第38話 武器を変えるのってちょっとだけ浮気する気分
38話です。
ピンポーン。
こっそりとロボットの一部を奪った翌日、僕は佳奈ちゃんの家に来ていた。
「はーい…。あ、心さん。どうぞ、入ってください。」
「お邪魔します。」
目的はもちろんロボットの一部をかなちゃんに渡すためだ。
「佳奈ちゃん、これの解析だっけ?お願い出来る?」
そう言って、僕は佳奈ちゃんにロボットの頭部とこぶしの部分が入ったリュックを渡す。
「…?なんですか、これ……え?これ、昨日の…。」
「うん。それがあれば有本さんの居場所が分かるんだよね?」
「た、確かにそう言いましたけど…。」
「佳奈ちゃん、これは君にしかできないことだから。お願いだ。」
僕はそう言って佳奈ちゃんに頭を下げた。
「…分かりました。3日下さい。必ずお父さんの居場所を突き止めてみせます!」
「頼んだよ。」
どうやら佳奈ちゃんも覚悟を決めてくれたみたいだ。
「ところで、これはどうやって…。」
「さーて!僕はそろそろ帰ろうかな!!ロボットたちに対抗するためにトレーニングしなきゃいけないし!」
「え?ち、ちょっと、心さん?も、もしかして…盗んだんじゃ…?」
僕はすぐに佳奈ちゃんの家から出て行った。
***
佳奈ちゃんの家から出て行った後、僕は人気の無い山の中にある公園に来ていた。
うん。ここくらい人がいなければ問題ないだろう。
人の少なさを確認した後、僕は背中にあった長い袋から一本の木刀を取り出した。
まさか、中学生の頃に修学旅行で買ったこれを本格的に使う日がくるなんてな…。
僕は木刀を構え、素振りを始めた。
上段からの振り下ろし、下からの斬り上げ、突きや居合斬りなど、自分が知ってるものからyo!tubeで見たものなど様々なものに取り組む。
僕はこの間ロボットと戦ったがその時に痛感したのがリーチの差、そして素手で戦うことの限界だ。
生身の人間だったり、異能力者であれば今までの戦い方でもなんとかなる。
だが、全身が金属でできているロボット相手には無能力者の僕の蹴りやパンチはほとんど意味がない。
ならば、ある程度のリーチがあって金属にも対抗できる武器を手に入れるべきだと思った。
その答えが刀だ。
もちろんハンマーとか大剣という重量のあるものの方が良いんじゃないかという考えもあった。
だが、果たしてそれで良いのだろうか?
僕は日本人だ。
日本人なら一度は必ず憧れるはずだ、刀で鉄を斬るということに。
『くくく!その刀へし折ってやるぜええ!!』
と向かってくる硬さ自慢の相手を居合斬りで斬る。
格好良いだろう?
このシーンだけでこの刀を使ってる人の強さと格好良さがよく分かる。
僕もそうなりたい。
刀を選んだ理由はこれだけだ。
幸いなことにF.Cから頂いた武器の中には刀も一本だけ入っていた。
特にこれといったものは施されていないが逆にそれがいい。
本当ならその刀で素振りしたいが、そんなことしてしまえば銃刀法違反で普通に捕まる。
だからこそ、中学生の頃に買った木刀に重りをつけることで練習しているのだ。
「ふっ!ふっ!」
時々、yo!tubeを見たり自身の素振りの姿を動画で撮影することでより良い刀の振り方を追求していく。
「…なるほど。切断面に対して垂直に刃を入れるとよく斬れるのか…。」
よし。
大分いい感覚を掴めて来たぞ。
ちょっと休憩でもするか…。
僕はベンチに座り、勝っておいた水で水分補給をする。
それにしても、ここは中々いいな。
山の中の公園ということもあり、遊具は一つもないが修行場所としては最適な竹藪や広い野原が広がっていた。
次は竹藪の中で竹に当たらないように木刀を振る練習でもするかな…。
僕がそう思って竹藪の中に入ると、そこには忍者の姿をしてニヤついている男がいた。
「……!?」
その男は僕に気付くとすぐに僕から離れて、クナイを構えた。
ほう……。
いい…!夕方、竹藪の中、方や忍者の恰好でクナイを構える男、そして、もう一人は木刀を手に持っている状態。
こうなればもうやることなど一つだ。
僕は木刀を身体の正面に構え、忍者の恰好をした男に声を掛けた。
「手合わせお願いする。」
「…!……。」
男は一瞬目を見開いた後、静かに頷いた。
構えを取る二人の間に風が吹き抜ける。
流れる沈黙、笹の葉の揺れる音だけがこの空間でやけに大きく聞こえていた。
ふっ…。
思わず笑みが漏れる。
この人は分かっている。
そうだ…。ここで問答無用で斬りかかるのはあまりに無粋。
ちょうどこの風が止み、笹の葉の音が無くなった時が戦いの合図になるだろう。
おかしい…。
さっきから全く風が止まない。絶えず笹の葉の音が広がっている。
どうしよう…。
もう僕も目の前の人も準備はできているのに戦いの合図だけが全く出てこない。
何かあるだろう…!?普通は、なんか動物が動いて草むらからがさっって音が聞こえたり、上から何か落ちてきたり、何か…こう…何かあるだろう!!
どうすんだよ、もう…。
僕も目の前の人ももう構えをとってから10分くらいたってるよ。
その時、僕の目の前の人が動いた。
足元にあった石を拾って天高く投げたのだ。
そうか…!その石が地面に落ちた時が戦いの合図だということだな!
僕が確認の意を込めてあちらの目を見ると、男の人は静かに頷いた。
苦しかったのは僕だけじゃなかったんだな…。
何はともあれ、これでようやくこの苦しい沈黙から解放される。
石は丁度、最高到達点にたどり着きこれから落ちてこようかというところだった。
アー。アー。パクッ。アー。アー。
だが、僕らの思いを乗せた石は再び地面に戻ることはなかった。
どこから来たかも分からないカラスが僕らの石をくわえ、そのままどこかへ行ってしまった。
「……。」
「……。」
気まずい沈黙が流れる。
すると、忍者の恰好をしていた人が構えを解いた。
それを見て僕も構えを解く。
「……俺の名は……影野……。……また会おう……同士よ…。」
そう言って忍者の恰好をした男は竹藪の中へと消えていった。
男が姿を消した後、ようやく風が止み笹の葉の音が聞こえなくなったのであった。
遅いよ!!
はあ…。帰ろ…。
謎の男との邂逅を果たし、無駄な体力を使ってしまった僕は夕暮れの山をとぼとぼと下りていった。
***
忍者の恰好をした男に会った翌日、僕は秋葉原に来ていた。
以前、速水に斉破重工についての調査を依頼していたが、その返事がようやく来たのだ。
何でも斉破重工で以前働いていた人が秋葉原にいるとか…。
速水曰く、その人はフリピュアという女児向けアニメが大好きらしいから今日発売の限定品をお土産に持っていくと良いだろうとのことだった。
その助言を受けて、僕は秋葉原に来たのだ。
「えーと…。ここか。」
スマホで道を確かめながら歩くこと数分、僕は最初の目的地であるフリピュアの限定品を今日販売する店に着いた。
店の中に入ると既にかなりの数のお客さんがいた。
今回の限定品はフリピュアの最終回を記念してのもので、DVDを買った人に抽選番号が与えられる。
そして、その抽選番号であたりを引いた人が限定品を買う権利を手に入れることが出来るというものだった。
人によってはDVDを10枚以上買って抽選券を確保している人もかなりいた。
一応、僕はネットで3枚ほど予約をしておいた。
それにしても、フリピュアか……。
一時ではあるが、僕はフリピュアを見ていた時期がある。
フリピュアの敵キャラで出てくる、あるキャラの強キャラ感が凄く好きでそのキャラが出ていた時は見ていたのだ。
残念ながら、そのキャラは途中からフリピュアたちの仲間入りを果たしてしまいかつての輝きを失ってしまったのだが…。
まあ、そのキャラがフリピュアになってからは見てなかったとはいえかつては夢中になっていた作品の一つだ。
これを機にまた見てもいいだろう…。
僕がそんなことを考えながら店の端っこで抽選番号のあたり番号の発表を待っていると、店の入り口辺りがざわついていた。
どうしたんだろう…?
僕がそう思って入り口のあたりを見た時、僕は目を疑った。
「…ヤミー…様…?」
そこにいたのはかつて僕が憧れたフリピュアの敵キャラのヤミーだった。




