第41話 ちょっとした回想
41話です。
ルミちゃんが立ち去って行った後、僕は村田さんの部屋で村田さんと向かい合って座っていた。
「それで、聞きたいことっていうのは何かしら?」
僕は村田さんに有本さんが斉破重工に捕らわれているかもしれないということ、そして、有本さんを助けようとしていることを話した。
「…そう。有本君が…。それで、そのことを踏まえて私に聞きたいことは何?」
「斉破重工は、一体何を目的に活動していたんですか?勿論、僕も一度調べました。表向きは異能力者を調べてその力をロボットとかに活用しようとしていたということは分かりましたが、斉破重工が倒産した理由や本当の狙いが何かまでは分かりませんでした。だから、教えてください。」
「…ふう。斉破重工のことを調べて、私のところまで辿り着くところから貴方の本気度は十分伝わって来たわ。いいわよ。教えてあげる。私が知っている斉破重工の真の目的を。」
そう言った後、村田さんは語りだした。
自身が斉破重工にいた頃の話と、そこで知った全てを。
***
そうね…。さっき、田中君が言った通り斉破重工は、表向きは「異能をロボットにも活用して無能力者も今以上に便利に生活できるようにしよう」という理念を掲げていたわ。
私を含め、多くの社員はその理念に賛同して斉破重工で働いていた。
有名なもので言えば、異能力者の身体を調べることで、今までにない硬い物質を生み出すことに成功したり、新たな合金を作り出すことに成功したという話があるわ。
私たちの活動は順調だったと言えるのでしょうね。
あの事件が起きるまでは…。
私たちは異能力者について研究しているって言ったわよね?
私たちは国の協力もあり、たくさんの異能力者の身体を調べることが出来た。
そこで、私たちは見つけたわ。
異能力者しか持たない、特別な細胞を…。
その細胞を見つけた時、私たちは歓喜したわ。
この細胞を培養して、無能力者に移植することが出来れば、この世界はさらに発展すると…。
でも、その細胞を見つけたことが全ての失敗の始まりだった。
結果から言えば、その細胞を無能力者に移植することには成功したわ。
ただ、移植された生物はほとんど例外なく身体に異変が起きるということが分かったわ。
確かに、異能は使えるようにはなった。でも、使える時間は人によりけりだけれど30分から1時間の間だけ、おまけに異能を使えなくなるのと同時に目が見えなくなったり、右腕が動かなくなったりするという結果にこの細胞を使うのは危険だという結論に落ち着いたわ。
これで、この細胞に関する研究はお終い。
細胞の培養もやめて、無能力者が一時的とはいえ異能力者になる夢は潰えた。
そのはずだったわ…。
その研究が凍結してから1年後だったかしら…。
私たちの会社に警察が大量に押しかけてきたわ。
私たちは知らなかったのだけれど、私たちの会社の上司があの細胞を使って各国のテロリストとつながっていたのよ。
その中には当然、日本の国家転覆を狙う人々もいた。
それがばれたことにより、私たちにも国家転覆の容疑が掛けられていた。
ただ、私たちは細胞を見つけて研究していただけということもあり、特にお咎めはなしだった。
でも、国家は恐れたわ…。私たちの科学力を。
そして、国家が私たちに付いて調べていく中で斉破重工の真の目的が明らかになったわ。
それは…異能力者を超えるロボットを作り出し、異能力者を制圧すること。
そして、いずれはこの国、そして世界の中心に斉破重工がいることだった。
斉破重工の上層部は初めから科学力でこの世界を牛耳るという夢物語を描いていた。
そんな中、特別な細胞が見つかったから彼らは調子に乗った。
調子に乗って、本来のロボット作成の資金集めのために細胞を売りさばいた。
あわよくば、その細胞を使って世界を牛耳るという考えもあったかもしれないわね…。
その結果、全ての計画が国にばれて、全ての研究は凍結。
斉破重工は潰れて、計画の首謀者とされる斉破重工の上層部の人間は全員刑務所に入れられたわ。
そして、細胞とその研究データは全て国に回収された。
ただ、異能力者を超えることを目的としたロボットについては回収できたけど、それらの研究データは何者かが持ち去っていってしまったらしいわ。
これは噂でしかないんだけど、異能力者を倒すためのロボットは完成間近だったらしいわ。
資金と設計図についてはほとんどできていたから後は設計図の通りにロボットを作るだけだったとか…。
とりあえず、私が知っている情報としてはこの程度ね。
***
話が終わると、村田さんは深く椅子に腰かけた
「なるほど、それじゃあ有本さんを拉致したのは…。」
「十中八九、データを盗んだ人でしょうね。有本君はロボット開発の分野でかなり優秀だったみたいだから連れていかれたんでしょうね。」
「なるほど…。じゃあ、今の斉破重工の目的は異能力者を倒すためのロボットを作るということで間違いなさそうですね。」
「ええ。それで間違いないと思うわ。ただ、ロボットを作るために必要なだけの資金があるのかって問題点があると思うけどね…。」
資金か…。
それは…恐らくだがある。
多分だけど、斉破重工はリバーシと手を組んでいると思う。
現に、ルミちゃんの発言からもその可能性は高い。
リバーシは斉破重工に資金を提供し、斉破重工はリバーシに対異能力者用のロボットを提供する。
これにより、ルミちゃんの言っていた日本の異能力者殲滅戦を行うつもりなんだろう。
これで、奴らの目的は分かった。
「村田さん、今日はありがとうございました。」
「礼には及ばないわ。…田中君、貴方が何をするつもりか聞くつもりはないわ。でも、これを持っていくといいわ。」
そう言って、村田さんは一枚の紙を差し出してきた。
「これは…?」
「これは、斉破重工のある施設内の地図よ。斉破重工に関する施設はほとんど取り壊しになったのだけれど、その施設は地下室にあったため取り壊されなかったらしいわ。今の斉破重工が活動しているとしたら恐らくそこよ。」
「…本当にありがとうございます。」
最後にもう一度、お礼を告げて僕は村田さんのマンションを後にした。
***
村田さんの話は僕の想像以上に有意義なものになった。
村田さんの話も含めて考えるに、数日後に斉破重工のロボットにより日本の異能力者が襲撃されるだろう。
有本さんを助けるならそのタイミングだ。
そのタイミングなら確実に斉破重工の施設の守りは手薄になっているはずだ。
これで、大体の情報は出そろったと考えていい。
後は、佳奈ちゃんからの連絡を待つだけだ。
とりあえず、明日が約束の3日目だし、佳奈ちゃんの家に行くか。
***
ピンポーン
一夜が明け、僕は佳奈ちゃんの家を訪問していた。
佳奈ちゃんにメールを一応は送ったけど…返信はなかった。
まあ、一応3日後に会う約束をしてたから大丈夫だろう。
「はーい…。どちらさまですか…?」
扉が開くと、そこには佳奈ちゃんに似た女性がこちらを見ていた。
「あ、僕は田中心というのですが、佳奈ちゃんはいますか?」
「あらあら、貴方が心君ね。佳奈から話は聞いているわ。どうぞ、入って入って。」
「お邪魔します。」
「佳奈は昨日も夜遅くまで何かしてたみたいで、まだ起きてないの。申し訳ないんだけど、リビングで待ってもらってていいかしら?」
「あ、はい。大丈夫です。」
あ、これで有本さんの家の人みんなと知り合いになれた…。
若干、中途半端なとこで終わってしまった…。




