第29話 更に向こうへ
ヒロアカの映画を観に行きました。
やっぱり僕はかっちゃんが好きだなぁ。
戦いもいよいよ大詰めの29話です。
「ぐっ……。」
何とか手に力を込めて立ち上がろうとする。
くそ…。しくじった。
あそこで勝負を急がなければ…。
だが、何で戦鬼に麻痺毒は効かなかったんだ?
まだ立ち上がることが出来ない僕は、目を戦鬼に向けて睨みつける。
「おー、おー。何で動けるのかって顔だな。まあ、偶然なんだがな、ある男がてめえが毒を使ってくるかもって言って解毒薬をくれたのさ。てめえの攻撃の中で短剣での攻撃が一番怪しかったからな。隙を見てそいつを飲んでおいたんだよ。まあ、てめえが毒を使ってるなら毒が全身に回ったふりをすればてめえが引っかかるかと思ったんだが、狙い通りだったな。」
戦鬼はそう言ってゆっくりと近づいてくる。
僕の身体へのダメージは想定以上にあったようで、僕は未だに起き上がれずにいた。
その時だった。
僕の目の前に両手を広げて、僕を守る様に美月さんが現れた。
「あなたたちは異能力者を集めてるんでしょ!?私があなたたちに付いていくわ!だから、これ以上シン君に攻撃を加えるのをやめて!!」
「あーん?知ったことじゃねえな。俺はシンと決着をつけたいだけだ。そこにリバーシの目的とかは関係ないんだよ。そこをどけ。」
戦鬼は美月さんの願いを無視してこちらに歩いてくる。
「くっ!なら、シン君を倒す前に私ともう一度戦いなさい!!」
そう言って美月さんは地面に落ちていた僕の短剣を持って戦鬼に突っ込んでいった。
「きゃあ!!」
しかし、美月さんは戦鬼にあっさりと捕まってしまった。。
「異能を使えない今のてめえに俺は興味を一切抱かない。ここで殺してもいいんだぜ?」
そう言って戦鬼は美月さんの首を片手で締め付け始めた。
「うっ、シン君を襲わせたりなんてしない…。」
「てめえを殺せばシンも怒りでもっと強くなってくれるかもな。」
戦鬼は美月さんを締め付ける力をより一層強める。
「あ……ぐっ……た…すけ……て……。」
美月さんの消え入りそうな声が僕の耳に響く。
なんだこれ?
なんで戦鬼の思い通りになってるんだ?
僕が思い通りにこの世界を生きるための一年じゃなかったのか?
ふざけるな…。
美月さんが笑顔でいられないのも、僕が強キャラっぽく振舞えないのも、全部、僕の弱さと目の前の戦鬼のせいだ。
本当にムカつく。
自分の弱さにも、目の前の戦鬼にも!
きっと、ここで立ち上がらなきゃ僕は一生自分の思い通りに生きることなんてできない…。
これ以上、戦鬼の思い通りにさせてたまるか。
僕の望んだ世界を掴み取るために、もう一度立ち上がれ…!!
ボロボロの身体に鞭を打って、僕は立ち上がる。
「おい。お前の相手は僕だろう?さっさとかかって来いよ。全力でぶっ飛ばしてやるから。」
僕がそう言うと、戦鬼は嬉しそうに笑いながら美月さんを解放した。
「あ……。」
どさっ。
戦鬼から解放された美月さんは静かに倒れた。
「俺をぶっ飛ばす?さっきまで俺にボコボコにされてたくせに面白いこと言うじゃねえか。じゃあ、やってみろよ。」
そう言って戦鬼は僕に向かって走り出した。
戦鬼に対してぶっ飛ばすとは言ったが、僕にこの場を打破する具体的な方法なんてなかった。
身体はボロボロで頭も上手く働かない。
パーフェクト・ゾーンにも入ることが出来ていないのか、不思議なくらい頭の中は真っ白だった。
そんな状況なのに、何故か負ける気は一切しなかった。
右にニ発、左に三発。
不意に銃弾を右にニ発、左に三発撃てばいい気がした。
頭の中がそれだけになっていた僕はすぐに実行する。
すると、右と左から戦鬼がだしたであろう武器が僕の銃弾によって弾かれた。
「…!?」
戦鬼は少しだけ驚いた顔を見せるが、そのまま僕に突っ込んでくる。
巴投げ。
僕は頭の中に浮かんだ言葉に従って戦鬼に巴投げを仕掛ける。
戦鬼は僕の行動が予想外だったのか、綺麗に巴投げの餌食となった。
更に、後ろから来ていた武器による攻撃も巴投げにより態勢が低くなっていた僕には当たらず、代わりに戦鬼がその攻撃を受けていた。
「がはっ!?」
もろに攻撃をくらった戦鬼が苦しそうに呻き声を上げながら、こちらを睨みつけてくる。
「てめえ…。何しやがった。」
しかし、僕は頭の中に浮かんだ言葉に従って美月さんを安全な場所まで運ぶ。
「てめえ!待ちやがれ!!」
戦鬼が僕を追いかけてくる。
僕は美月さんを抱えて逃げながら、先ほど頭に浮かんできたものについて考えていた。
戦鬼も言っていたけど、僕の頭に浮かんでくる言葉は一体何なんだろう?
パーフェクト・ゾーンとはまた違って、僕がとるべき行動が直感で分かる感覚だった。
「…シン…君?」
どうやら美月さんが意識を取り戻したようだ。
僕は廃ビルの外に美月さんを座らせて、再び戦鬼のもとへ向かおうとする。
しかし、美月さんはそんな僕の手をとった。
「逃げましょう…シン君。あの男には、悔しいけど勝てないわ…。」
本当にイライラする。
美月さんにこんなことを言わせてしまっている自分に。
「美月さん、僕は美月さんが心の底から笑えるようにするって言いました。戦鬼を倒さない限り、それを叶えることはできない。だから、戦います。ここで逃げるのが賢い選択なんでしょうけど、僕にはその選択だけはできません。」
僕が憧れた強キャラは絶対に逃げない。
僕は美月さんの手を振り払って、廃ビルの中へ向かっていった。
廃ビルの中では戦鬼が僕を待ち構えていた。
「あの女は逃がしたのか?」
「まあな。」
「そうか。なら、気兼ねなくできるな。さっきのてめえの動きが一体何だったのかは、もうどうでもいい。大事なのは俺が本気を出しても互角に戦える男が目の前にいる。それだけだ。」
そう言って戦鬼は構えを取る。
これが正真正銘、僕と戦鬼の最後の戦いだ。
集中力を高める。
ガラン…。
瓦礫が崩れ落ちる音と同時に僕と戦鬼は同時に動き出した。
柱に傷を入れる。
頭に浮かぶ言葉に従って、僕は戦鬼と距離を置き柱に傷を入れていく。
この行動がどんな影響を与えるかなんて僕にはまだ分からない。
そんな僕を戦鬼は壁や柱から武器を出すことで攻撃してくるが、それらは全て直感なしでも対応できるものだった。
直感に従って戦鬼に攻撃をしかけ、戦鬼の攻撃を避けることを繰り返す。
互いに有効打は打てないまま時間が過ぎていったその時だった。
ズキンッ!!
「…っ!?」
頭に鈍い痛みが走る。
その痛みは時間を追うごとに強くなっている気がした。
どうやら、僕のこの状態もそう長くは続かないらしい。
次の攻撃で勝負を決める。
戦鬼に突っ込め。
頭の中に浮かんだ言葉も最後の突撃を表していた。
僕はこちらに向かってきている戦鬼に真っすぐ走り出した。
戦鬼は僕に向かって、床や壁から剣、槍、砲弾、様々な武器をぶつけてくる。
僕はそれらを進行方向上にあるものだけ弾いて、残りは一切気にせずに走った。
足に槍がかする。左腕に銃弾が当たる。
だが、僕は一切止まらずに戦鬼に近づいて行った。
そして、僕は戦鬼に対して掌底を放つ。
当然、戦鬼はそれを読み僕の腕を掴んで腹から出したバズーカで僕を吹き飛ばした。
ドガアンッ!!
「何をしてくるかと思えば、同じ攻撃かよ。最後は呆気ねえな。」
戦鬼がそう呟くのが聞こえた。
ああ、同じ攻撃だよ。
ここまではな!
僕の頭の中に浮かんでいた言葉は吹っ飛ばされろというものだった。
その言葉通り吹っ飛ばされた僕は最後の力を振り絞り、先ほど掌底の時に戦鬼に引っ掛けておいたワイヤーを巻き上げる。
「なっ!?」
先の攻撃で勝利を確信していたのか戦鬼の身体は無防備な状態になっていた。
ワイヤーの巻き上がる速度がどんどん上がり、僕の身体と戦鬼の身体が急接近する。
戦鬼は急いで自身の前に盾を作るが、無駄だ。
「あああああああ!!!」
僕はワイヤーに引っ張られる勢いを使って盾を蹴り壊していく。
そして、僕の蹴りは戦鬼にまで届いた。
「がああああああ!!!」
僕の蹴りを受けた戦鬼は近くの柱にぶつかった。
戦鬼がぶつかった柱が倒れる。
その衝撃によって周りにあった、僕が傷をつけておいた柱たちが一斉に戦鬼のいる方向へと倒れていった。
それに伴い柱を失った天井も戦鬼のもとへと降り注いだ。
ガラガラガラ……。
静寂がその場に広がる。
ガラ…。
戦鬼が埋まっている瓦礫の山が少し動いた気がした。
そうだよな…。
てめえがこの程度でくたばるわけないよな。
「ああああ!!!」
雄たけびが瓦礫の中から聞こえたその瞬間、僕は戦鬼と僕をつなぐワイヤーを巻き上げる。
瓦礫から出る直前でまだダメージも強く残っている様子の戦鬼がワイヤーで引っ張り出され、僕の前に無防備な姿をさらす。
「これで、終わりだ。」
僕は戦鬼の顎に最後の力を振り絞り掌底を放った。
顎に掌底をまともにくらった戦鬼は今度こそ倒れてピクリとも動かなかった。
勝った……。
勝ったんだ…!!
あれ……。あー、もう限界か……。
最後くらい、強キャラっぽく余裕ぶりたか……った…。
自身の勝利を確信した僕は戦鬼に続くように意識を失った。
決着!!
明日も更新できるよう精一杯頑張りますが、もしかすると、明日は更新できないかもしれません。
毎日、楽しみにしてくださる方々申し訳ありません。




