30 敵は三百ありとても
「な、なぜこいつら増えるのだああああ?!」
ティリルたち森人たちは森の外でしばらく気持ちよく死者を狩っていたが、なぜか途中から狩れば狩るほど敵が増えてくるのに気が付いたようで数十体の敵を引き連れて森に逃げ戻ってきてしまった。
このままでは森にどんどん死者が入り込んできて、いずれ集落が見つかってしまう。
「まずいな、加勢しよう」
ウィルが全員に告げると、だれも異論はなかった。
― ― ―
森人たちを追ってきた敵は、明らかに今までの敵とは違っていた。なんというか。
「こいつらイキがいいな?!」
「新鮮なんでしょうかー?」
ウィルは「走って」森まで追いすがってきた死者を次々に斬り伏せた。エーアイも機械腕を伸ばして敵の喉元を的確に破壊していく。
「ははははは、ザコはどっちだったんですかねぇ?」
「多少の数ならあいてではないー」
そういうジョセルは襲い掛かってくる敵の前に土の柱を立てて足を止め、キラがクロスボウで脳天を打ち抜いていく。
ウィルたちの加勢で、走ってくる新型の死者の勢いが止まる。そこに体勢を立て直した森人たちが矢の雨を降らせてなんとか押し返せるようになった。
「よし、何とかなったな」
一息つくとウィルが呟く。
「人間どもに頼るだなんて……」
しかし森人の女リーダーであるティリルの顔が恥辱に真っ赤に染まっていた。
「くっ……おい! 上森の叔父御に連絡、あと霞森の若いモンも呼び出せ!」
「はっ」
ティリルの部下の一人が森の奥に走り去っていく。増援を呼んだようである。
「聞いてほしい」
そこにアメノが現れた。戦闘の真っただ中なのに、凛とした無表情で冷静に話す。なんて可愛いんだろう。
「新型の敵は移動力が高いから走ってやってきた」
アメノが手元の箱を触りながら説明を始める。
うん、それはさっきあらかた倒した。
「後ろから旧型の敵がゆっくり歩いて接近中。第一波が約二百五十体」
「……うわぁ」「うひぃ」
誰ともなく声が上がる。
「あとしばらくで接敵」
「に、逃げる……?」
ティリルの顔が青くなっている。背後の森人の戦士たちも同じだ。ようやく状況を理解したか。
「逃げるのはいいが、このままだと大挙して森に入ってくるぞ」
「……ぐっ」
ウィルは言葉に力を籠める。
「あのバケモノ……俺たちは死者と呼んでいるが、あれは生きとし生けるものすべての敵だ。死そのものだ。生き残っている我々が協力しないと、どっちも死ぬことになる」
「……」
ティリルが艶やかな金髪をなでながら俯いた。彼女もわかってはいるのだろう。
「今の全員の戦力なら、全員で力を合わせればギリギリなんとかなる。協力してくれ、頼む」
ウィルは頭を下げた。
「……ニンゲンが頼むなら仕方がない、でどうするつもりだ」
なんとか折り合いがついたようだ。サルと呼ぶのをやめてくれた。
― ― ―
「来たぞ!」
森の入り口で陣取るウィルたち防衛隊の目の前に、のたくたと歩く数百の死者が現れた。
「敵の第一波を確認、総勢243体」
アメノが冷静に告げる。いつの間に数えたんだろう。
でも、これはカッコつけるチャンスでもある。いいところを見せないと。
「我がレディよ、この戦いをあなたに捧げます」
ウィルはアメノの手を取った。小首をかしげるアメノ。こういうちょっとした仕草がとても可愛い。
「戦う……うん、頑張って」
アメノは少し嬉しそうにその薄茶色の瞳を細めた。
「はい!」
返事とともに、握りしめたアメノの手に恭しく口づけをするウィル。
「ひゃぅ?!」
アメノがビクッと身体を震わせて大きく目を見開いた。
「……な、舐めた? 食べる?」
「舐めてませんし、食べませんよ?!」
あれ、ちょっと早かったかな? でも誓いはしたし手の甲にキスぐらい……つか、敵が来た?!
「~まことに汝らに告ぐ! 我は仕え衛る者、騎士ウィルファスなり!~」
ウィルはちょっと早口に自己強化魔法をかけて、死者の群れに突っ込んでいった。
◆ ◇ ◆
……びっくりした。
アメノの胸がドキドキと高鳴る。何故だかわからないがウィルが口で私の手の甲に触れた途端、身体中に今まで感じたことのない感覚が走ったのだ。
これはやはり、食べられそうになった恐怖だろうか??
でもウィルはご飯を食べたばかりだし、私を食べるつもりはないはずである。口で相手の身体に触れると何か起きるのだろうか??また今度調べてみよう。
「……」
見ると隣でサポートAIが半目になってこちらを見つめていた。
「どうしたの?」
「ううう……無知シチュは萌え、萌えなんですけどぉ……なんで私じゃないのぉ」
訳の分からないことを言い出した。言語インターフェースは本格的に壊れてるみたいだ。その他の機能はギリギリ通常だから、あとで修理しよう。
それよりもウィルだ。
「はああっ!」
鎧を身にまとったウィルが死者の列の中を駆け抜けていく。そしてすれ違いざまに手や足を切り落として確実に戦闘能力を奪っているようだ。
「今だ! 足を狙え!」
ティリルの指示で、ウィルの居ない方角に向かって矢が一斉に飛び、膝に矢を受けた敵が次々に崩れ落ちる。
今の配置は、森に扇形になって突き進んでくる死者の群れに対して、ウィルが敵の中に突っ込んで撹乱と足止めを行い、そこに森の出口に陣取った森人と狩人が弓矢で攻撃をしかけている。
遠距離攻撃する味方の前にはジョセルが作った簡易な土壁が盛り上がっており、その前に私とサポートAIが本陣の護衛としてついている。
「えいえい」
隣ではサポートAIが手元の石を敵の群れに投げつけている。ビシュッと轟音を立てて飛ぶ石は命中すると死者の頭や、足を破壊する威力がでているようだ。拾うのが早いなと思ったら石は後ろからジョセルがどんどん投げて寄越していた。魔法を使っているようだ。
採掘用レーザーや加工用のエネルギー刃を使えば当然もっと威力はでるのだが……
「長期戦になりそうなので、エネルギーを温存したいと思います」
というので許可している。
私は……個人防衛モジュールを修理しているままなので、直接の攻撃は出来ない。なのでデータ収集に専念することにしよう。
私は携帯端末を取り出すと、戦闘するウィルの撮影を開始した。
ウィルは死者の群れにつかず離れずしながら、敵の攻撃を巧みにかわし、剣を躍らせ、次々に敵の手や脚を切り飛ばしている。古語辞典でいう舞踏というものはまさしくこれだろう。
なんだろう、とてもワクワクする。ウィルが動いて敵が倒れるたびに、心が躍る。ちゃんと録画して、あとで詳細に調べ……画質上げておこう。
― ― ―
ウィルの撮影に夢中になってると、サポートAIが声をかけてきた。
「マスター、敵が接近してきました」
「撃退して」
「かしこまりました」
サポートAIが石を拾うのをやめて、近寄ってきた死者に掴みかかった。
「ぐあ?!」
機械腕で敵を固定すると、エネルギー刃を一瞬だけ出して首をねじ切る。
そして次の敵を捕獲して同じように処理したところに三体目の手が振り下ろされた。
ビリッ!!!
「きゃーーー?! 私の服になんてことを?!」
肩から胸にかけてエプロンドレスが切り裂かれ、白い肌と胸の膨らみがあらわになる……どこまで作り込んでるんだこのAIは。
「セクハラは許しませんよー!」
機械腕で三体目の頭蓋骨を叩き割りながら、AIは叫んだ。
……セクハラって何だ。
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