58 ゴーレムが行く
火炎王の治める島国。スール王国。
そこには幅千歩の千歩海峡と呼ばれる海峡があり、大陸からの敵襲から、島を護ってきていた。
いままでは。
「千歩海峡ッ、完全に埋まりました!!!」
「死者の総攻撃が始まっています! 海が見えません……全ての視界が死者です!!!」
火炎王の部下が血相を変えて報告を行う。
数十万の死者の群れが視界の限りを埋め尽くし、島に向かってきている。
島側では土魔法使いが急増の城壁を作ったが、島全域に攻撃が行われれば少しも持たないのは確実だった。
「全力を尽くし、迎撃を行え!」
火炎王が悲壮な表情で命令を下し、将軍たちが持ち場に散っていく。
敵が数の優位をフルに発揮できる状況を作った以上。
圧倒的少数の火炎王軍や人類帝国軍に待つのは確実な敗北である。
いつもへらへらと芝居がかったポーズを取る人類皇帝でさえも、状況は良く分かっているようだった。
「魔道戦艦には乗せれて三百である。選抜を……」
人類皇帝が撤退の算段をし始めたころに、陣幕に現れたものが居た。
「用意ができた、ウィルはどこ?」
科学者の少女、アメノだった。
◆ ◇ ◆
それは鉄の暴風だった。
巨大なアーマードゴーレム。
鎧から複数の腕が伸び、十本の無限刃ロングソードが死者を切り刻んだ。
死者たちが必死になってゴーレムの外壁をたたきつけるが、磁力のようなものに弾かれ全く効果が無い。
それどころか殴りかかろうとした瞬間に、腕ごと首を切り落とされた。
アーマードゴーレムの中にはウィルがいた。
― ― ―
ウィルはアメノにすさまじい重さの鎧を着せられ、戸惑っていた。
「大丈夫、人間十名分の重みがあるけど……ウィルしか装備できない」
どういう理論かわからないが、皇龍のメダリオンの加護も使って、最大限に身体強化することでなんとか着ることができた。
「これは船外活動用パワードスーツ。重量はあるけど、その分、調査船から直接エネルギー供給を受けて活動できる」
アメノが一生懸命説明してくれるが、良く分からない。
「島中から集めたプラチナを使って、大急ぎで建造した核融合炉十基分のエネルギーを全部、機動と電磁力バリアに回すことができる」
とにかく、重いのと、すごい魔力が込められていることは理解した。
出撃姿勢を取る。
「パワードスーツウィル!! 起動!!」
ウィルは今までにない感覚に一瞬戸惑ったものの、すべてが直感的に思った通りに動くため、すぐに慣れた。
― ― ―
シャシャシャシャッ!!!
エルフゾンビが一斉に矢を射かけてくる。
ギャアアア?!
周りのゴブリンゾンビに流れ矢が当たって数十体が倒れ伏す。
しかしアーマードゴーレムに騎乗したウィルには一本も刺さらない。
電磁力バリアという防護魔法によりすべて防ぐことができた。
足元から火炎が噴き出し、ウィルが加速した。
そのまま、起動を制御してエルフゾンビの群れに突入する。
グギャアアア?!
鉄の塊となって集団に飛び込むと一瞬で数百のエルフゾンビが四散した。
血と体液が飛び散るが、電磁力バリアにより一滴もウィルにはかからない。
「匂いすらしないな」
アーマードゴーレムに搭乗したウィルは周りを見渡して呟いた。ダメージを受けないどころか匂いすらしないとだんだん現実味を失ってくる。
ガアア!
新手の雄たけびが上がった。
見るとドワーフゾンビが数千体、斧を振りかざして襲ってくる。
相手は十歩の距離まで近づくと一斉に斧を投げつけてきた!
キンッ!!!!
しかしすべて電磁力バリアで弾かれる。
ドワーフゾンビの群れに突入するウィル。
グギョアッ?!
一瞬ですべてミンチとなった。
更なる新手が来た。
グオオオ!
オークゾンビが怪力でウィルのパワードスーツに掴みかかろうとしてくる!
しかし、電磁力バリアが出力を上げる。
ジュワアアア!!!
オークゾンビの手が溶けた。
一瞬たじろぐオークゾンビたちだが、次の瞬間にはウィルに首を取られている。
さらなる新手のゴブリンゾンビ……はすでに逃げ出していた。
数百万の死者をつぎ込んだ敵の攻勢は一気に勢いを削がれて、一時的に敵が引いていた。
「ウィル、そのまま海中へ。大丈夫、本来船外活動用モジュールだから酸素供給も問題ない」
アメノの声が耳元で聞こえる。すさまじい魔道技術である。
ウィルはそのまま海中に沈むと、千歩海峡を埋めていた死者の死体の山を蹴り崩した。
◆ ◇ ◆
火炎王の陣営。
「湖畔の伯爵ウィルよ! 見事な勝利であった!! もう歴史書のページが無いから火炎王よ、ノートを献上せよ!」
「ええ、百冊ほど進上いたしましょうぞ!」
人類皇帝と火炎王が大喜びでウィルを迎えている。陣営全体も勝利に沸いていた。
そんな中、ウィルはなんか疲れ切った表情で椅子に座り込んでいる。
「食べないといけない」
アメノはテーブルに並んだロブスターのチーズ蒸しを切り分けると、ウィルの口に運んだ。
「ありがとう……」
ウィルは疲れ切っている。局地戦レべルでは無限と言っていいエネルギーを供給されているとはいえ、操縦しているのは生身の人間である。急激なGの影響もあるし、脳神経接続で巨大なパワードスーツを稼働させ続けるのも消耗が激しい。
無人兵器も検討はしたが、進化しつづける死者たちに対して、素人の白兵戦ノウハウではすぐに対処されてしまう危険性があった。
船外活動用パワードスーツは中央で建造されたものであり、何台も簡単に合成できるものでもないのだ。
よって、最適な選択として、白兵戦のセンスとノウハウにあふれ、パワードスーツを着ることができる身体能力を持つウィルを載せるしかなかったのだ。
ウィルの活躍を見たいからではない。私情は一切挟まってなかった。
「……かっこよかった。はい」
白身魚のフライを切り分けて、ウィルの口に運ぶ。
「もぐもぐ……アメノは食べなくていいのか?」
「……」
食べたい。食べよう。
目の前には豊かなスールの海で取れた様々な海産物が思い思いの調理法で並んでいた。
肉だけでなく、魚というのは初めてだ。
「食べさせてやるよ」
ウィルが白身魚を口に運ぶ。
「あふ……」
ほろほろと口の中で肉がほどけて、魚のうまみが口全体に広がった。
「んーっ!」
全身で美味しさを表現する。
「……邪魔しない方がよさそうだな」
「お疲れのようだしのう」
ウィルとアメノに話しかけようとした人類皇帝と火炎王は顔を見合わせると、人払いを命じ……ウィルとアメノは思う存分食べさせあいをしていた。
それまでは。
『マスター、未確認飛行物体です』
「伝令ーーーっ!」
サポートAIから通信が入るのと、伝令が駆け込んできたのがほぼ同時だった。
「……ドラゴンです! 大きさは……長老級!!」
「おお!めずらしい?」
「なんだとぉおおお?!」
伝令を受けて人類皇帝と火炎王が驚愕する。
そこにサポートAIから追加報告が入った。
『マスター、珪素反応あり。空飛ぶトカゲは……ゾンビです』
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