38 プラトニックに愛して
月明りに照らされ、調査船の灰白色のデッキの上。二人っきり。
アメノの青い髪の毛と光沢のある衣服が怪しく光る。
アメノはウィルの顔を両手で挟んでいた。
その小さな桜色の唇がウィルの口に押し付けられている。
「んー?!」
「んっ……」
ウィルが軽く唸って、そして身体が強張って動かなくなった。
軽く唇を動かすと相手の唇がぷるんと動いて押し戻してくる。
柔らかい。
頭がぼーっとする。
この前からずっとボーっとしている気がする。
息が苦しくなってきた。
息をしないとだめだ。
「はぁ……」
唇を離し、軽く吐息を吐き出すと何故かとても切なくなった。
……もう一度口を合わせる。
ウィルの柔らかくて暖かいものに唇を押し当てた。
もっと感じたくて、じっとしてられなくて、小さく動かす。
だめだ、もっとドキドキする。
ウィルの体温を感じたい。
「にゅ……」
アメノは夢中でウィルに抱き着くと全力で身体を摺り寄せた。
唇を離して、頬を摺り寄せる。
肌と肌を摺り寄せると、心地よい熱が生まれた。
うん、これだ。これ好き。
アメノは跪いたままのウィルの首を抱きしめ、全力でウィルの胸板に飛び込んだ。
◆ ◇ ◆
え、えっと……何が起きたんだろうか。
ウィルは胸元に飛び込んできた、アメノのしなやかな身体を思わず両手で包み込んでいた。
ほてり気味のアメノの体温がじんわりと胸元と両手、そして唇に伝わってくる。
ご褒美にキスをねだったけど、なんか想像のはるかに斜め上の事態になっていた。
この間のように、手にキスをして、手の柔らかさと温かさを感じて、あとは俺で抑え込もうと思ったのに。
逆に目の前の少女に顎を抑え込まれて、一気に唇を奪われてしまった。
生まれて初めての口と口のキス。されたとたんにアメノの匂いが鼻の奥まで広がって、容赦なく身体が反応してしまう。
抑え込もうと思ったその激情的な信仰が、その崇める相手が俺の手の中にある。そして、その少女が首筋に手をまわして俺の肌を撫でている。
「あ、あの……」
「……なあに?」
アメノの顔を引き離すと、少女はものすごく不満げに問いかけてきた。
ちょっとプラトニックから離れている気がする。立派な騎士とは騎士精神を以て可憐なる我が貴婦人を守って奉仕し、貴婦人から無償の愛を注いでもらうのが目的で、ちょっと肉感に寄りすぎている気がする。
そりゃ最終的にはそういうことを期待していたわけだけど、それはもう少しちゃんと段階を踏んで結婚のその……今そんな状況じゃなくて、プラトニックでやるのが良くて。
そう、段階を踏んでプラトニックしよう。
「……俺も触っていいですか」
「いいよ? 特別な関係だし、二人っきりだからいい」
激情が背骨を突き上げた。
夢中でアメノの細い体を全力で抱きしめて、手で背中や腋をなであげる。
ハグ、そう、ハグはまだプラトニック!
◆ ◇ ◆
ウィルに抱きしめられ、アメノはちょっと姿勢に無理が出てきた。
ちょっと考えて、ウィルに胡坐を組ませる。
「どうしたの?」
「ふふ」
私のいう通りに座るウィル。
私はその膝の上に座ることにした。予想通り、ウィルに包まれるみたいで、とてもフィットする。首筋に手をまわして抱き着き放題だ。
これもフィリノには感謝しなくてはならない。ウィルとこうするときっととても気持ちがいいと教えてくれたのは彼女であった。誰とでもしていいことではないが、ウィルとならしていいらしい。
きっと彼女も今はゴルジとキスをして抱き合っているのだろう。
……あの時、前にゴルジとフィリノを観察していたときは、二人とも服を脱いでいたが、私も服を脱いだ方がいいのだろうか。
確かにそのほうが直接体温を感じられる気もする。
しかし、せっかくウィルの暖かくて弾力のある筋肉に囲まれているのに、わざわざ服を脱ぐために離れるのも嫌だ。
「にゅぅ……」
アメノは身体を摺り寄せ、ウィルの頬に顔を摺りつけた。こう肌と肌を摺り寄せればそれはそれで気持ちいい。
ウィルも頭や背中を優しくなでてくれる。長い指。大きな暖かさに包まれて、アメノは少しずつ気が遠くなってきた。
……ところでさっきからこのウィルの下半身に感じる硬いものはなんだろうか。こんなところに骨があったかな?
◆ ◇ ◆
ウィルは慌てていた。そこに身体を摺り寄せられるとまずい。本能が叫んでいる。
それなのにアメノは収まりが悪いのかお尻をもぞもぞと動かして本能を刺激して来るのだ。このままではまずい。
心の中でプラトニックと唱え、精神を集中させて本能を鎮める。そして何気なくアメノを撫でながら、気を紛らわせるために話しかけた。
「えと……アメノは欲しいものない?」
アメノにさらなる奉仕をするしかないと思い定め、質問する。しかしこの質問では答えが決まり切っていると思い直した。
「いや……肉と鉱石は持ってくるから、たくさん持ってくるから他に」
「にゅ……ありがと……」
撫でるのが気持ちいいのか、なんか半分とろんとした目でアメノがこちらを見上げてくる。もうだめ可愛すぎる。
「お肉以外……クローン」
「クローン??」
言葉が通じずに聞き返す。
「え、えっと、うん、きっと近くに培養槽があるから……たくさん作れると思う。許可が必要だけど」
要領を得ない。何の許可があれば何が作れるんだ。
「えっと、俺はどうすればいいの?」
「だから、生殖細胞……古語で言うと種? そう、ウィルの種が欲しい。それでたくさん作ろう」
この人と決めた貴婦人から、貴方の種をくださいと言われました。
「いいの?!」
「…いいよ?」
もう駄目だ、プラトニックは天地の精霊神様に捧げよう。
俺はアメノを強く抱きしめ、キスをした。
「ふにゅ……」
アメノはとろんとなってされるがままである。
焦るな。
こんな状態で無理やりしてはいけない。こんな状態だからこそじっくり。
アメノの頭や身体を撫でつつ、ちょっとずつ核心に近づいていく。
光沢のある独特な服は、軽く触るとほとんど肌そのものに触れているようにすべすべと体温を伝えてくる。
しなやかな腰や背中の感覚が指に伝わってきて、本能がさらに強く反応する。
こっそり腰に触れ、脇腹に触れ、少しずつ核心へ……
「くぅ……くぅ……」
そしてアメノが寝ていた。
アメノの寝息を聞いて俺の手が止まる。
えっ、ここまで来て寝ちゃうの!? するんじゃなかったの?!
だって、したいって言ったじゃん?! オーケーしてくれたよね!?
もういい、もういいんだ、もうするぞ。俺は決める。
本能がもう痛いぐらいに自己主張している。
脱がすぞ。そして全部触ってやる。
俺はアメノを床に寝かせ、襟に手を掛けた。
アメノの服は独特な繊維で作られており、光沢のある生地が織り目も縫い目もボタン一つもなく身体に密着している。
どうやって脱がすんだーーー!?
ウィルは泣いた。
本来の火曜日分となります。




