襲撃。
鉱山が衰退するには二つの理由がある、というのがアギロバさんの考えだった。
一つは本当に鉱脈が枯れる、つまり鉱物を掘りすぎてなくなる場合。
もう一つは、地下水などにより採掘の費用が利益を大きく上回る場合。
前者はどうしようもないが、後者の場合排水坑を掘ることで採掘が可能になることがおおいらしい。
しかし、排水坑を掘る費用が、採掘できる費用を下回らなければ利益がでないので、そのあたりの見極めが必要になる。その専門家が、鉱夫という贈物をもつアギロバさんなわけだ。
「こんなことをきいていいのかどうかわかりませんが、メコアの鉱山はどうなんでしょうか」
おそるおそる質問してみる。
「それは役人として、いえない決まりになっています。まあ、数日中には発表されると思いますよ。ああ、鉱泉が心地よいからといって、長く入りすぎました。そろそろあがりますね」
そういって、アギロバさんは浴室を出ていく。
おそらく、アギロバさんが排水抗を掘り、地下水のくみ上げ作業の仕事はなくなってしまうのだろう。
しかし、私が坑道で、こんな仕事なんてなくなればいいと考えたときに、アギロバさんはすでにこの町へ来ていたはずだ。もしも私が、鉱山でこの仕事がなくなればいいと考えなければ、アギロバさんの判断は変わったのだろうか。
未来を変えることができるとすれば、私の贈物は強力すぎる。
私のようなオッサンが、世界を滅ぼす魔竜の討伐に必要である理由もわかった。
私が願えば、魔竜であれ大海獣であれ、簡単に葬り去ることができるのだ。
支払は、間違いなく私の命になるのだろうが。
愛する人がいる、この世界を守るためなら、自分の命を惜しむつもりはない。
だが、本当にそれ以外に選択肢はないのだろうか。
「起きてください、テシカン」
ウゼの声で目をさます。
すでに鱗鎧を身につけ、手には槍を持ち、投槍を背負っていた。その表情から、なにか良くないことがおこっているのがわかった。
「どうしたんだ。なにがおきた」
「昨日の魔竜が攻めてきました。いまクデンヤとビッデさんがむかっています」
あの魔竜がこの町に。空を飛んできたのか。それとも魔術で転移できるのか。
手早く胸甲、手甲、脛当を身につける。
「先にいってますよ。魔竜は町の西側です」
わかったと答えると、ウゼは部屋を出ていった。
兜をかぶり、剣を手に取ると、町の西側にむかう。
しかし、火も煙も見えずどこに魔竜がいるのかまったくわからない。
しばらくウロウロしていると、人々の叫びと、覚えのある声がきこえたのでそちらへ急ぐ。
「攻撃してはいけません。攻撃しても竜は死にません。傷を与えると大きくなっていきます」
声のする方にむかい、酒屋と書かれた建物の角を曲がると、ビッデが人々に指示を与えているのが見えた。
「ビッデ、どうなってる」
「少し前に竜がこの町に入り込んだので、漁師たちが銛で追い払おうとした。それでこの始末だ」
ビッデの視線の先には、最後に見たときより二回りほど大きくなった魔竜がいた。
体には無数の銛が刺さり、竜が動くたびにブラブラと揺れている。
「クデンヤとウゼはどうした」
「この竜に人々が近づかないように、向こうにまわってもらっています」
魔竜の瞳には、知性と憎しみがあった。
魔竜と目があう。
向きをかえた魔竜は、こちらへ―――。
「遅いな」
思わずつぶやいてしまう。
ドタドタと進む魔竜の歩みは、大人の早足くらいの速度なのだ。
突進してくる魔竜を、余裕をもってかわす。
その直後、大きな音とともに、ガラガラとなにかが崩れる音がした。
突進をかわされた魔竜が、一軒の家に頭からぶつかって、その壁を破壊したのだ。
頭を強く打った魔竜は、そのまま横倒しに倒れてピクピクと痙攣をはじめた。
ビッデに視線を送ると、ビッデもこちらをみて肩をすくめたが、すぐに険しい表情になった。
「テシカンさん、みましたか」
俺はうなずいて、顔をしかめた。
こいつ自分から壁にぶつかって倒れたのに、それでも体が大きくなるのか?