3ページ目
抜粋 3ページ目
「いつまでもスネてんなよ」
ふくれっ面のハルと一緒にコンビニまでの道を歩く。そんなにソウと一緒がよかったのか。
「だってー、どうせなら3人一緒がよかったなぁって! 」
「どうせすぐソウも来るんだからいいじゃねぇか」
「まぁそうなんだけどー……。あれ、スマホない。ゲンちゃん俺のスマホ知らない?」
ぱたぱたと上着やズボンのポケットをはたきながら確認するハル。確かゲーム中に落としたらいやだとか言ってソウがやっていたゲームの横に置いていた記憶がある。
「あー、ソウの横の机んとこじゃないか?」
「そうだった! ちょっととってくる!!」
「は? ソウに一緒にってもう行ってるし……」
来た方向に走り出したハルはどれだけソウが好きなんだろうか。たまに自分が邪魔なのかとも思うが、俺がいないとそれはそれですぐ探しに来るのだ。
俺までハルを追いかけてもしょうがないのでそのままコンビニに向かった。
『いらっしゃいませー』
さて、何買おうか。ジュースと菓子、昼がまだだったから腹にたまりそうなものも買おうか。あいつらに一応なにがいるのか聞いたほうがいいか?
とりとめもないことを考えながらスマホのアプリを起動した。
――ソウちゃんもちょうど終わったからいっしょに行くねー
タイミングよくハルから連絡がきた。というか早いな。ゲーセンまで全力ダッシュか……
――了解
すぐに追いついてくるなら聞かなくていいか、なんて思いながらスマホを手に店をうろついていた。
ドォン
すごい音と同時に衝撃が来る。棚の商品もいくつかは床に落ちていた。
『大丈夫ですか?! すぐに外に避難してください!!』
幸いにも店の中で怪我した人間はいなかったようだ。店員がすぐに外への避難を呼びかける。俺もとりあえず外に出た。
外は砂煙が充満しており、近くの店から出てきた人であふれていた。
「なんだ一体……」
何が何だかわからないが、もし気のせいでなければゲームセンターがあるあたりで空高く煙が立ち上っていた。2人のことが気にかかった。スマホに二人からの連絡はない。
人をかき分けながらもと来た道をたどる。人が多いからか、避難する人の流れに逆らっているからか、ほんの数分の距離がとても長く遠く感じた。
やっとの思いでゲームセンターの前まで戻ると道にはガラスが散乱し、建物は跡形もなくなっていた。
第2、第3の被害を恐れてだろうか、店の正面に人はおらず、道を挟んだ向かい側から遠巻きに見ているぐらいである。
「うそ、だろ……」
遠くからサイレンの音がしている。救急車かパトカーか。そんなことはどうでもいい。俺は目の前の現実を受け入れられずにいた。
茫然自失であった。ふと手に握りこんだままのスマホに目を向ける。
そうだ、きっと爆発直前に店の外に出ていたに違いない。怪我してどこかに移動しているのかもしれない。そう思いすぐにハルに電話した。
――おかけになった電話は電源が入っていないか、電波の……
すぐにソウのほうにかけなおす。
――プルルルル、プルルルル
よしかかった!そう思うと同時にすぐ近くから黒電話の音がする。
誰だよ! 紛らわしいことすんなよ! ソウと同じ着信音なんて……
理不尽なことを思いながらも焦りが心を支配する。
ソウも出ない、ソウと同じ着信音の奴もなかなかでない。
あたりは黒電話の音に支配されていた。
ふと、音が聞こえてくる位置がひどく低いことに気づいた。
見たくない、気づきたくない、そんなことを思いながらも視線は店の入り口に向かう。
崩れ落ち瓦礫が散乱している場所へ
――おかけになった電話を……
カツン
手からスマホが滑り落ちる。
そんなことはどうでもいい。俺の目には瓦礫の中で光るスマホしか映っていなかった。
落ちた際に通話が切れたのか、目に映るスマホには直前の操作画面に戻っている。
見えるはずのない画面の中の文字が見えた。
――ソウちゃんもちょうど終わったからいっしょに行くねー
――了解
記憶のあるやり取りだ。ついさっき、ほんの数分前のやり取りだ。
ドクンッ
ドクンッ
ドクンッ
周りのざわめきも何も聞こえなくなっていた。
自分の鼓動の音がひどく耳に障った。
ザリッ
すぐ横に誰かが立つのがわかった。視線を動かすことはなかったが、横の人物がゆっくりと体をかがめて足元の俺のスマホを拾おうとしているのがわかる。
それでも俺は瓦礫の中のスマホから目がそらせなかった。
――ソウちゃんもちょうど終わったからいっしょに行くねー
――了解
何度も何度もこのやり取りが頭をめぐる。
そして横の男が俺のスマホに手をかけたと同時に、ソウの最後のメッセージが見えた。
最後に書いて、そのまま送信できなかったメッセージ
俺に伝えようとした、ソウの最後の……
――に げ ろ
抜粋終了