報告書。
顛末の報告。
魔竜の名はドリュラト。雌。
邪悪な存在ではないが、攻撃を受けると体が大きくなり、不死のためいずれ世界を滅ぼすかもしれない。
体の急激な巨大化に対応できていない。
攻撃しなければ、他の竜とかわらず、成長するまで数百年はかかる。
贈物で竜と話せるようになり、現在は私が人間と共存することを説得中。
食料への不満があり、安定的な食糧供給がなければ逃げる可能性あり。
現在は贈物により、モンブルマ山より離れることはできない。
逃げようとすると、すみかの洞穴に戻される。
この力は、わたくしロワに由来しており、私もモンブルマ山より離れることができない。
ゆえに、私もモンブルマ山に住む必要がある。
魔竜との交流を絶やさないため、できれば山の中腹にある湧き水がでる場所に家を建ててほしい。
また、食料を少なめに与えて成長を妨害することも試す予定。
そこに住み込み、魔竜と暮らしながら、人間へ害を与えないように交渉する。
最低でも十年以上はかかるだろうが、残りの人生をすべて費やしてでも、私は人類の平和を守りたい。
ロワ。
これくらいでいいかな。
自分の書いた文章を読みかえす。
自分がここでゆっくり暮らすために、この場所に家を建てさせようとしていることはバレないだろうか。
本当はシェスティンをよびよせたいことや、生活費を支給してもらえるよう交渉したいが、はじめから要求が多いと疑われてしまわないだろうか。
農民は無知で、純朴でだまされやすいと考える人もいるが、現実はちがう。
毎日大地との戦いを続けている農民は、手ごわい交渉相手であり、自分の身は自分で守る知恵があるのだ。
シェスティンのことや生活費のことは書類で要求するより、ビッデに相談する方がよさそうだ。
それより、シェスはここに来てくれるだろうか。
もし、こんな山中で一生を暮らすことなんてできないと思うなら、鉱山の復活でお客さんが増えるであろう赤銅亭をシェスに譲ってもかまわない。
そういいながらも、贈物の力でシェスが私を好きになったのであれば、絶対にここに来るであろうと考えてもいた。本当にひどい人間だ。
それに、あのドリュラトが突然考えをかえて、私を食い殺そうとしたらどうしよう。
ひょっとすると、はねかえりものがドリュラトを退治しようと山に忍びこむかもしれない。
山への立ち入りは禁止してもらわなければ。
柵で山の周囲を囲んでもらってもいい。
もし、それに、ひょっとして――考えておかなければいけないことは、山ほどある。
しかし、確実なこともひとつある。
私の旅はここで終わり。
農家の次男で、40になるオッサンとしてはうまくやりましたよね、母さん。
確かめてはいませんが、私が風呂で死から免れたとき、支払われた命があったはず。
あのとき、自分の命と同じくらい大切なものは、あなたの命しかありませんでした。
バカな息子のために、あなたはその命を失ったのではありませんか。
「ロワさん、少し早いですが食事ができましたよ」
ウゼの声で、我にかえった。
慣れない文字を書くのに集中していたので気がつかなかったが、すでに日が傾きはじめていた。
<ありがとうございます。もう書きあがったので、そちらにいきますね>
といいたかったが、口からはピーピーという音しかしなかった。
もう冒険はこりごりだ。