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抜粋 6ページ目



「さて、改めて自己紹介をしましょうね。私は古泉ゆかり。後ろの執事が神崎ね。見ての通り無力なお年寄りと頼りになる執事よ。」





倉庫群からどうやって来たのか、俺は森の中の洋館の一室にいた。

安心して意識を失っていたとはいえ、まだそれほど時間がたっていないのは窓の外を見ればわかる。洋館の玄関に放り出された衝撃で気が付いた俺は、そのままリーダーの男に―もう拘束は解かれていた―再び抱えられてこの部屋に連れてこられた。


目を白黒させている間に椅子に座らされ、目の前にはよい香りのコーヒーとお茶請けのクッキーが出されていた。準備が間に合わなかったのか、俺が気後れしないようにかクッキーは庶民なら誰もが一度は食べたことのあるしっとり食感が売りのチョコチップクッキーであった。


驚いたことに、俺だけでなくリーダーの男と老婦人と神崎までもが同じ机を囲んでいた。もっとも老婦人と神崎、俺とリーダーの男がそれぞれ隣り合う形で、手を伸ばしても隣の人物以外には手が届かないぐらいの距離はあるが。



「さて、改めて自己紹介をしましょうね。私は古泉ゆかり。後ろの執事が神崎ね。見ての通り無力なお年寄りと頼りになる執事よ。」


それぞれが着席し、コーヒーをすするのを見届けた老婦人は唐突に自己紹介を始めた。といっても名前しかわからない自己紹介であった。


「正気か?ご婦人。」

リーダーの男は驚いたように老婦人と神崎を交互に見るが、やがて諦めたようにため息をついて自己紹介を始めた。


「はぁ……俺の名はガウナ・フォーゲル。雇い主は言えねぇが、依頼内容はこの小僧の捕獲だ。理由は知らん。今回の仕事のリーダーみてぇなことはしてたが、別段あいつらと仲間だとか部下だとかそういうのはねぇ。今回の雇い主もあと腐れがないのが良かったらしく基本的にどこにも属さねぇ俺を雇ったってとこだろ。」

「あら、そこまでお話ししてしまっていいのかしら?」

「どっちにしろ聞き出されるなら、穏便に吐き出すさ。どうせこれ以上はどうやったって俺からは絞れねぇ。」


俺にはわからないが、何か暗黙の了解でもあるのか老婦人も神崎もガウナに対しそれ以上の質問はしないようであった。もとから興味がないだけなのかもしれないが。


「そうなの。それで、あなたのお名前は?」

「ぉ、俺は元気達也。元気って書いてモトキ、達者の達に也で達也。あの、俺に用事って何だったんすかっ?!っっすんません……」


俺は自己紹介と一緒に思わず身を乗り出しながら質問をしていた。そして少し驚いているような老婦人の顔とこちらを睨みつけるような神崎を見て、ひどく失礼なことをしたのではないかと正気に戻った。


「あぁ、いいのよ。気にしないで?あなたにご用事があるって言ったのはこちらなのだから、いつまでも先延ばしにするのは失礼よね。」

「いえ、あの……」

「神崎、ガウナさんを客室にご案内して頂戴。そのあと彼の様子を見てきてね。」


神崎に怯えていると思ったのだろう、老婦人は神崎とガウナに席を外させた。神崎はもっと抵抗するかとも思ったが、中途半端なまずさのお茶を飲んだような不思議な顔をして老婦人を見た後、おとなしくガウナを伴って部屋を出て行った。


「あの……」


二人きりになっていいのだろうかとか、今日1日のことだとか、いろいろと聞きたいことが多すぎて言葉が出てこない。思わず俺も不思議な表情をしていたと思う。


「ふふっ。いろいろ気になることもあると思うからそれについてもできる限りお話しするわ。でも先にこちらのご用事を済まさせてね。」


こちらの心の中を読んだかのような発言に思わず背筋が伸びる。ほんの数時間しか経っていないがこの老婦人ならできてもおかしくないと思ってしまう。


「心なんて読めないわよ。」

「!!!?」

「っふふふ……。あなた、とても素直ね。とってもわかりやすく表情が変わっているわよ」


くすくすと笑う老婦人に居た堪れなくなり、コーヒーをすすることで赤くなった顔をごまかした。それすらもわかっているのだろうが。


「少しは落ち着いたかしら?借りてきた猫みたいになっていたけれど……大丈夫そうね」

「すみません、落ち着きました」


一連の会話が俺の緊張をほぐすためであったのだとようやく気付いた。おそらく神崎を外に出したのも、俺が無意識に神崎を恐れていたからなのだろ。

そうしてようやっと本題に入った。


「じゃあまずはこちらのご用事から。1つはあなたの携帯電話を返すこと。これは倉庫で返したからあと2つね。もう1つはあなたのお名前を確認すること。さっきちゃんと自己紹介してくれたからこれももういいわ。そして最後の1つなのだけれど……これは一番最後にしましょうか。その前にあなたの聞きたいことに答えたほうがいいと思うから」


そう言ってコーヒーをすする老婦人。若干肩透かしを食らったが、質問に答えてくれるのなら少しでも早く教えてほしい。何から聞くべきか頭の中に様々な質問が浮かぶが、自分でもわかっていないことを聞くというのはなかなかに難しいことだと初めて知った。


「あの、えっと……」

「聞きたいことがありすぎて何から聞いたらいいかわからない?」

「……はい」

「そうねぇ。きっと今日いろいろなことがあってまでしっかり整理できていないと思うから、今日1日の出来事を順番に話してみて?その途中で分からないところがあったら質問して頂戴」


穏やかに尋ねてくる老婦人の言葉にうなずいて今日の出来事をひとつづつ思い返すことにした。


抜粋終了


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