第39話 限定品という響きだけで何故か欲しくなる
39話です。
「ヤミー…様…?」
あ、いや、違う違う…。
入り口から入ってきた子はフリピュアに出てくるヤミーというキャラクターに非常に似ている子だった。
思わずヤミー本人かと思ったが、よく見れば似ているだけで服装だったりと所々違う部分がある。
ヤミーに似ている子は周りの視線など一切気にせずにレジの方へと向かっていった。
「…予約してたやつ…。」
「え?あ、はい。…もしかして、雪村さん…ですか?」
店員の言葉にその子は小さく頷いた。
「分かりました!…こちら、ご予約いただいたDVD100枚になります。」
はぁ!?
DVD100枚!?
店員の言葉に僕だけでなくその場にいた全員が一斉にレジの方に目を向けた。
目を向けた先では、本当にヤミーに似ている子がDVD100枚を受け取っていた。
す、すごい…。
確かに、抽選に当たる確率を少しでも上げるためにDVDを複数枚買う人はかなりいる。
事実、僕だって思い切って3枚買ったわけだし…。
だが、100枚となると話は全くの別物だ。
今回はDVDということもあり、1枚でも値段は1万円近くある。
それにも関わらず、100枚注文できるその姿…もはや、尊敬の念すら浮かんでくるほどだ。
正直、そこまでこの作品への強い愛があるならば是非とも限定品を当てて欲しいところだ…。
『お待たせしました!!それでは、ただいまより当選番号の発表に移りたいと思います!』
お、どうやらいよいよ当選番号の発表が始まるらしい。
僕の手元には、3つの抽選番号が書かれた紙がある。
是非とも、この3つの番号の内一つでも呼ばれて欲しいところだ。
あと、僕から少し離れたところで100枚の抽選番号が書かれた紙を握りしめている、あの子も是非当たりを引いて欲しい。
『当選番号は全部で10あります。そして、景品もそれに合わせて10個。それぞれの景品に対して当選した人だけが購入する権利を手に入れることが出来ます!!』
『それでは、早速行きましょう!まず、初めの景品はこちら!!フィギュアのオーダーメイド券になります!!なんと、こちらの券を使っていただきますと、フリピュアの好きなキャラを自分の好きなポーズでフィギュアにすることが出来ます。いわば、世界で一つだけのあなたのためだけのフィギュアを手に入れることが出来るのです!!』
おおおおおお!!!
うおっ。すごい熱気だな…。
『さて、それでは当選番号の発表です。002457番さん。002457番さん。この場にいらっしゃいますか?』
「うおおおお!!!!俺だあああ!!!!やったあああ!!」
すると、たくさんの人の中から拳を天高く突き上げながら叫ぶ男の人が出てきた。
『おめでとうございます!一応、聞いておきましょう。このフィギュアのオーダーメイド券購入しますか?』
当選した人はその質問に対して、被っていた帽子を隣にいた男の人に被せた後、この場にいる全員に聞こえるようにはっきり言った。
「当たり前だ!!」
いや、お前はどこの麦わら帽子被った少年だよ…。
僕の内心とは別で会場のボルテージは最高潮に近かった。
いや、会場のボルテージと真逆のテンションの人がもう一人いた。
ヤミーに似ている女の子だ。
その子は四つん這いになって、背後にズーン…という文字が見えるくらい落ち込んでいた。
すごいな…。あんな漫画みたいな落ち込み方する人初めて見た…。
『ありがとうございます!それでは、当選した人はあちらの方に進んでください。それでは、ここからはどんどん行きましょう!!』
そこからはどんどん当選番号が発表されていった。
そして、気付けば残す景品はあと一つとなってしまった。
ヤミーに似ている子を初め、残す景品があと一つということで全員目が血走っていた。
ここにいる人たちは皆ヤミーに似ている子ほどではないにしても皆DVDを10枚前後買っている人たちばかりだ。
そんな人たちが目を血走らせて、抽選番号が書いてある紙をぐしゃぐしゃになるまで強く握りしめている姿を見ると、僕なんかが当選してしまうのは逆に申し訳ない気がしてきた。
まあ、どうせ当たんないだろうから今のうちにフリピュアのグッズでも買っておこう。
限定品じゃないにしても、何らかのフリピュアに関するグッズをプレゼントすれば、今日訪問するはずの方もきっと喜んでくれるはずだ。
僕が、抽選に関する興味を失った時、最後の当選番号が発表された。
『最後の番号は、123456番さん!123456番さん、いらっしゃいませんか?』
店内にマイクを持った女あの人の声が響き渡るが、一向に123456番の人は姿を見せない。
一向に姿を見せない当選した人物に対して、会場のざわつきが徐々に大きくなっていく。
おいおい、誰だよ…。もしかして、僕だったりして。
僕がそう思って3枚ある抽選番号が書かれた紙を見ると、そのうちの一つに123456と書いてあった。
あ……。僕だ…。
なんとなく申し訳なさを感じつつ、僕は手を上げて前に出ていった。
『あ!あなたが123456番さんですか!?』
「…は、はい。」
『おめでとうございます!!当選した123456番さんにはフリピュアなりきりセットのプレゼントです!!また、採寸合わせをいたしますのでこちらの引換券をお持ちになって当店にいらしてください!』
「ありがとうございます。」
『さあ!本日はご来店、並びにフリピュアのDVDのお買い上げ本当にありがとうございました!そして、当選した10名の方々、本当におめでとうございます!!以上で、今回の限定品抽選会を終了します!本当にありがとうございました!!』
店員さんのその言葉で店内にいた人たちが次々と立ち去っていく。
その中で、何人かの人たちが僕のもとに駆け寄ってきた。
「君、そのなりきりセット引換券、僕に売ってくれないか?10万、いや、20万出す!!」
「待て!俺は25万出す!だから、俺に譲ってくれ!」
「拙者は30万出すでござる。だから、是非拙者に…。」
お、おお…。
僕が詰め寄ってきた3人に気圧されていると、店員が僕らに話しかけてきた。
「申し訳ありません。お客様方、今回の限定品は転売は許されておりませんので、そのような行為はお止めください。当選された方も、くれぐれも転売されないようにお願いします。」
「あ、分かりました。…ということなので、こちらを売ることはできません。」
僕がそう言うと、詰め寄ってきた3人は肩を落としながら、店から出ていった。
やっぱり、このなりきりセットでも欲しがる人がいるんだなあ…。
僕だったら、自分が着るんじゃなくてこのなりきりセットが似合いそうな人に着てもらって、それを見る方が楽しめると思うけどなあ…。
でも、とりあえず限定品がゲットできたのは運が良かった。
この引換券を持って斉破重工で働いていた人の所に向かえばきっと喜んでくれるだろう。
えーと、確か名前は…村田さんだったかな…。
速水から貰った村田さんの家までの地図を確認して僕が店の出口に出たその時だった。
「うおっ!?」
出口の横でヤミーによく似ている女の子が泣きそうな顔になりながら体育座りしていた。
その子は僕の声に気が付いたのかこちらを見上げてきた。
その直後に僕の持っていた引換券に目がいき、一瞬、目を輝かせた後、また、すぐに泣きそうな顔になってしまった。
ああ、これが欲しかったんだ…。
んー。正直、僕としても村田さんって言うおじさんに渡すよりはこの子に着てもらいたい気持ちはあるけどな…。
ん?待てよ?そっちの方がいいんじゃないか?
この引換券を直接渡すよりも、この女の子にフリピュアなりきりセットを着させて、村田さんに見せてあげる方が喜ぶんじゃないか?
正直、これは賭けだ。もしかしたら、村田さんはなりきりセットが欲しいというかもしれない。
だが、なんとなくだが僕はこの女の子になりきりセットを着させた方が良い気がした。
「ねえ。もし、お兄ちゃんの言うこと一つ聞いてくれるのなら、このフリピュアなりきりセット譲ってあげてもいいけど、どうする?」
ん?あれ…このセリフ、完全に不審者じゃ…。
僕がそう言った直後、女の子は自分の身をぎゅっと抱きしめてこちらをキッと睨みつけてきた。
「…私を…どうするつもり…?」
「あ、いや!どうもしないよ!ただ、お願い事を聞いて欲しいだけでね!そんなに難しいことじゃないし!や、やましい気持ちとかは一切ないから!!」
「…くっ…。…悔しいけど、そのなりきりセットは…欲しい…。…分かった。…あなたの操り人形になってあげる…。」
お、おお…。
誤解はされてるみたいだけど、どうやら交渉は成立みたいだ。
「…でも、勘違いしないことね…。…私の心は…フリピュアと同じ…あなたみたいな人には屈しない…!」
その子のその言葉と同時に一部始終を見ていたであろう人たちがこちらを怪しむような目で見てくる。
あー!!
もういいよ…。
「はいはい…。じゃあ、店の中に言って採寸合わせてもらおっか…。」
そう言って、僕とその子は再び店の中へと入っていった。
店の中で店員さんから変態を見るような目で見られたのは正直、きつかった…。
次回、村田さんの家を訪問する。
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