第31話 終わりは新しい始まり
31話です。
朝が来た。
僕は美月さんのお爺さんのもとにやって来ていた。
「改めてお礼を言わせてもらおう。心君、ありがとう。」
「頭を上げてください。僕はただお爺さんとの約束を守っただけですから。それより、戦鬼たちはどうなったんですか?」
僕は気になっていたことについて質問した。
「ああ、やつなら今は拘置所にいる。もうあそこから出ることは出来んだろうから安心してくれ。」
「そうなんですね。」
「ああ、それと心君の正体に関してもまだ政府にはバレてはいないと思う。だが、感の良い人は戦鬼を倒したのが美月ではないということには気付くかもしれん。これからは少し気をつけた方がいい。」
やっぱりか…。
さすがに今回の一件を姿を隠してやり抜くことは出来なかった。
「分かりました。ご忠告ありがとうございます。」
僕はそう言って部屋を後にした。
廊下を歩いていると、目の前から寝起きのせいか眠そうな顔をした美月さんがやってきた。
「美月さん、おはようございます。」
「え、ええ!?心君!?お、おはよう…。って、昨日のこと覚えてないの?」
昨日…?
昨日は美月さんが夜に来てくれて、そのあと確か…僕は寝たはず…。
ただ、美月さんが僕の額にキスする夢を見たような気がするんだけど…。
「昨日ですか…?すいません。寝ぼけてたせいか、あまり覚えていなくて…。美月さんが、何か僕にしてくれたような気はしているんですけど…。」
「そ、そうなのね!なら、気にしなくて大丈夫よ。昨日は私が心君にお礼をしたくらいだから!!」
美月さんは何故か慌てた様子でそう言った。
「そうですか。分かりました。」
「ええ…。」
少しの間、沈黙が流れた。
「そ、それじゃ、僕はこれで。」
沈黙に耐えられなかった僕はその場を立ち去ろうとする。
「ねえ、心君。」
しかし、美月さんはそんな僕を呼び止めた。
「なんですか?」
「来週の日曜日にデートしましょう。」
「え?あ、まあ、いいですけど…。」
「本当?それなら、また連絡するわね。楽しみにしてるから。」
そう言って美月さんはその場から離れていった。
最後に見せた美月さんの笑顔はとても可愛かった。
***
<side ???>
コツ、コツ…。
白銀学園襲撃事件の次の日の夕方、拘置所に何者かが姿を現していた。
「止まれ。」
悠々と拘置所を歩く人を警備員らしき人が引き止める。
「なに?」
「え?あ、これは金の異能力者様でしたか!ですが、なぜこのようなお時間にここに?」
拘置所を悠々と歩く人の顔は紛れもなく金富美月そのものだった。
「戦鬼という男の様子を見に来たの。ダメかしら?」
「いえ、大丈夫です。ご案内しますので、こちらへどうぞ。」
2人はそのまま、戦鬼の前まで歩いて行った。
「こちらが戦鬼のいる部屋になります。」
「そう。なら、あなたはここで用済みだわ。」
金富美月の顔をした人がそう言うと、男は静かにその場に倒れた。
「…ん?あ、何だ?金の異能力者?いや、違うな。あんたか…。」
戦鬼が目を覚ましたようで、金富美月の顔をした人に真っ直ぐ目を向ける。
「目覚めたか。まさか、お前がこんなところで脱落とはな。」
「ふん。それで、俺らのボスがわざわざ敗者を労いに来たわけじゃねえだろ?」
「当然だ。」
そう言うと、金富美月の顔が崩れていきその人物の素顔と思わしき顔が出てきた。
「お前の異能、奪わせてもらうぞ。」
そう言って、戦鬼がボスと言っていた人物は戦鬼の頭に手をかざした。
すると、ボスと呼ばれる人物の手が淡く光ったかと思えば、戦鬼が突然全身の力を失ったかのように項垂れた。
「武器の異能か…。戦鬼、お前の力は高く評価していたがな、残念だよ…。」
そう言い残して、ボスと呼ばれる人物は再び自身の顔を金富美月のものに変えて、その場を後にした。
「ボス。終わりましたか?」
ボスと呼ばれる人物が拘置所から出ると、贋鬼と淫鬼がその人物の前に現れた。
「ああ。ところで、お前らの方は上手く行ったのか?」
「はい。めぼしい人物には既に魅了をかけ終えています。合図があればいつでも。」
淫鬼の返事を聞くと、ボスと呼ばれる人物は満足そうに頷いた。
「そうか。なら、今夜だ。今夜に全員連れて行くぞ。」
「「はっ。」」
「ボス。一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
淫鬼がそう言うと、少しボスは怪訝そうな顔をした。
「欲しい人物がいました。私を日本に居させて頂けないでしょうか?」
「ダメだ。お前には他に重要な仕事がある。大方、戦鬼を倒した男が気になっているのだろうが、あいつはまだ泳がせておいていい。」
「ですが!」
「俺に同じことを言わせるつもりか?」
淫鬼が食い下がろうとした瞬間、ボスと呼ばれる人物から禍々しい殺気が溢れ出た。
「……っ。分かりました。」
「分かればいい。行くぞ。」
そう言ってその場にいた3人は姿を消した。
その日の夜、白金学園にいた数名の原石と日本の大臣が突然、姿を消した。
***
<side 有本>
シン君を看病した日の夜。
僕はシン君から手に入れたいくつかの戦闘データを解析していた。
「やっぱり…。恐らくだが、シン君の力は…。」
シン君や様々な異能力者の戦闘データを調べた結果、僕はある事実に気付きそうになっていた。
ああ、もうこんな時間か。
ふと、時計を見るともう日付も変わり夜の1時になりかけていた。
続きは明日にしよう…。
荷物を纏めてF.Cの研究室を後にして、家に向かって歩いて行く。
家に向かって歩いていると、突然背後から何者かに殴られた。
「ぐあっ!?」
一体、誰が…?
ガンッ!!
もう一度殴られたところで僕の意識は途切れた。
「…ん?ここはどこだ?」
目を覚ますと、目の前に二人の男が立っていた。
「久しぶりだね。有本君。」
そう言って声を掛けてきた人物は、かつて僕が働いていた研究所の所長だった。
「所長…?なぜ、あなたが?」
「有本君、共に世界を変えよう。異能力者を科学で凌駕する時が来たのだ。君の持っているデータ、そしてこちらの方の協力があれば簡単だ。」
「…ふひっ。」
所長は昔僕によく言っていたようにそう言った。
だが、その目は昔とは違って濁りきっていた。
「断らせていただきます。」
「そうか。」
僕がはっきりと断ると、所長は意外にもあっさりと引き下がった。
「ところで、有本君。君には15歳になる娘が1人いたよね?何でも、既に君の研究の7割を理解している天才らしいじゃないか。」
「娘に何かするつもりですか!?」
「いや、君の娘に危害を加えることはないよ。ただ、君が研究に協力してくれないなら君の娘にお願いするしかないよねえ?」
「僕の娘があなたたちに協力すると思っているんですか?」
「いや。だがね、自分の父親が目の前で傷付けられていたらどうだろうね?」
所長はそう言って嫌らしい笑みを浮かべた。
「脅すつもりですか…!?」
「まあ、そうなるかもね。さて、君の娘に連絡を取らせてもらおうか。」
「ちょっと待ってください!」
「なんだい?君はもう我々には協力してくれないんだろう?」
くっ…!娘だけはこんなことに巻き込む訳にはいかない……。
「…協力します。ですから、娘だけは巻き込まないでください…。」
僕がそう言うと所長はとても嬉しそうに笑った。
「そうか!!それはこちらとしてもありがたい!では、明日のうちにF.Cを辞めること、それと家族とも縁を切ってもらおう。」
「…なっ!?家族ともですか!?」
「んー?文句があるならやっぱり君の娘にお願いしようか?」
「い、いえ…。ありません。」
「では、よろしく頼むよ。万が一、このことを誰かに言えば君の家族に危害が加わると思いたまえ。」
上機嫌そうに笑う所長を見て、僕はただ唇を噛み締めることしかできなかった。
「ひひっ…。」
所長ではない方の男の不気味な笑みが僕の耳に残った。
***
何とか一日一話を続けたい…!!




