32 たった一つの作戦でご褒美欲しい
森の出口に近い平原。なだらかな草地には数百体の死者が所せましとひしめいている。
その端に一団の剣士が斬り込みをかけていた。
ウィルと森人の剣士、それにサポートAIが加わって死者の列を当たるが幸いになぎ倒していく。
死者たちの表情はわからないが、勢いに押されているようで進軍が止まり、むしろ少しずつ後退していた。
そんなウィルの活躍をアメノは大喜びで録画している。
ウィルの剣が躍るたびに敵の首が飛び、死体が積み重ねられていく。
「お兄さん強いねー」
キラがぼそりと呟く。クロスボウでの遠距離狙撃で斬り込み部隊を支援している。
「ふっ、まぁ、ニンゲンにしてはやるな!」
森人のティリルがそっけなく言うが、顔が赤くなって興奮気味だ。
「イヒヒ……カッコいいよね」
「まぁ、ソコソコには!」
カッコいい。カッコいいとは何だろう。古語辞典を当たる。
……なるほど、これがカッコいい。
アメノはウィルの活躍を見てドキドキする気分をやっと理解することができた。
「ウィル、格好いいよ」
口に出してみた、なんか胸が暖かくなってきて気持ちいい。
「ふっ、ソコソコだな!」
ティリルはなんか同じことばかり言っている。
「……ボクとヤってくれないかなぁ」
「ちょっとそこの家臣」
半目のままニヤァと笑ったキラがぼそりとつぶやいて、ジョセルにとがめられていた。
◆ ◇ ◆
死者の群れに突っ込んだウィルは目の前の敵の喉を斬り裂き続けていた。
好調だ、死者どもはどんどん倒れて行っている。
後続の森人剣士たちが転がした敵のとどめを刺してくれるため、死にかけの敵に襲われることも減った。
さらに俺たちが切り開いた土塀から本隊が出てきて、弓矢で追撃を始めている。ウィルたちは勝ちつつあった。
それになんか見られている!
ウィルは後ろをチラっと振り返る。我がレディであるアメノが目を輝かせて自分を見つめていた。なんかキラとティリルもこっちを見ているが気のせいだろう。
この戦いを捧げると誓ったレディが、アメノが俺を応援してくれている!
か、勝ったらもうちょっとご褒美貰っていいかな……
表情が緩んだ。
「ニンゲンさんも、なかなかやるじゃねぇか!!」
隣で剣を振るう森人の戦士カシウがニヤリと笑って声をかけてくる。
「森人さんもやるねぇ!」
新たな敵を斬り伏せながら回答する
この森人の長も俺をサル呼ばわりするのをやめてくれた。やっぱり、戦場を共にして血で結ばれることで、種族の違いも超えて分かり合えるのだ。
「よし! このまま掃討して帰るぞ!」
「おう!」
そして帰って、アメノにご褒美を貰うんだ!!
ウィルはさらに敵の群れの奥深く斬り込んで行った。
― ― ―
「お、おい! なんかコイツ剣が弾かれるぞ!?」
目の前の死者を倒し続けると、急に敵の数が減って、見覚えのある敵があらわれた。
……おいおい。
ほかのゾンビの2-3倍はあろうかという巨体に乱雑に生えた多すぎる腕に足。そして節くれだった装甲で身体を覆っている。
「ゾンビキメラだ!?」
ウィルが叫ぶ。しかも複数……二十体は居る! 一体でもあれだけ苦戦したのに!
「でかいぞ! 数人でかかれ」
ゾンビキメラの一体に森人の剣士が三人で攻めかかった。
「待て! そいつは迂闊に近寄るな!」
ウィルが止める間もなく、森人剣士にゾンビキメラが腕を振り回して襲い掛かる!!
ゲシッ!!!
「ぐあああっ?!」
強かに打撃を食らい、地面に転がる。
なんとか立ち上がったが、目に見えて腕がぶらぶらしていた。骨をやられたようだ。
「このっ!!」
森人を襲っているゾンビキメラに駆け寄る。なんとか装甲のない背後に回り込まなければ!
右か! 左か!
ダメだ、どっちも他のゾンビキメラの正面になる!
こうなったら!
ウィルは意を決して正面のゾンビキメラの足元に滑り込んだ。
ゾンビキメラが新たに現れた獲物と、もともとの獲物を見て、一瞬どっちを襲うか迷いを見せる。
ウィルにはその一瞬で十分だった。
ゾンビキメラの足元を潜り抜け、そして振り向きざまに背骨にアメノ謹製の無限刃ロングソードを突き立てた。
グアアアア!!!
ゾンビキメラが断末魔の声を上げて、崩れ落ちる。
「大丈夫か!」
「あ、ありがとうニンゲン……」
骨折した森人を担ぎ上げる。回りのゾンビキメラがこっちを狙っている、すぐにでも逃げなければ!
ウィルは仲間のピンチを見て駆けつけてきたカシウたちに叫んだ。
「一度ケガ人をつれて下がるぞ!! あれは背中から攻撃しないと倒せない!まず動きを止めないと駄目だ!」
「止めるったってどうするんだいニンゲンよ?」
「みんなで相談する!」
ウィルは大急ぎでケガ人を担ぐと後方に向って走り出し、カシウたちが後に続いた。
「無事?」
本隊に近づくとアメノが話しかけてきた。
ウィルは骨折した森人をアメノに見せる。
「コイツが無事じゃない」
「わかった、応急処置だけする」
アメノが前も使った錬金術の医療アイテムを取り出して、骨折した森人の治療を始めた。素早い手つきで骨の位置を手で調整し、傷を受けた部分に医療アイテムらしきものを当てていく。
治療を受ける森人の表情が痛みから、一気に信じられないものを見たような顔に変わった。
「な、なおった?!」
「治ってない、痛みと出血を止めただけ、骨がつながってないから動かないで」
「しかし、すごく気分がいいぞ」
「脳内麻薬。落ち着いて」
焦っているのはティリルたち残りの森人も一緒であった。
「ど、どうする……敵は増えるし、新しいバケモノもでるし、また逃げるか?」
「矢が残り少ないぜ、そろそろどうしようもなくなる」
「落ち着け」
口々に不安を口にしてくるが、ウィルにも希望があるわけではない……
森人の骨折部分に添え木を当てる治療を続けながらアメノが言う。
「大丈夫、あのゾンビキメラと取り巻いてる死者を倒せば、第一波は終わる」
「第一波?」
「時間的余裕がわずかにあるが、第二波が近づいている。数は約三千」
「……」
絶望だ、俺の体力ももう持たないだろう。
しかしアメノは淡々と説明を続ける。
「シミュレーション上では、第二波が来る前に第一波を倒しつくせば、第二波の索敵範囲に入る前に撤退できる」
「やるしかないか」
独り言をいうウィルにティリルが噛みついてきた。
「い、いったいどうやるというのだ?!」
「……作戦はこうだ」
俺はジョセルの方を振り向いた。
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