第28話 最初に余裕ぶると後から苦しめられる
28話です。
剣に変えた戦鬼の右手と僕の短剣がぶつかり合う。
戦鬼は僕に向けて、腹から銃弾を放とうとする。
それを見た瞬間に僕は戦鬼から距離を取り、パーフェクト・ゾーンを駆使して銃弾を躱した。
戦鬼は僕が攻撃を避けるのを読んでいたのか、僕が避けた先に現れた。
だが、そうなる気はしていた。
僕は戦鬼が現れた方向に銃弾を撃ち込む。
戦鬼は剣に変えた自身の右腕でその銃弾を弾く。
その隙に僕は戦鬼に接近して掌底を打ち込んだ。
「ぐっ…!!」
戦鬼が一瞬動きを止める。
僕はその隙に戦鬼の身体にワイヤーを飛ばして戦鬼の身体に巻き付ける。
そして、ワイヤーを巻き上げ無防備な戦鬼に再び全力の掌底を打ち込んだ。
「がはっ……!!」
衝撃を漏らすことなく身体に受けた戦鬼はその場に膝を付いた。
「その程度か…?」
僕が戦鬼にそう問いかける。
すると戦鬼は腹から少し大きめの爆弾のようなものを出した。
それを見た僕はすぐに戦鬼から距離をとる。
ドオンッッ!!!
轟音が鳴り響き、爆炎の中から戦鬼が姿を現した。
「ははは!!ははははは!!最高だぜ!シン!スピード、技の威力、どれをとっても一年前とは比べ物にならねえ。これなら、俺が本気を出しても問題ないよなあ!!」
そう言って、戦鬼はさっきとは一線を画するスピードでこちらに迫ってきた。
だが、そのスピードはVRで僕が仮想戦鬼として戦っていたNPCのスピードとほとんど変わらなかった。
パーフェクト・ゾーンとVRでの経験により、僕は戦鬼のスピードに簡単に対応できた。
剣での振り下ろしからの横なぎ、更に右肩から銃弾が数発、そして刀に変えた右足での蹴り。
一年前は分かっていても対応できなかった攻撃を全て難なくいなすことが出来る。
何なら、反応速度という点では戦鬼より僕の方が早かった。
そして、攻撃が当たらないことにイラつきだした戦鬼が腹からバズーカを出して全てを吹き飛ばそうとする。
「ちっ!!チョロチョロしやがってよお!!!」
この時を待っていた。
バズーカや大きな武器を出すとき、必ず戦鬼は少しだけ隙ができる。
僕は素早く戦鬼に接近して腹からでた砲身を上に蹴り上げる。
ドオンッ!
バズーカが放たれるがそれは砲身が上を向いたこともあり、僕には一切のダメージがない。
そして、隙だらけの戦鬼に僕は短剣を片手に斬りかかる。
戦鬼の腕を捉えるその瞬間、戦鬼は腕を刃に変えて対応してくる。
腕がダメなら…首、足、腹、頬、…。
僕は戦鬼の周りを動き回って絶えず戦鬼に斬りかかる。
それを戦鬼は全て攻撃される部分を武器に変えることで凌いでいた。
そして、僕が戦鬼の背後から攻撃を仕掛けようとした時、戦鬼の背中から槍が飛んでくる気がした。
僕は飛んできた槍を紙一重で躱して戦鬼の背中を斬りつけた。
戦鬼を斬りつけた直後に僕は戦鬼から距離を置く。
「くそっ…。てめえ、この一年何してやがった…。」
戦鬼が悔しそうにそう聞いてくる。
「大したことはしていない。ただ、お前を倒す。それだけを考えて鍛えていただけだ。」
「そうか…。正直、想像以上だぜ。てめえがこんなに強くなるとは思ってなかった。だから、俺も正真正銘全力を出そう。」
そう言った瞬間、戦鬼の雰囲気が変わった。
「なあ、シン。異能の解放って知ってるか?」
戦鬼がそう言ったと同時に僕の足元から槍が飛び出る。
危なっ!
パーフェクト・ゾーンでそれを予測した僕はその槍を躱す。
何だ?一体、何が起きた?
僕の目が節穴じゃなければ、さっきの槍は間違いなく地面から出ていたぞ。
僕がそう思っていると、今度は僕の右にある柱から銃弾が飛んでくる気がした。
ぐっ…!!
僕はその攻撃を躱すが、躱した先にある壁から今度は鎖が僕を拘束してこようとしてくる。
それを短剣で弾いて、背後から近づいてくる戦鬼の攻撃を短剣で受けとめる。
ギインッ!!
「ははは!やるじゃねえか。この状態になってもここまで戦えるのはお前が初めてだぜ?」
僕は一旦戦鬼から距離を置いて戦鬼に疑問を投げかけた。
「戦鬼、お前何をした?」
「この世のほとんどの人間は知らねえことだが、異能には一つ上の段階がある。俺らは異能を一つ上の段階に上げることを異能の解放って呼んでいるんだがな、異能の解放ができている異能力者とできていない異能力者の間には絶望的なまでの差が存在するのさ。」
異能の解放…?
その言葉は今までに僕が一度も聞いたことのない言葉だった。
「俺は異能の解放をすると簡単に勝負が決まっちまうから普段は使わないようにしてるんだよな。だから、光栄に思っていいぜ。俺に異能の解放をさせたお前は間違いなく強い。まあ、俺の方が強いんだがな。」
戦鬼がそう言うのと同時に僕の横で爆発が起きる気がした。
僕は急いでそこから距離を取る。しかし、僕が逃げ込んだ先はたくさんの柱や壁のあるところだった。
まずい!!
その場を離れようとするが、壁と壁、柱と柱の間に金網のようなものが現れて僕の逃げ場を封じてきた。
「てめえの攻撃を予測するような動きも絶対に避けられない状況を作っちまえば問題ねえよな?」
そう言って、戦鬼は僕を覆っている金網の中に小さな爆弾を入れてきた。
ドオンッ!!!
「ぐあっ!!」
逃げ場を失った僕は爆発の衝撃をもろに受けて、金網に身体を叩きつけられた。
くっそ…。
僕は傷ついた身体を起き上がらせようとする。
だが、そんな僕の身体を床から現れた鎖が拘束してきた。
「うっ……。」
そして、身動きの取れない僕の前に戦鬼が姿を現した。
「ようやく、てめえに一発入れられるな。」
そう言って、戦鬼は僕の腹を全力で殴った。
戦鬼が僕を殴るのと同時に僕を拘束していた鎖が外れ、僕の身体は吹っ飛び、瓦礫の山に突っ込んでいった。
ドガアン!!
ちょっと、いや、かなりやばいな……。
今までは避け方一つとっても選択肢がたくさんあった。
だが、今の状況はあまりに選択肢が少なすぎる。
パーフェクト・ゾーンで次に何が来るか直感で分かっていても、途中の選択を間違えてしまえばその時点で逃げ場をなくされてしまう。
戦鬼の考えが全て分かるのであれば、もしかしたら攻撃をしのぎ切ることが出来るのかもしれない。
だが、僕のパーフェクト・ゾーンはあくまで次に何が起きるのか程度のことしか予期できない。
このままでは僕が圧倒的に不利なままだ。
でも、まだ勝ち筋は一応残っている。
「おいおい。まだ戦えるんだろ?もっと戦りあおうぜ!!」
僕が瓦礫の中から現れないことにしびれを切らしたのか、戦鬼がこちらに突っ込んできた。
僕は短剣を片手に持ち戦鬼を迎え撃つ。
ギインッ!
僕の短剣と戦鬼が出す刀や剣がぶつかり合う。
「はっはあ!!こんなに楽しい戦いは久々だぜ!」
戦鬼はそう言って嬉しそうに笑いながら僕に攻撃を仕掛けてくる。
僕はその攻撃をなんとかしのぎながらひたすらその時がくるまで耐え続けた。
そして、その時が来た。
戦鬼の動きが鈍くなる。
やっと毒が回ってきたか…。
そう、先ほど戦鬼に傷をつけた短剣は有本さんから貰った麻痺毒付きの短剣だった。
僕はここぞとばかりに戦鬼に近づく。
多少の嫌な予感はしていたが、勝負を急いだ僕は嫌な予感を振り切って攻撃しに行った。
そして、戦鬼の近くまで行き掌底を叩きこもうとした時、戦鬼がニヤッと笑った。
「まんまと引っかかりやがったな。」
戦鬼がそう言った直後、動けないはずの戦鬼は掌底を放とうとした僕の身体を掴んだ。
な、なんで動けるんだ!?
驚く僕を掴みながら戦鬼は腹から小型ミサイルを出した。
「はっはっは!!!吹っ飛べやあ!!」
戦鬼の腹から飛び出た小型ミサイルは僕の身体ごと壁にぶつかり、爆発した。
ドオオンッッ!!!
「かはっ………。」
僕の身体は静かに地面に落ちていった。
シンの運命やいかに…!!




