24 レアメタルが足りない
灰白色の調査船の中、サポートAIがアメノに報告を行っていた。
『メタル類はなんとか手に入りましたが、レアメタルが不足しています。元素転換は効率がすさまじく悪いので、現物の入手をお勧めします』
「鉱石をもっと探すしかないか」
鉱石やクズ鉄を集めたおかげで機械や機械部品の類は作れるのだが、電子部品や触媒を用いた高度な設備には元素番号の大きい、重くて特殊な元素が必要になる。
なんとかしなければ……
アメノはポリマーやメタルなどの各種中間素材の製造備蓄を指示しながら次の手を考えていた。
- - -
「おはようございます、我が貴婦人」
出迎えにきたウィルは何故かいつもよりもキリっとして見えた。迷いのない澄んだ瞳でこちらに手を伸ばしてくる。
アメノはこういうふうに特別扱いされるのは慣れない。本当に慣れないのだが、何故か嬉しくなるのでおとなしくエスコートされるままにしていた。
ウィルに手を取られて湖畔に向かう。気が付けば岩と岩の間には丸太が渡してあって、格段に歩きやすくなっていた。
「ああ、これは俺が作った」
ウィルは本当に何かと気を使ってくれる。なんかこのまま、ズブズブと何でも頼ってしまいそうになる。
アメノは堕落しそうになる自分を抑えて、胸を落ち着かせてからお礼を言った。
人口が増えた分、湖畔にはテントが増えていた。
もともと多めに木材を伐ってあったこともあり、燻製屋夫婦も手伝って、テントは全員分確保できている。
村から避難してきた人たちは皆、穴倉生活から解放されたこともあって、喜んでテント生活に落ち着いているようだ。
唯一、ジョセルだけが「こんな何もないところに住めない」と不満を漏らしており、さっそく行動にでていた。
ジョセルが地面に図形を書いて、精神を集中させている。その図形は、文化調査時に調査船で麦畑に書くものに似ている気もするがやはり良く分からない。
「~土幸い聞き給え、地を固め我が庵と為せ~」
ぐぐぐ……と土が盛り上がり、そして石が組まれていく。
ジョセルの祈りとともに、少しずつつ建物の基盤が完成しているようだった。
ウィルが声をかけた。
「おお、さすがの土魔法……ゆっくりだけど」
「素人ですねぇ。こんなの一気にやったら一瞬で体力も魔素も尽きやがりますよ」
ジョセルが皮肉げに唇をゆがめて言う。
なんでも瞬時にやろうとすると心身が疲れ果て、魔法の元まで尽きてしまう。そうすると回復まで何もできなくなってしまうので、戦闘時以外はゆっくりやるのがいいらしい。
それはさておき、これは本当に未知の技術である。
なんか現地人は土魔法とか呼んでいたので、ちゃんと魔法と呼称することにするが。
これはぜひ調べたい。一体どういう法則でこのような現象が起きているのか。魔素とはどういう原子か波かダークマターか。また、魔女と呼ばれる人間とほかの人間との差異もきちんと遺伝子から調べないと。
となると、ジョセルを攫って調べるのが一番良いが、さすがに武力でそれをやるのは現地人側の反発も大きいだろう。
よし、ウィルでも成功したし、買収して懐柔しよう。
というわけで、さっき再稼働したばかりの食料合成プラントから給食ペーストを持ってきた。できたてほやほやである。
さぁ、食べるといい。
「い、いやぁ、それは遠慮しておきますよ」
ジョセルが引きつりながら断ってきた。
なんていうことだ。やはり不味いからか。うん、不味いのは知ってるのだが、ウィルたちはこれで買収できたのに。
あと何をすれば。
アメノは考えた。食事の次は一体何をすれば現地人は喜んだか。
そうだ、道具や装備を作ってあげればいいんだ。
意を決してジョセルに話しかける。
「ジョセル殿。服が無くて大変」
「いや脱がせたのアンタたち……そうですよ着替えもなくて」
なんかジョセルが反論しかけたが、納得してくれたようだ。ジョセルはいまだに上着が無く、ウィルの外套を羽織ってベルトで締めているだけである。
腋が大きく空いているため、魔法の行使で服がたなびくたびに白い下着がちらちら見える。さっきからウィルが目のやり場に困ったのか私の方をじっと見るようになった。
たしか下着姿は見たり見せたりするのはダメな文化だったはずだ、服を上げれば喜ぶだろう。
「だから、新しい服を進呈する」
「おや、嬉しいですね。それは楽しみ……デザインは?」
ジョセルが細かいことを気にしてくる。安心してほしい、ちゃんと最新式のデザインを。
「もちろん私が」
「布だけでいいですからね!?」
ジョセルが私の服装を見て、即座に断ってきた。
「解せぬ」
この身体に沿って作られた無駄に余った布のない機能的な服装のどこが気に入らないのだ。
― ― ―
「はい、布」
「って、これ織り目がないですけど?!」
布を受け取ったジョセルが驚いている。
やはり肌にあたるものだから、繊維質で空気を含んで暖かいものがいいはず。そのためウィルが伐採した木材からセルロース繊維を取り出しそのまま布に圧縮した。三次元原子加工機のエネルギーを節約したいので、分子構造を大きく変える加工は避けたのだ。
繊維を一度糸にして織るという過程をすっ飛ばしたので織り目がないのは当然である。
「手触りはいいですねぇ……暖かそうです」
ジョセルが布を撫でながら呟いた。前回のローブを参考に色は黒だ。なんでも土魔法を象徴する色が黒なのだそうだが。
「ちょっと、針が通らないですよ!」
「戦闘の危険があるので、防御力を高めた」
「高めすぎですよね!?」
何が不満なのだろうか。やはり私の服のように共鳴繊維にすべきだったか。しかし、あれは素材集めが大変だ。
やむなく解決策を提示する。
「では、針を通したい場所を指示してほしい、穴をあける」
「……いいですよこのままで」
というとジョセルは布を二つ折りにしてその間に挟まると、布の端を二か所、両肩にかかる部分を土魔法で作った石ばさみで挟み込んで止めた。
腰をベルトで締め、胸から腰にかけての布の皺を整えると、一枚布があっというまにゆったりとしたドレスになった。
「おお……」
手際の良さにウィルが感嘆の声を上げる。
もともと無駄に胸部に脂肪がついているので、ゆったりとした感じが実に合っている。
「懐かしいですねぇ、“塔”の古代正装がこんな感じでしたよ」
ジョセルが湖面に姿を映して満足げに微笑む。気に入ってくれたようで私の方を振り向くと。
「……お礼をしないといけませんね」
とジョセルは手のひら程度の大きさの小箱を取り出した。箱には小さな色とりどりの石やキラキラする金属片の小物が入っている。
「おひとつ差し上げます、どれも良く似合うと思いますよ」
ふむ、どんなものだろうか。手元の端末で簡易スキャンしよう。
ジョセルが一つずつ説明してくれる。
「こちらオパール、ルビー、サファイア、ダイヤ、プラチナ」
スキャン結果、シリカ、アルミ、アルミ、炭素、白金。
「白金族?!」
レアメタルじゃないか。これ! これがいい!
「おや、プラチナの髪飾りですか? いいですよ……ほら、アメノの青い髪の毛にとても映えますね」
「ありがとう!」
というとジョセルが私の髪に白金の飾りをつけてくれた。手鏡をだして見せてくれる。うん、キラキラしている。
「いいね、可愛いと思う」
ウィルも褒めてくれた。
ありがとう。
さて、溶かすか。
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