51 子入りの卵
湖畔の集落。
こっこっこっ……と声を上げて、数羽の犬ぐらいの大きさの鳥が地面の虫をついばんでいる。
森人の長、ティリルが持ってきてくれた大ニワトリである。
「これは人間のペットなのだろ? 森で拾ったから連れてきた。飼うといい」
ウィルはティリルに丁重に礼を述べた。
人間の生活を復興するためにはこういう有用な家畜は必須なのである。特に大ニワトリは良く卵を産むし味もいい。
「どうだ、じたばた地面をはいずっていて可愛いだろう。鳴き声も可愛いぞ♪」
ティリルがニコニコしながら告げるのをウィルは複雑な表情で見ていた。
どうも森人と人間は感性の違うところがあるが、肉をほとんど食べない彼らにとってはペットの扱いなようだ。
集落の住民たちが大ニワトリを見て集まってくる。
「おお、ニワトリですなー。丸々と太って美味そうだ」
「鍋がいいですかね、串焼き……」
「腹に詰める香草集めないとなー」
口々に大ニワトリの殺し方を相談する住民たちを見て、ティリルがギギギとゴーレムのような動きでこちらを振り向いた。
何とも言えない表情をしている。
「た、食べるのか……可愛いのに」
「いや、ペットとしてもらったから食べるのは」
なんかティリルは結構ニワトリが気に入っていたようであるので、ウィルはさすがにちょっと気が咎めていた。
しかし、ティリルは気を取り直して言った。
「いや、いいんだ。本来は森の生き物でもないし、パパがおいしく食べてくれれば……」
「だから食べないっていうか、パパじゃないからな?!」
「大丈夫、責任は一切求めないし、空き時間で抱いてくれたらいいから!」
だからそうじゃない、とティリルを制するが、聞く気が無いようだ。
森人の特徴である綺麗な長い金髪と、透き通るような肌そしてすらりとした肢体は魅力的だし、好きに抱いていいというのは魅力的な提案ではあるのだが……。
いや、そういうことを考えるのはアメノに失礼だろう。でもアメノは俺を捨てるのでは。でも。でも。
ウィルは頭が混乱してきたので、差しさわりのない会話を続けた。
「それにまずは増やして卵を産ませたい。子なしの卵なら食べてもいいだろう?」
「子なし? 見分けがつくのか?」
「簡単な魔法があってだな」
ティリルが聞いてくるのでちょっと得意になって説明をしていると。
「詳しく」
「うわっ?!」
いきなりアメノが近寄ってきた。
そのあとは、二人にせがまれて、ニワトリのつがいでの飼い方と卵に子が入っているかどうかの見分け方を説明するハメになった。
良く分からないところに食いついてくる二人である。
◆ ◇ ◆
こっこっこっ……
アメノの目の前を大ニワトリが通り、ひたすら地面をついばんでいる。
ふむ。
ニワトリはタマゴで子供を作るのか。
アメノはウィルから学んだ子供の作り方と増え方を脳内で復習していた。
実に興味深い。しかし人間はタマゴを生まないので、やはりクローン設備が必要になる。
森人はどうやって子供を作るのだ。クローン設備があるんだろう。
「何の話であるか」
ティリルを問い詰めたが、どうも話が通じない。困ったものだ。
つまり、新しい個体、子作りの方法を聞いている。
「ふっ、そんなことも知らないのか」
ティリルは何故か自慢げに胸を張ると。
「子作りはこう、男が女を抱いて、キスをすればこう、いつの間にか生まれるのだ!!」
何。それなら、もう私の子供がどこかに?! おかしい、設備もないのにどこで生まれたのだ。
「……何言ってやがんですか」
いつの間にか土魔女のジョセルがジト目でこちらを眺めていた。
呆れた顔で説明する。
「ちゃんとベッドインしないで、キスするだけで子供なんてできないですよ」
「何?! 母上の話と違うぞ!!」
驚愕するティリルを横目に、アメノも反論する。
「いや、子供ができたとして、どこで培養するのだ。設備が……」
三人でどうにも噛み合わない議論をしていると。
「何々何の話?」
燻製屋の嫁、フィリノがやってきた。
― ― ―
フィリノは三人の話を聞いて、はぁ……と一つ大きなため息をついた。
豊満な胸を押さえつけるように腕を組むと、こめかみに指をあてて呟いた。
「えっと……お三方とも、子供じゃないんですから……」
どうも何か知っているようだ。教えてほしい。
アメノが頼むとフィリノはしぶしぶ説明を始めた。
「えっと、ジョセル様が一番近いですが、ベッドに入って何をするかご存知ですよね?」
それを聞くとジョセルは急に顔を赤らめて横を向いた。
「ベッドに入って次に何をって……ほら。な、なんかするんですよ」
「一番知ってそうだと思ったのに、知らなかった?!」
フィリノはちょっと驚く。
それを見てジョセルはさらに恥ずかしそうに呟いた。
「うるさいですね……、男と付き合ったことなんてないんですよ」
そこにティリルが口を挟む。
「まて、私は母上様に聞いたぞ」
皆に促されて続きを言う。
「キスをして、あとは殿方にどうぞ脱がせてください。といえばあとはしてくれると」
「……意外と実用的ですね」
「何も知らないのは変わりやがりませんよね?!」
フィリノのコメントにジョセルが噛みついた。
自分一人だけ何も知らないのではないと主張したいようだ。
仕方がない、きちんと説明するか。
アメノは皆に子作りの方法を説明し始めた。
「子作りの方法だが、まず女性の膣に採取用の機械腕を差し込み生殖細胞を採取」
「ひっ?!」
何故かフィリノがびっくりする。
「男性側にも泌尿器にこういう形状の機械を差し込んで……
そして両者の細胞をかけあわせたものを培養タンクにいれて」
……きちんと説明しているのに、三人ともじりじりと私から離れるのは何故だ。
「そ、そんなもの入れるんですか……怖い」
「母上?! そんなことしてたんですか?!」
「錬金術が一番怖いですよそれホムンクルスの作り方ですよね?!!!」
口々に非難される。何故だ。
というか、これを聞いて驚くということは、あなたたちはどうやって生まれたのだ。
「あ、あのー。とりあえず皆さん、普通の子作りの方法ご存じないようなので……」
フィリノが良く分からない説明を始めた。
― ― ―
「え、そんなものを?!」
「そんなに大きくなるのか……」
「無理無理、そんなに広がらないぞ、だって今でも指一本……」
― ― ―
「え、何、気持ちいいの?」
「童貞はだめか……」
「ふむ、ちゃんと落ち着いて経験を積ませる必要があると」
― ― ―
「そんな原始的な方法をするのか! しかもお腹で?!」
「お腹以外で作ったらホムンクルスですよ?!」
「一回で何人作れるんだ。 こっちのやり方なら数千人……!」
「子供が数千人もいたら困る?!」
「一回で済ませようとしないで?!」
― ― ―
ぜーはー……
なぜか途中から大激論になって、アメノもジョセルもティリルもフィリノも疲れ果ててしまった。
なんということだ……。
アメノは茫然と立ちすくんでいた。
「ということは、子供は相当貴重なのではないか?」
簡単な疑問を口にしただけなのに、ジョセルとティリルから口々に非難された。
「当り前ですよこのボケ子」
「だから子供は大事だし愛するのだぞ」
大事にする。愛する。
なんだろう、良く分からない。
「しかし、それは効率が悪い気もするが」
「子供を効率で考える馬鹿がどこにいやがりますか!?」
「そう、だからこそ、良い種を貰わないといけないのだ!」
効率は悪い。全体最適ではない。だけど、誰かに愛されて生まれて、そして必要とされるのは……ダメなことだろうか。
結論は出ている。効率が悪いし、統合民主主義に反する。しかし……
アメノは悩んでいる。
その様子を眺めながら、ジョセルとティリルは相談していた。
「やっぱり森人もウィル狙いだったんですねぇ」
「そういう魔女もか」
「……アメノがこのレベルということは、ウィルはまだなのでは?」
「よし、行くか」
何日分の更新かわかりませんが、がんばります。
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