第33話 JCは強い
33話です。
これからは二日で一話更新になると思います。
F.Cのお爺さんと話した日から三日が過ぎた。
テレビでは、美月さんとF.Cの会長がリバーシに加担している容疑で捕らえられたというニュースが連日報道されていた。
早く何とかしないとな…。
現状に焦りを感じながら、僕は中学校の校門で一人立っていた。
「誰あれ?」
「もしかして誰かの彼氏?」
「いや、最近噂になってる不審者かもよ。ほら、中学生を執拗に狙う変な人がいるって…。」
「うそ…!?あの人、大人しそうな顔してもしかして、凄い変態…?」
くっ…!!
僕は悪くないはずなのになんだこの屈辱は…!?
女子中学生の視線とはこれほどまでに重く苦しいものだったのか!?
僕の横を通り抜ける女子たちの不審な目を受けながら僕はひたすら待っている人が来るのを待った。
そして、暫くして有本さんの娘さんの佳奈ちゃんがこちらに歩いてくるのが見えた。
おお!!
ようやくこの地獄から抜け出せる!
嬉しくなった僕は佳奈ちゃんに笑顔で声をかける。
「おーい!佳奈ちゃん、こっちこっち!!」
「ひっ…!?」
僕の声を聞いた佳奈ちゃんが一瞬身体を硬直させる。
それと同時に周りにざわめきが広がった。
「あの不審者、有本さんを狙ってたの…?」
「ちょっとやばくない?有本さん固まっちゃってるし…。先生呼ぶ?」
これはまずい…!?
急いで誤解を解かなくては!!
「佳奈ちゃん、ほら僕だよ。心だよ。さっきはちょっと驚いただけだよね?僕と佳奈ちゃんは仲良しだよね?」
そう言って佳奈ちゃんに僕は必死で詰め寄る。
「ひっ…!?は、はい…。」
佳奈ちゃんは身体を少しのけぞらせながら返事をしてくれた。
ふう…。
これで誤解は解けたに違いない。
僕がそう思って周りを見ると、一人の女子生徒がこちらを指さしていた。
「先生、あいつです。」
…ん?
その後、近くにいた先生たちに佳奈ちゃんが必死に話してくれたおかげで僕は捕まらずにすんだ。
だが、後にこの情報を掴んだ速水によって僕はからかわれることになるのだった。
「はあ…。酷い目にあった…。」
「ご、ごめんなさい…。私のせいで…。」
僕がため息を吐くと、佳奈ちゃんが申し訳なさそうにそう言った。
「いや、冷静に考えたら僕と佳奈ちゃんはまだ一回しか話したことないわけだし、仕方ないよ。」
「で、ですが…。」
「まあ、誤解も解けたわけだし気にせずに行こう。」
「は、はい。」
そう言った佳奈ちゃんの顔はまだ少し罪悪感を感じているようだった。
「ところで今はどこに向かっているんだ?」
僕は佳奈ちゃんから有本さんの行方を探る手掛かりを聞くため声を掛けた。
すると、佳奈ちゃんが連れていきたいところがあると言ったので僕は佳奈ちゃんの通う中学校の前で佳奈ちゃんを待っていたのだ。
「あと、もう少しです。」
僕は佳奈ちゃんに黙ってついて行った。
そして、暫く歩いた後、佳奈ちゃんがある一軒家の前で足を止めた。
「つ、着きました。」
「…え?表札に有本って書いてあるけど、もしかして…?」
「は、はい。ここが私たちの家です。どうぞ、入ってください…。」
「あ、はい。」
言われるがままに僕は佳奈ちゃんの家に足を踏み入れた。
「お邪魔します…。」
「あ、あの、リビングの方で待っていてください。」
そう言うと佳奈ちゃんは奥の方へと姿を隠した。
僕は佳奈ちゃんの言った通りリビングに入り、椅子に座って佳奈ちゃんを待つことにした。
暫くして、封筒のようなものを持った佳奈ちゃんが姿を現した。
「お待たせしました…。」
そう言って佳奈ちゃんは僕とは反対側の椅子に腰かけ、封筒を僕の前に差し出してきた。
その封筒には、田中心君へ、と書いてあった。
「…これは…?」
「これは、お父さんの部屋に置いてあったものです…。」
「読んでもいいのかな?」
僕の問いかけに佳奈ちゃんは小さく頷いた。
僕は封筒を開けて、封筒の中にあった二枚の手紙を読み始めた。
田中心君へ
突然で申し訳ないが僕はF.Cをやめることにした。
君と過ごす時間はとても楽しかったよ。最後まで君の面倒を見ることが出来なくて申し訳ない。
………。
一枚目の紙にはそう言った感じの謝罪文と僕に向けたメッセージが記されていた。
違う。僕が知りたいのはこんなことではない。
僕が一枚目の手紙を閉じて二枚目の紙を開くと、そこにはシン君へ、という文字があった。
シン君へ
勝手なお願いであるとは思っているが、僕の家族をある人たちから守って欲しい。
それと、これから二週間以内に起こる事件には絶対に関与するな。
だが、君のことだ。
きっと今回の事件にも首を突っ込もうとするだろう。
三原製薬について調べるんだ。そうすれば何かが見えるかもしれない。
P.S この手紙は燃やして欲しい
二枚目の手紙にはそう書いてあった。
斉破重工か…。
確か、数年前に異能に関する研究で最先端を走っていた企業のはず…。
だが、ある研究が問題視されたことで最近はめっきり名前を聞かなくなっていたんだけど…。
「あ、あの!心さん!!」
「ん?ああ、何だい?」
「その…お父さんの手紙には何と…?」
「ああ、それはね…。」
待てよ。
この手紙の内容は言っていいのか?
恐らく有本さんはこの手紙の内容、特にシン宛に書いたものは誰にも読まれたくはないのだろう。
だからこそ、手紙を燃やしてくれと書いたに違いない。
ここは佳奈ちゃんには申し訳ないけど、一枚目の手紙の内容だけ言っておこう。
「…どうしたんですか?」
「ああ、ごめんね。急に黙っちゃったりして。手紙の内容だっけ?急にいなくなって申し訳ないとかそんなことだったよ。残念ながら有本さんの居場所の手がかりは分からなかったよ。」
僕がそう言うと、佳奈ちゃんは俯いてからポツリと呟いた。
「…嘘…ですよね?」
ドキッ!
自然な喋りをしていたつもりだったが、不自然なところでもあったのだろうか。
「何で、そう思ったんだい?」
「…これです。」
そう言って佳奈ちゃんが取り出したのは小さな機械だった。
「こ、これは私が作った声の波長を記録する機械です。これで、さっきの心さんの声の波長を見たら僅かでしたけど、ブレがありました…。だから、嘘をついているんじゃないかって思ったんです…。」
…まじか。
この娘、有本さんの娘ってだけあって実はもの凄い娘なんじゃ…。
「あ、あの…勝手にこの機械を使って心さんを疑ったことは謝ります…。お父さんと心さんが私のことを心配してくれていることも何となく分かります。でも、それでも私はお父さんの居場所を知りたいんです…!お願いします…!私にお父さんの手がかりについて教えてください!!」
僕は佳奈ちゃんのことを見誤っていた。
この娘は気弱そうに見えるけど、自分の父親のために戦う覚悟を持った強い娘だ。
「…分かった。でも、約束して欲しい。僕に協力すること、そして、無茶だけはしないこと。いいね?」
「は、はい!」
佳奈ちゃんは僕の言葉を聞いて嬉しそうに返事をした。
「よし。それじゃ、話していこう。まずは有本さんの手がかりだけど、分かったことは二つ。一つは二週間以内に何か大きな事件があって、それに有本さんが関与しているということ。そして、もう一つは有本さんの居場所を探るヒントは斉破重工にあるということ。佳奈ちゃんはこの二つのどっちかに心当たりはないかな?」
「…斉破重工なら、聞いたことがあります…。私がまだ小さい頃なんですけど、お父さんが斉破重工の人から良く電話が来てて困っているって言ってたような……。で、でも…最近はめっきり無くなったって言ってたんですけど…。」
なるほど…じゃあ、やっぱり有本さんと斉破重工との間には何らかの因縁があると考えて間違いないだろう。
「じゃあ、とりあえずは斉破重工に関してお互い調べてみよう。ただ、危険なことはしないようにね。」
「分かりました。」
「それじゃあ、僕はそろそろ帰るよ。」
そう言って、僕は腰を上げた。
あ、あと一つやらなきゃいけないことがあった。
「佳奈ちゃん、これ僕の電話番号とメールアドレス。何か困ったことがあったらいつでも連絡して。」
「…え?あ、はい…。ありがとうございます。」
「それじゃあ、僕はこれで。」
「は、はい。あの、ありがとうございました!」
佳奈ちゃんのお礼を聞きながら、僕はその場を後にした。




