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鉱山にて。

 鉱山の仕事は過酷だった。

 午前2刻、午後2刻、ずっと狭い坑道の中でなかで水を手桶でくみ上げ、大きな桶がいっぱいになるとそれを担いで外まで運び出す。

 採掘現場から坑道入口の中間地点には、水を捨てる小さな池があり、水吹子(みずふいご)とよばれる道具で坑道の外に水をくみだしていた。水吹子には2人の男がついており、一日中道具を動かし続けている。

 坑道は暗く、塵がまい、息苦しい。

 畑仕事も楽ではなかったが、狭い坑道で時間の感覚もなく働き続けることに比べると、まだマシだったと思える。これだけ働いて銅貨1枚。やはり畑を耕す方が性にあっている。赤銅亭を売り払い、どこかに土地を買おうか。宿屋を買ってくれる人がいればだが。以前、それとなくベンユ爺さんに宿屋を買い戻す気がないかきいたことがあったが、体よく断られたのだ。

 「おい、オッサン。怠けてないでキビキビ働けよ!」

 下財頭(げざいがしら)のワベから罵声がとぶ。私より年下の男だが、なにか気にさわったことがあるのか、いつも文句をいってくる嫌な奴だ。はいと返事をして、ワベの前だけでも頑張りをみせようと、歩く速度を上げる。

 その時だった。

 不注意にも足もとの岩につまづき、不格好に前に倒れこんでしまう。

 「ケケケケケ。オッサン、足腰弱ってるんじゃねーか。しっかりしろよ」

 本当に嫌な奴だ。

 それより手のひらが焼けるように痛い。

 横の灯りに近づけてみると、右手の手のひらがザックリと切れていた。

 水筒を取り出して、水で傷口を洗い流し、手ぬぐいで右手を縛る。

 「おい、早く下にいけよ、オッサン」

 痛みではなく、自分の不甲斐なさと情けなさに体が熱くなる。

 なんで俺はこんなところで、こんなことをしているんだろうか。

 そのとき、シェスの顔が思い浮かんだ。自分だけのためなら、この仕事はしていないだろう。

 シェスのためなら、どんなことだって我慢できる。

 すこし気持ちが落ち着いてきた。

 さあ、仕事の続きをするか。意を決して坑道を進む。

 深いため息をついて、ふと考えてしまう。

 こんな仕事なくなってしまえばいいのに、と。

 突然、全身から黄色い光があふれる。


 チキチン、チキチン、チキチン。


 え、ここで鳴るの? こんなことで贈物ギフトが発動するの?

 焦ってまわりをキョロキョロみまわすが、光はすぐに消えた。

 じゃあ、支払ペイはなんだ。

 落盤事故がおきて、採掘どころではなくなる可能性もある。

 いや、銅貨1枚の仕事がなくなることへの支払ペイが人の命っていうことはないだろう。

 ないよな?

 薄々感じていたことだが、この支払ペイという贈物ギフトは危険すぎるのではないか。

 人はその暮らしの中で、ああなればいいとか、こうなって欲しいなどと考えるのが普通だ。

 それが一つ一つ実現してしまえば、世界はどうなってしまうのだろう。

 実現するのはいいが、その一つ一つに支払ペイが必要になるとすれば、私は間違いなく破産してしまう。お金を失うことは怖くないが、大切な人の命まで失うことになるのは耐えられない。

 その日は、小石の落ちる音にもビクビクしながら仕事をすることになったが、結局なにもおこらなかった。


 「どうしたんですか、ロワさん」

 アギロバさんの声に、われを取り戻す。

 なぜか、この人が私の願いを実現してくれるという確信があった。

 「ああ、ボケっとしてすみませんでした。ところで、鉱山を再開するというのは、どんな方法をとるんですか」

 「それはですね、そもそも鉱山が―――」

 そのあと半刻ほど、アギロバさんの話は続いた。

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