表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中世騎士と宇宙世紀科学者 ~ファンタジーとSFの異文化ラブコメ! ゾンビ世界でグルメ開拓スローライフ!?~  作者: 神奈いです
私たちの敵とは

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/61

54 人類帝国軍最高戦力


 大陸と島に挟まれた幅千歩ほどの海峡。


 死者ゾンビの侵攻を防いだ天然の堀であるそこは、実にひねりも何もなく「千歩海峡」と呼ばれていた。


 その島側の海岸に設置された火炎王軍の陣地にウィルたち一行はかけつけていた。そこに負傷した火炎王が運び込まれている。


 陣地では将軍たちがあわただしく指令を出していた。


 「敵は火炎耐性を身に着けた! 火炎魔法使いではだめだ!」

 「風魔法使いと水魔法使いをいるだけつれてこい! とにかく海峡を渡らせてはいかん!」

 「土魔法使いぃ?!! そんな地味なのは要らん! 戦後に城壁の修復に必要だから待機させとけ!」


 ぐさっ。


 なぜか引きつった笑いを浮かべる土魔女のジョセルを引っ張りながら、王の陣幕に急ぐ。


 

 赤いドレスに身を包んだ金髪の少女、シャル姫が真っ先に陣幕に飛び込んだ。


 「父上はどこじゃ!」


 「いつも通り敵を殺し間に誘い込んで、火炎大魔法で焼き払う手はずだったのです」

 「それが最前線で大魔法を詠唱しておられる火炎王陛下に火炎の中から複数の死者ゾンビが同時に飛び出してきて……」

 「王は膝を死者ゾンビに……」


 主治医らしき水魔法使いがベッドを指さす。そこには血止めされ、左膝から下を失った王が横たわっていた。鎧もすべて脱がされ、変えたばかりと思しき真新しい下着に血が赤く滲んでいる。

 

 「父上?!」

 

 ベッドに駆け寄り、泣きながら王の手を握りしめる。


 その手も傷ついているだけでなく、全身に死者ゾンビの手や爪で攻撃を受けた後があった。


 「生命力が低下しております、このままでは」

 「そなたは治癒をつかさどる水魔法使いであろうか!!! それを何とかせい!!」

 「しかし……」

 

 蒼白になりながら説明する水魔法使いにかみつくシャル姫。


 「よい、儂にもわかる、もう永くはない」

 震える声で告げる火炎王。


 「現に、脚に死者ゾンビ病の兆候がある……まだ意識があるうちに、頼む」


 懇願する火炎王。つまり、今のうちに首を取れと言うのだ……実の娘に対して。




 この展開はまずい。ウィルは小声でジョセルを外に出るように促した。しかしジョセルはかぶりを振って。

  

 「いいですよ、気を遣わなくても。一族を岩に埋めたことに後悔はないですし……慣れてます」

 「……そうか」

 「やっぱりアンタは優しいですね。ま、外で土魔法に対する差別を聞かされるよりましですよ」


 苦笑するジョセル。冗談で紛らわしているのか本心なのかは分からない。

 


 

 芝居がかった手振りで黒マントの人類皇帝がベッドに進み出た。


 「王よ、それは娘にさせることではあるまい。余が行おう」

 

 空気を読んだのか、おつきのホムンクルスも黙ったまま立ちすくんでいる。

 

 ベッドに横たわる火炎王が呟いた。

 「おお、皇帝陛下に……それは名誉なことだ」

 「余の皇帝魔法であれば、苦しみも痛みもなく眠るように……なんだ至高の美少女アメノ殿」


 くいくい。


 と見るとアメノが人類皇帝のマントを引っ張っている。


 「私が治療する」

 「できるのか?! いや、アメノ殿なら……」


 アメノの発言に人類皇帝が軽く驚くと、すぐ納得した。

 火炎王が尋ねる。 


 「その娘は?」

 「うむ、こちらの青髪の至高の美少女はアメノ殿といい、異国の錬金術を修めた大魔道で」

 「そうか、皇帝陛下の紹介であればぜひお願いしたい」


 火炎王が治療に合意したが、シャル姫がかみついた。

 

 「そなた、本当に治せるのじゃろうな?!」

 「私は科学者」


 「いや、理屈になっておらぬ……」

 「血が不足している。あなたが火炎王のクローンなら……来て」


 アメノが合図をするとメイドゴーレムのエーアイが機械腕を伸ばしてシャル姫を捕獲した。


 「確保ーーー!」

 「ぎゃー?!」



 「よい、いずれは死ぬ運命。ならば望みにかけたい。それよりも敵を一体でも多く倒すのだ」

 

 血相だって襲い掛かってきそうな部下を火炎王はなだめると、エーアイに運ばれてアメノのフネに進んで行った。



 ― ― ―



 王と姫を拉致され、火炎王の陣幕を奇妙な沈黙が支配した。居並ぶ将軍たちも何をしていいか分からないようだ。


 「で、敵はどっちなんだ?」


 ウィルがそんな将軍たちに呼びかけた。

 

 「聞いてどうする?」

 「むろん戦う。死者ゾンビは等しくすべての人種の敵」


 おお……将軍たちの目に少し光が戻った。やることを思い出したようだ。


 人類皇帝が右手を差し出して芝居がかった口調で話し出した。

 「火炎王の将軍たちよ。よもや、主君の最後の命令を忘れるとは申さぬであろうな」

 「もちろんだ! 主君の命令を忘れるわけが無かろう!」


 「では、この人類帝国軍が加勢する! 死者ゾンビの軍を押し返そうではないか!!」

 「せんそうだー」

 「たたかうぞー」

 

 くるくると皇帝の周りをまわるホムンクルスの女の子二人。


 「おお、そうだ! 戦うぞ!」

 「今すぐ戦える兵を全員集めるのだ!」


 将軍たちの動きが再開した、逃げ伸びてきた魔道貴族や兵をかき集めて反攻に出るようだ。


  

 ウィルは不思議に思って質問した。

 

 「陛下? 人類帝国に軍がございましたか?」

 「うむ! 戦力は伯爵1名」


 そうだと思った。



 ウィルは剣を軽く握りしめた。いくぞ。

土曜日1回目の更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現行連載作  迷宮伯嫡子はカネがない

大借金で領地取りつぶしの危機である。頼れる親や重臣たちは外出中、財布は空で留守番役。 状況を切り抜ける特別なご加護や卓越した武勇や超魔力なんかもない。 そんな状況だけどボクは前向きに取り組んでいく。 まずは軍資金ゼロで軍隊を動員?できなきゃ領地は大変だ?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ