再会。
魔竜の話は一般の人々に公表していないので、ことばを選びながら話さなければならなかった。
「シェスティン、私はいかなければならない。信じてもらえないかもしれないけど、これは世界の運命にかかわるような重大なことなんだ」
シェスは涙をボロボロとこぼしていた。
「私は怖くて逃げていた。逃げて逃げて逃げて、この町にたどりついた。でももう逃げられない。世界が滅べば、あなたもいなくなってしまう。そんなことには耐えられないし、させるつもりもない。キミのオッサンは、世界を救うために命をかけるつもりだ」
「あんたも私を置いていくの。あんたも死ぬの。また私は一人で生かないとだめなの?」
きれいな顔が、涙と鼻水とヨダレでグジャグジャになる。
シェスを抱きしめ、耳元にささやく。
「絶対に死なない。必ず帰ってくる。約束する」
驚いたような顔をしたシェスをさらに強く抱きしめ、口づけをした。
それは鼻水で、驚くほどしょっぱかった。
「テキン様、もし私が死んだら、この赤銅亭はシェスティンに譲ることにしたいのですが、証人になってもらえますか」
テキンさんはうなずいてくれる。
「あんたたちも証人になってくださいよ。じゃあ、どこにでもいきますから、連れていってください」
死ということばに反応したシェスが、またわんわんと泣きはじめたが、私はそちらを見なかった。シェスの姿をみると、涙が止まらなくなりそうだから。
「代官所に馬車が用意してあるから、それに乗ってもらう」
役人のゴタキンのことばに、まっすぐ代官所の方へ歩きはじめる。
世界を救うという覚悟はできた。もう逃げない。
海辺にあるメールという町まで、馬車で5日かかった。
常に揺れていることで、胃がひっくり返ってしまったかのようになり、食べたものをすべて吐き出してしまい、体調は最悪だった。
替え馬の時だけ少しの時間馬車は止まるが、それ以外はずっと走り続けであった。
全速力で走る馬車の振動は激しく、メールの町に着くころには水を飲んでも吐いてしまうようになる。
御者にメールの町に着いたといわれたときは、揺れない地面に立てる喜びにヴィーネ神に感謝を捧げた。
馬車を降りると、待ち構えていたように魔術師のクデンヤが近寄ってきた。
「オッサン、久しぶり。逃げ出したんだって。思ったより根性あるんだな」
吐き気で真っ白な顔をしている私には、ことばをかえす余裕がなかった。ものをいうが 「馬車に揺られすぎたのか。気分悪そうだけど大丈夫か」
ズケズケとものをいうが、憎めないクデンヤの性格は天性のものだと思う。
そのうちに、苦しそうにしている私のところへ神官のビッデも近づいてきた。
「ロワさん、お久しぶりです。遠乗りでまいっているようですね。よろしければ回復術を使いますよ」
私は力なく同意する。
しばらく念じた後、ビッデの手のひらから黄色い光が流れ出し、私を温かく包んでくれた。
効果は覿面で、吐き気は急速におさまり、数日食事を取っていないことによる衰弱以外は解消した。
「ありがとう、ビッデさん。かなり楽になったよ。水の一杯でももらえればありがたいんだが」
「我々は町長の屋敷に泊まっています。そちらで水をもらいましょう」
うなずいて、ビッデさんの後について町長の屋敷に向かった。
町長の家といっても、私の宿屋ほど大きくなく、ここに5人も宿泊するのはつらいのではないか、などと仕事がら余計なことを考えてしまう。
居間に案内されると、そこには懐かしい顔があった。
テシカンとウゼが、武器の手入れをしている。
これで、魔竜退治の英雄パーティーが再結成されたわけだ。