VSガエバロス・下
ガエバロスの咆哮に対するカーチスの指示は早かった。
「ジョセフィーヌ!! 方角は!!」
「3時の方角から2体、5時半の方角から1体!! 4秒後にエンカウント!!」
「了解!! 魔術師部隊、砲撃用意!!」
『オー・イエッサー!!』
4秒後、2体のガエバロスが。
否。
2つの頭を持つ、1体の異形ガエバロスが姿を現した。
「フ、フタクビ……!!」
そして。
「ひいっ!! コクコクヌシまで!?」
頭から背中にかけて、岩山のように変形した鱗を持つ、ガエバロスの親玉。
その時。
『よくも……姉上を殺したな』
その言葉は、全員の頭の中へと届いた。
言語を用いず、自らの意思を相手に伝える念話。
これ程までに高位の魔物なら、使えてもおかしくはない術だ。
『よ゛ぐも゛お゛おおおぉぉおおおおぉっ!!』
怨嗟に満ちた、悍ましい声が響き渡る。
それだけで、モルゾ・キナの民は一部を除いて失神してしまった。
「……ザックス班!! ザックスとキャメロットを残して、モルゾ・キナの民を避難させろ!!」
「えぇ……あたしも逃げちゃダメなんですかぁ……」
キャメロットと呼ばれた、金髪の女戦士は不満そうに愚痴を垂れた。
彼女は外見こそ人族と変わりないが、その出自はジャングル奥の村で育った闘神族の女。
筋骨隆々の体つきが、彼女がいかに頼もしい存在であるかを物語っていた。
──ジュラアアアアアッ!!
「そら来たぞ!!」
2方向から体をくねらせて這いよる、2体の怪物。
その動きは酷く緩慢。
魔術師部隊が、地属性魔術でバリケードを作る時間は十分にあった。
「ふむ……どうやら普段は地下に潜って生活しているらしいな」
「ガハハ!! 観察するなんて流石の余裕だなぁカーチス!!」
「余裕じゃない。冷静なだけさ」
ザックスの軽口に対し、冷や汗を滲ませながら答えるカーチス。
数々の修羅場を潜ってきた彼だからこそ、今がその修羅場である事をよく理解していた。
「さあ……ここからが本当の地獄だぞ……」
◆
二首ガエバロスに向かうメンバーは3名。
ザックス。
キャメロット。
ジョセフィーヌ。
嗅覚が鋭いだけではなく光と命、2つの属性魔術を習得しているジョセフィーヌ。
2人のメインアタッカーが攻撃する中、物陰から光線や光の弾丸を飛ばしていた。
「オラオラオラ!! 俺はここだぜ、デカブツァ!!」
巨大な斧を、軽々と振り回して見せるザックス。
斧の重量は、140キロ程度。それをまるで木の枝でも持っているかのように扱えるザックスだが、無論、筋肉だけでそれを可能としている訳ではない。
力属性・強化系・闘気型の魔術『剛力』によって、筋力を上乗せしているのだ。
「あたしを忘れないでね、フタナリ……じゃなくてフタクビちゃん!」
下劣な言い間違いをするキャメロットも、その両腕に一本ずつ持った大刀で二首ガエバロスを攻撃する。
だが。
──ペッ!!
二首ガエバロスは、毒の唾を吐きだした。
その標的はジョセフィーヌ。
外見からして非力な彼女に、唾を。
「不愉快」
一言だけ発した直後、ジョセフィーヌの前方にバリアーが発生。毒の唾は一滴残らず消滅する。
光属性と命属性の複合である聖属性の障壁は全ての不浄を受け付けない。
「この私に唾を吐き捨てたわね……畜生の分際でっ!! 後悔させてやるわ!!」
怒りの形相を浮かべたジョセフィーヌの周囲に、巨大な光の渦が浮かび上がる。
そして呪文を唱える。
「『白濁に濡れる孤児乙女・汚されし純情に犯された身と心・神の不在を確信せし路地裏の一幕』」
──神威乃閃光!!
詠唱を完了した直後、白く輝く光線が二首ガエバロスに照射される。
その攻撃は、二首ガエバロスの鱗を凄まじい勢いで焼いていく。
しかしそれだけでは終わらない。
ジョセフィーヌは、詠唱を続けた。
「『円卓を囲む青白き人形・白濁を舐める幼き同胞・裸の聖女が従事するは法王の夜伽・神に許された酒池肉林の宴』」
神威乃閃光・追式!!
二首ガエバロスの頭上に現れた光の渦から、光の柱が照射される。
縦横から放たれる光の十字架を形成。
その十字架は、二首ガエバロスの体を魂ごと焼き尽くした。
「……やりすぎ、でしたかね」
ジョセフィーヌらの眼前には、二首ガエバロスの亡骸と焦土となった森林跡地が広がっていた。
◆
ジョセフィーヌ等が二首ガエバロスと対峙していた同刻。
ガエバロスの親玉、アーマード・ガエバロスの前に立ち塞がるのはカーチスとヤハローアの2人。
322年の時を生きた幼き歴史、ヤハローアは眼前の怪物を見上げながらニコニコと笑っている。
「わぁ、おっき~」
「言ってる場合かね……そら、来るぞ!」
A・ガエバロスの頭突きが、物凄い勢いで2人に迫る。
2人はその場から左右に飛び退くと同時、ヤハローアが強烈な置き土産を残していく。
──百幕爆弾!!
物質転送によって百個の爆弾をA・ガエバロスの眼前に展開。大規模な爆風が、周囲の木々を無慈悲に吹き飛ばす。
「ハハハハハ!! いやぁ、森林破壊は心が痛むねえ!!」
狂気に満ちた笑みで、そんな事を叫ぶヤハローア。
『作物の実りが悪いのは、あの娘のせいだ!!』
『そうよ!! あの大魔力は、大地から魔力を奪っているせいよ!!』
「(……お前らが川にゴミを流して精霊の怒りを買ったからだよ!!)」
──百幕爆弾!!
過去のトラウマを魔力に変え、八つ当たり気味の追撃を行うヤハローア。
そして一向に目立たぬカーチスはというと、A・ガエバロスの頭の上によじ登っていた。
「そーれ!! 脳に直接電気を流し込んだらどうなるのっと!」
──雷光剣!!
テンション高く、電流を纏った剣をA・ガエバロスの脳天に突き立てる。
高濃度の魔力によって、貫通力を強化された切っ先は岩盤のように強固な頭蓋を容易く突き破る。
──ジャオオオオオオッッ!!
その叫び声は苦痛によるものか、それとも単なる不快感か。
A・ガエバロスは頭を上下に振り回し、カーチスを振り落とそうとする。
だがカーチスはその指の力でA・ガエバロスの口角にある凹凸を掴み、意地でも離れまいとしていた。
「ガエバロスの王よ!! 生憎、この世は弱肉強食だ!! 貴殿にはここで死んでもらおう!!」
──雷神一直剣!!
雷光一閃。
カーチスの持つ剣が、一層激しく光り輝く。
頭蓋を貫き、下顎まで突き破る破壊の一撃。
A・ガエバロスの命が潰えた瞬間だった。
◆
「すまなかった!! どうか許してくれ!!」
モルゾ・キナ族の大人達が総出で土下座を披露する。
そして、それに対して横柄な態度をとるようなカーチス冒険体ではなかった。
「はっはっは! 気にするな我が友よ!! 今回の冒険を本に起こせば、今年度の王国文学賞を受賞する事間違いなしだ! いい体験をさせてもらった!」
既に撤収の準備を進めているカーチス冒険隊。
その積み荷の中には、ガエバロスの亡骸がいくつも積み重なっていた。
彼らは7度の世代交代を繰り返しながら、こうして冒険を続けている。
そしてこれからも。
七代目カーチス──本名コンフェイ・カーチス・ダルメヒューズは、次の冒険の舞台を探して仲間達と旅を続けるのであった。
──完──
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9/22現在、2作目を書き溜めている最中です。
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