贈物。
「なるほど、そこまでは計画通りですね。ロワさん」
ビッデのことばに、残りの3人もうなずく。
「せ・っ・と・く・は・で・き・な・か・っ・た・こ・れ・か・ら・ま・り・ゅ・う・を・や・ま・か・ら・で・ら・れ・な・く・す・る。また贈物を使うわけですね」
「ピー」
はい、という返事であることが、ビッデにも伝わったようだった。
竜が完全に山から逃げ出す前に贈物を使わなければならない。
目を閉じて、さきほどまで目の前にいたドリュラトのことを思い浮かべる。
あの竜が世に解き放たれると、その意思にかかわらす、とんでもないことがおきるはずだ。それは絶対に許されない。私は望みます。あのドリュラトがモンブルマ山から出られないようになることを!
チキチン、チキチン、チキチン。
すぐに鉦の音が鳴り、全身から黄色い光がにじみだしてきた。
なんとなくコツがわかったような気がする。
間違いなく、この贈物は反則だ。支払のことさえ考えなければ、世界の王にだってなれる。
黄色い光が消えるのを確認してから、さきほど書いた文字を足で踏み消し、同じところに木の枝で文字を書く。もし、読み書きの勉強をしていなければ、どうなっただろうか。
「こ・れ・で・ま・り・ゅ・う・は・こ・の・や・ま・か・ら・に・げ・ら・れ・な・い。でも、どうやってあの魔竜を、この山に閉じ込めるんですか」
ビッデの質問には答えられなかった。自分でも、どうやってドリュラトをモンブルマ山から逃げられないようにするのかわからないのだ。
私も含めた5人は、しばらくのあいだ呆然とドリュラトがおりていった方角を眺めていた。
「オッサンを信じないわけじゃないが、ちょっとあの魔竜がどうなったのか見ていってくるわ」
そういい残すと、返事を待たずにテシカンはドリュラトの後を追って、山を駆けおりていった。
クデンヤは折れた木の幹に腰をかけ、水筒を取り出して手をすすぎ、飲み口をそのまま含んだ。
ウゼはテシカンを追いかけていくべきかどうか、考えているのがありありとわかる。
さて、ビッデはどうするのだろうと思いうしろを振り返ると、信じられないものがそこにあった。
なんの音もたてずに、どうやってこの場所に戻ったのだろう。
漆黒の竜がそこにいた。
ドリュラトが、洞窟の入り口にぽつねんと立ちつくしているのだ。
「ピピピー!」
振り返って危ないと警告したかったが、またピーピーという音しか発することはできなかった。
しかし、私の声をきくとクデンヤは、服が汚れることなど気にもとめず、木の幹を盾にして身構える。
前に体を倒しながらくるりと前転し、洞窟のほうに向きなおった時には手に投槍を構えていた。
ビッデだけは、なにが起きたのかわからずんい、ドリュラトを背にしてポカンとこちらを見ている。
逃げるように声をかけようとしたとき、竜が叫んだ。
<我になにをした! なぜ山をおりた我が、またここに戻ってきているのだ>
私は結界的ななにかが壁のようになって、ドリュラトが山から出ていくの防ぐ姿を想像していたが、神の力はもっと偉大だったようだ。
<私には神から与えられた特別な力がある。私の力で、あなたはこの山から離れることはできなくなったのです>
ドリュラトは、私のことばにしばらく首を傾げて何事かを考えていたが、我を謀るなと言い残し、また山をくだっていった。
ドリュラトと入れ違いになるように、テシカンが戻ってくる。
「おい、あの魔竜を追いかけていったら麓で突然姿が消えたぞ。それで急いで戻ってきたら、今度は上からおりてくるって、いったいどうなっているんだよ」
「テシカン、ここでもうしばらく待ってればわかるよ。このオッサンがやってのけたんだ。なあ、オッサン」
クデンヤが私の肩をポンと叩いた。