第35話 気付けば忘れていた初恋の甘酸っぱい気持ち
35話です。
『さあ!お待たせしました!!第一回ベストカップル決定戦決勝をただいまより行います!』
『まずは、厳しい予選を勝ち抜いた五組のカップルの登場だ!!』
呼ばれた僕と佳奈ちゃんを含む五組のカップルがステージの上に上がる。
『それでは一組ずつ意気込みを聞いていきましょう!』
『まずは予選一位で通過したゼッケン番号一番のカップルから聞かせてもらいます。決勝での意気込みをどうぞ!』
「愛があれば、優勝は必然さ…。」
「まじでそれなー!うちらの愛で火傷させちゃうから!!」
『…いやー、とても熱い二人でしたね!続いては二番の方々、お願いします!!』
「あ、あの…えっと…頑張ります!!」
「もう、もっとシャキッとしなさいよね!」
『こちらのカップルは男性が女性の尻に敷かれているようですね。それでは、三番の方々もよろしくお願いします!』
「無論!狙うは優勝一つだ!!」
「うむ!そうだな!!」
『こちらは筋肉隆々のお二人、そのパワーに期待ですね!続いては、四番の方々!』
「そうねえ…。まあ、精一杯頑張らせてもらうわ。」
「………。」
『こちらの男性は目が死んでいますが…大丈夫でしょうか…?』
「何の問題もないわよ。気にしないで。」
『そ、そうですか…。では、最後の方々よろしくお願いします!」
いよいよ、僕らの番が回ってきた。
ここは一発僕らの覚悟を見せておかなくてはな。
「必ず優勝します!絶対に誰にも負けません!!」
「…あ、え、えっと…頑張ります…。」
『こちらは学生さんでしょうか?初々しさを感じさせるカップルですね!それでは、早速決勝のルールについて説明させていただきます。』
『決勝で行うのはこちら!』
司会者がそう言うと同時にステージの上にあったスクリーンにポッキーの映像が映し出された。
「ポッキー……?」
『そう!決勝で行うのはこちらのポッキーを使ったゲーム……ポッキーゲームです!!』
うおおおおお!!
会場から謎の歓声が沸き上がる。
『ルールは至って単純!手足を使わずにお互いがポッキーの両端からポッキーを食べ進めてください。スピードやその様子を見て、五人の独り身の審査員がこんなカップルになりたい!と思ったカップルに投票します。最も多く投票されたカップルがベストカップルです!!』
司会者の説明が終わるのと同時にポッキーが僕らの前に運ばれてくる。
それにしても…ポッキーゲーム…か…。
最後にはキスすることになるというあれか…。
佳奈ちゃんは大丈夫だろうか…?
「佳奈ちゃん、ポッキーゲームだけど大丈夫?」
「ボムボムくん…。可愛い……。」
「佳奈ちゃん?」
「え?あ、はい!…だ、大丈夫です!絶対に優勝しましょう!!」
「そ、そっか…。分かったよ。頑張ろう。」
どうやら佳奈ちゃんの方はもう覚悟を決めていたようだ。
ならば僕が足を引っ張るわけには行かないだろう。
大丈夫だ、僕のファーストキスは小学生の頃に母さんに奪われたらしいし。
やるぞ!!
僕が覚悟を決めると、スタッフがポッキーを持ってきた。
「はい。それでは、こちらをまずは彼女さんの方からくわえてください。」
「わ、分かりました…。」
そう言って佳奈ちゃんはポッキーをくわえた。
「それじゃ、次は彼氏さんが逆側からポッキーをくわえてください。」
「はい。」
「オッケーです。それじゃ、開始の合図までそのままで待っていてくださいね!」
そう言ってスタッフはどこかへと行ってしまった。
ポッキーを間に挟んで佳奈ちゃんと向かい合うと佳奈ちゃんは顔を真っ赤にさせて声にならない声を出していた。
あ、あれ…?
佳奈ちゃん、もう覚悟を決めていたんじゃ…。
てか、冷静に考えたらまだ付き合ってもない中学生と公然の場でキスするって問題じゃね…?
僕は今更ながら自分がやろうとしていることの重大さに気付いたがもう遅かった。
『それでは、準備もできたようなので早速始めましょう!よーい、スタート!!』
『さあ、参加者全員勢いよくポッキーを食べて行きます!特に3番の力自慢カップルの勢いがすごい!!これは短期決戦になりそう……いや、5番のカップルだけ微動だにしていません!一体どうしたのでしょうか!?』
司会者の言葉の通り、僕と佳奈ちゃんはお互いにポッキーを食べ進めることができなかった。
ゴクリ…。
唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。
周りの歓声の声はほとんど聞こえなかった。
僕の頭の中は目の前で顔を真っ赤にさせて恥ずかしそうにしている佳奈ちゃんでいっぱいだった。
『これは…まさか、二人だけの愛の空間!?』
『おっと!解説の鯉川さん!プラトニックゾーンとは何でしょうか?』
『プラトニックゾーンとは…付き合いたて、もしくはお互い好きだと分かっているけど中々一歩が踏み出せない二人だけが作り出すことのできる特別な空間です。うぶな二人が互いに求めるものは純粋で清く美しい愛。そこには私達のような汚い欲求を知ってしまった人は何人たりとも入ることはできない…!!』
「あ、ああ……。うわあああ!!!」
『ど、どうしたのでしょうか!?突然、審査員の独御さんが頭を抱えて泣き出しました!!』
『…思い出してしまったのでしょう…。過去の純粋な頃の自分を…。人は誰しもが純粋に誰かに恋していた時期があります…。しかし、私たちは大きくなるにつれて今の5番のカップルのような純粋さを失ってしまう…。汚れ切った私たちにとって彼らはとても眩しく、そして尊い存在なのですよ。独御さんが投票するカップルは決まったも当然ですね。』
『な、なるほど…。おっと、鯉川さんの言葉の通り独御さんが泣きながら5番の札を天高く突き上げています!!まさかの真っ先にリードしたのは5番だー!!』
うおおおおおお!!!
な、なんだ!?
よく分からないけど観客が僕らの方を見て歓声をあげてる…?
僕らは何かしてしまったのか!?
「やるじゃない…なら、私も本気をだそうかしら。」
『おっと、いつ間にかポッキーが無くなっている4番のカップルが動き出すようで……こ、これはディープキスだー!!』
『4番のカップル、女性側から男性側への強力なアプローチ!!先ほどの5組のカップルとは対照的な肉欲に包まれた行為です!!』
『あっと、4番に触発されたのか1、2、3番のカップルもどんどんキスしていきます!!強烈なアピール合戦だ!!』
『これは見事な一手ですね。』
『鯉川さん。詳しい説明をお願いします。』
『分かりました。あの4番のカップルがしたのはプラトニックゾーンの破壊です。』
『破壊…ですか?』
『ええ。プラトニックゾーンは清らかな愛の象徴。汚い欲にまみれた人々にはどうしても眩しいものです。だからこそ4番が行ったのは、あえて欲望に身を任せるような行為をすることです。私たちが汚い欲に包まれた理由、それはそのような行為に憧れたからにすぎません。だからこそ、あの4番はああいった行為をすることで会場の雰囲気を一気に変えたのです。欲望を溢れさせても良いのだと…あなたたちも欲望をさらけ出しなさい…とね。』
『なるほど…。あの行為にはそのような意味があったんですね。となると、ここからは5番が不利になっていくのですか?』
『そうですね…まあ、見ていれば分かると思いますよ。」
何だ…?
4番の人たちが何かしてるみたいだけど僕らには全然分からない…。
佳奈ちゃんは固まったままだし、どうすればいいんだ?
僕が困り果てていたその時だった。
キース…キース!キース!!キース!!!
突然、観客たちの方からキスコールが沸き起こる。
そのコールはどうやら僕らに向けられているもののようだった。
『こ、これは5番に向けてのキスコールです!!』
『ここでキスをすれば、彼らのプラトニックゾーンは消え去ってしまう…かといってキスをしなければこの空間で彼らだけ浮いてしまうことになるでしょう…。』
『追い詰められてしまった5番!果たしてどうするのでしょうか!?』
次回、ベストカップル決定戦決着!!




