25 核融合エンジンを増やして作業用ドローンを動かそう
アメノはさっそく貰ったプラチナの装飾具を精製装置にかけて分解しはじめた。
これでいくつか作りたかった設備が作れる。
ジョセルはプラチナと言っていたが、プラチナだけではない。
精製技術が原始的なおかげで、複数の白金族元素が同時に含まれていて大変助かる。
白金族は様々な触媒に使える。特定の元素を集めたり、化学反応を促進したりできる。また触媒にはそれほど多くの量は必要ないので、この程度の量でも十分だ。
まず核融合燃料の収穫から始める。
核融合燃料、つまり水素同位体であるが。この惑星も宇宙線の照射により重水素や三重水素が自然界に希薄ながら存在する。特に多いのは海水や湖水などの水塊に含まれている分である。
そこで重水濃縮器を作成して設置。池の水を吸い上げ、重水素および三重水素を含む重水を濃縮させて回収する。
そして得た核融合燃料は冷温核融合炉で燃やし、エネルギーを生成するのだ。
「原始的」
アメノは水素同位体を核融合を開始した冷温核融合エンジンを見て自嘲的に呟いた。
正直な話、こんなのは技術レベルとしては核分裂文明の次のステップ、核融合文明レベルでしかなく、超光速航行技術にすら及ばない未開文明技術である。
こんなやり方ではエネルギーの生産量が水の回収速度に左右され、しかも重水の濃縮に必要なエネルギーも馬鹿にならないため効率が非常に悪い。
ガス巨星を丸ごと採掘基地にしたり、恒星上空に直接エネルギー回収装置を設置して大量に核融合燃料を生成する方が効率ははるかにいいのである。
とはいえ現状望みうる最高効率のエネルギー生成法ではあるのだ。
「あるものでなんとかしないと」
アメノは自分を説得するように呟いた。
『エネルギーゲイン、確立しました。船内への供給開始』
サポートAIが報告する。
パッ!! と船内の照明が明るくなる。エネルギー不足で止めていた船内の各施設も稼働を再開した。
『マスター、まず健康維持のため、身体洗浄を、身体洗浄をお勧めします、湖水をかぶるだけなどと原始的な』
「超光速通信をリトライ。中央への報告が優先」
『かしこまりました』
サポートAIが残念そうな表情で通信機を作動させる。私の健康を気遣ってくれるのはいいのだが、物事には優先順位があるだろう。
「出力および受信増幅装置を最大へ。Ping打って」
『0:0:0:0。 8.8.8.8にPingを送信しています……32バイトのデータ
……要求がタイムアウトしました
……要求がタイムアウトしました
……要求がタイムアウトしました
……要求がタイムアウトしました
パケット数、送信4。受信0。損失100%です』
「だめ、繋がらない」
『通信も一切拾えません。この惑星の大気の減衰の影響と推定します』
「……仮説だけど」
アメノが呟く。
「その1。この惑星の大気が通信を阻害する特殊なもの、もしくは惑星と二重太陽の磁場の影響で超光速通信が作動しない」
『その場合は、大気圏外……最悪は当該恒星系の太陽圏外への脱出が必要になります。調査船の完全修復が必要です』
AIの分析にアメノがうなづく。
「その2、我々の観測しようとしたブラックホールが異常に活性化し、周辺宙域全体で超光速通信が阻害されている」
『その場合は、当該宙域からの脱出が必要になります。調査船の完全修復が必要です』
「その3。あのブラックホールの影響で完全に未知の宙域に飛ばされ、通信に数億年を要する場合」
『観測可能範囲の星の配置はどのライブラリともマッチしません。確かなことは大気圏外からの測定結果を待ちたいので調査船の完全修復が必要です』
「全部一緒。結局、調査船を修理しないことには進まない」
そのためにも鉱石採取を強化しなければ。あと電子部品のためには金銀などのレアメタルも回収したい。
その辺の土を無理やりレアメタルに変換するには、核融合エンジンをはるかに超えるエネルギーが必要になり、効率が悪い。
「調査船の修復には、エネルギーの効率的利用が必要。まずは作業用ドローンを起動しよう」
「はい、マスター♪」
……サポートAIがニコニコしながら、ドローン用ロッカーから起き上がってきた。
目を疑う。
サポートAIが生きて動いている。声も受信機からではなく、直接目の前の物体から発せられていた。
すらりとした長身を白と黒を基調にしたエプロンドレスに包み、それに腰まで伸びた赤い髪に赤い大きなリボンを巻いている。
おかしい、作業用ドローンってなんかもっとこう白くて丸かったはず。
「何をしている」
「作業用ドローンを動かしました!」
「その外見は?」
「ポリマーで作りましたから、人間同様ですよ! 触ってみますかー?」
「そうじゃない」
「マスターを補助するためです!! あと、作業用ドローンが現地人に奇異の目で見られたり、攻撃されたらいけませんよね! ですから彼らが親しみを持ちやすいようにあえてこういう美少女に。原始文明との接触に外見は大事ですー!」
というとサポートAIは頭と腰に手を当てて、ポーズをとる。
「……」
口調もなんか変わっている。
この間からおかしすぎる。故障じゃないのか。優先命令権を使って……
「Please AI, 自己診断モード」
「オールグリーン……問題ありません!」
いまチェックした?! 本当にチェックした?!
「ご安心ください! あのオスが(禁則事項)したら私がなんとかしますから!」
だめだ、絶対壊れている。
アメノは今後のことを考えて、目の前が暗くなりつつあった。
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