、これからも頑張っていきます!

 警察の事情聴取が終わって、僕と金富さんが警察署から出てきたときにはもう夜21時を過ぎていた。


 僕が迷子だということを警察に伝えてみたところ、家まで送ってもらえることになったので、今は警察の方に声を掛けられるまで、警察署の前で待っているところだ。


 ふと、僕の横で、家からの迎えを待っている金富さんに目を向ける。


 これは事情聴取の時に聞いた話なのだが、金富さんは実は大学生なのだそうだ。


おまけに、異能力者の支援などでも有名な世界的な大企業「F.C (Fortune Company)」の会長の孫娘であり、現社長の娘なのだそうだ。


 そりゃ、どことなく気品にあふれてるわけだよ…。


 そんなことを考えていると、金富さんがこちらを見て僕に話しかけてきた。


「ええと…田中心くんだったかしら?今日はありがとうね。まさか、あそこでリバーシの人たちと戦ってたのが、屋上で出会った少年だったなんて思いもしなかったわ。それにしても、私を助けてくれたのはあなたなのに、良かったの?本当のことを言わなくて。」


 そう。今回の一件について、道に迷った僕はたまたまその場に居合わせ、不穏な空気を察知したから警察に通報し、そのあとはビクビク震えて隠れていた、ということにしてもらったのだ。


 そして、気絶していた男については柔道の有段者でもある金富さんが正当防衛で倒した、ということにしてもらった。


「いいんです。それに、そういった方が自然でしょう?」


「確かに、そうかもしれないわね。」


 金富さんはそういってクスッと笑った。


 なにその笑顔?可愛すぎでしょ?

 でも、ちょっとは否定してくれてもいいんじゃないの?


 少しの沈黙のあと、金富さんは再び喋りだした。


「田中くんは無能力者なのよね…?」


「はい。そうですよ。」


「あのリバーシを前にして怖くなかったの?」


「怖くなかった、と言えば嘘になります。でも、あの時はそれ以上に、かけがえのない大切なものを守らなくてはいけない、そう思ったんです。」


 そう、僕は無能力者だが決して雑魚ではない、強キャラだ。という僕の大切なアイデンティティを何としても守らなくてはいけなかった。


 金富さんは僕の言葉になぜか少しだけ、頬を赤らめて「そ、そう…。」と小さく呟いた。


「田中くん。私ね…金の異能の原石なの…。」


 金富さんは不意にそう言った。


 知ってます。


 僕はそう思ったが、金富さんは僕の沈黙を動揺していると思ったのか、続けて話し出す。


「驚いたかしら?私も初めて自分が原石だと知った時は驚いたわ。それと同時に、嬉しくも思った。あなたも知っているかも知れないけど、今の金の異能力者は私の祖父なの。」


 F.Cの会長が金の異能力者であるということと、彼の武勇伝は広く世界に知られている。


「田中くんも知っていると思うけど、私の祖父は金の異能を使って一代で莫大な財産を築き上げたわ。そして、その財産を使い、自身も戦いの場に出ながらリバーシと真っ向から対立していた。そんな祖父だからこそ、私は心の底から尊敬しているし、そんな祖父の金の異能を継承できるということはとても誇らしいことだと思っていたの。」


「でも、祖父は私に金の異能を継承してはくれなかった。田中くんも一度は聞いたことがあるんじゃないかしら?金の異能力者が80代後半になっても引退しない理由を。」


 確かに、聞いたことはある。

 金の異能力者が引退しない理由の説には様々な説がある。

 そもそも、金の異能の原石がいないという説。金の異能力者が単純に引退したくないと駄々をこねているという説。そしてもう一つの、最も有力だと言われているのが……金の異能の原石があまりにも頼りないから…という説。


「祖父にね、一度だけ聞いたことがあるの。どうして、私に異能を継承してくれないんだ!?って。そしたらね、一言だけ、「お前は弱すぎる。」そう言って、こっちのほうを一度も見ずに立ち去って行ったの。」


「だからね、今日の田中くんの姿を見てたら、悔しくなっちゃって…もしも、金の異能を持っていたのが田中くんだったら祖父も快く異能を継承してたのかなって…。」


「それは違います。」


 僕ははっきりとそう言った。


「え…?」


「まず、僕はそもそも金富さんが弱いというのは間違っていると思います。金富さんは三対一という圧倒的に不利な状況でも、リバーシの誘いにのったりせずに堂々と彼らに立ち向かっていました。それは間違いなく強い人の行動です。」


 そう、あの時の金富さんは決して弱キャラではなかった。


「で、でも…実際に祖父は弱いと…。」


「金富さんはおじいさんに今の金富さんの力を見せたことがありますか?一度でも本気でおじいさんに自分の全てをかけてぶつかっていったことはありますか?」


「そ、それは…ないけど…。」


「なら、一度全力でぶつかってみてください。それでもまだ、おじいさんが金富さんのことを弱いというのであれば、僕が金富さんの代わりにおじいさんをぶっ飛ばしますよ!」


 金富さんはキョトンとした顔を見せた後、自然な笑顔で笑った。


「ふふっ、なにそれ。私のおじいちゃんはリバーシを倒しちゃうくらい強いのよ?いくら、田中くんでも敵わないわよ。」


「今、おじいちゃんって…。」


「あ!こ、これは違うの!!ただの言い間違いで、決して私がおじいちゃん子だとかそういうわけじゃないの!!」


 必死に弁明する金富さんだったが、誰がどう見ても……。


「おじいちゃん子なんですね。」


 金富さんは俯きがちに、小さく頷いた。金富さんの顔は、湯気が出てきそうなくらい真っ赤に染まっていた。


「こ、このことは…誰にも言わないでね…。」


 真っ赤に染まった顔で上目遣いしながら金富さんがそう言ってくる。


 ぐはっ!


 なんだこれ?


 屋上でのあのクールビューティーな金富さんを知っているせいかギャップが凄すぎる。

 控えめに言って、か、可愛い過ぎる!!


「い、言いませんよ。」


「約束だからね。」


「はい。」


 しっかりと確認が取れたことに安心したのか、金富さんはようやく上目遣いをやめてくれた。


 あ、危なかった。

 あともう少しで告白して、フラれるところだった…ってフラれちゃうのかよ。


 そんなことを考えていると、おもむろに金富さんが自分のスマホを取り出した。


「ねえ、田中くん。連絡先を交換しましょう。」


「え?いいんですか?」


「当たり前でしょ。交換しとかなきゃ田中くん、うちのおじいちゃんをぶっ飛ばしに来れないでしょ?」


「な、なるほど…。」


 こうして、僕は見事に金富さんの連絡先を入手することができたのだった。


「そういえば、田中君。一つ貴方に聞きたいことがあったのだけど……。」


「なんですか?」


「貴方が言っていた失ったものって一体……。」


 失ったもの……?何のことだろうか……。もしかして、あれか?ビルの屋上で言ったあのセリフのことか!?

 うわ、恥ずかしい……。てか、こんなところで掘り返さないでよ。


「ごめんなさい。言いにくければ、別にいいのよ。」


「すいません……。失ったものについてはお答えできません。でも、いいんです。代わりに僕は新たな道を見つけることが出来た。今度こそ……失ったりしません。」


 うん。帰り道はちゃんと見つけることが出来た。もう大丈夫だ。


「そう……なのね。あら、迎えが来たみたい。それじゃ、私は行くわね。」


 そう言って立ち去ろうとする、金富さんを僕は呼び止めた。


「金富さん!一つ言い忘れてたことがあるんですけど。」


「なにかしら?」


「もし、仮に金の異能への適性が僕にあったとしても僕は絶対に金の異能を受け取りません。だって…僕は…いや、「シン」は最強の無能力者ですから。」


 金富さんは少し驚いた顔をした後、優しく微笑んでから、


「確かに、その通りね。それじゃ、またね、シンくん。」


と言って立ち去った。



 いやー!まさか、唐突な金富さんの人生相談が始まるとは思わなかったよ。


 とりあえず、金富さんのおじいさんは金富さんのことが好きすぎて過保護になってるだけのような気がしたから、本音でぶつかりなよってアドバイスしたけど上手くいくといいな。


 てか、上手くいかないと金富さんのおじいさんを殴らないといけない僕が死ぬ。主に心労的な意味で。

 まあ、可愛い金富さんも見れたし良かったかな!


 それに、僕が目指すべき強キャラの方向性も決まったしね。


 そう、今回の戦いで僕のパーフェクト・ゾーンは異能に匹敵する強さなのではないかと思った僕は、これからは異能ではない特殊な力を使う最強の無能力者、「シン」として活動することを決めたのだ。


 表では、無能力のただの少年。


 しかし、裏では特殊な力を操り異能力者たちと渡り合う最強の無能力者。


 うん。これはどこからどう見ても完璧な強キャラだ。

 むしろ、その辺の異能力者より遥かにインパクトが強い。


 僕はこれからの「シン」としての活動を想像して、胸を膨らますのであった。



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