雨降って地固まる。
どれくらい時間がたったのだろうか。
徐々に呼吸がもどり、あたりの静寂が私を押し包んだ。
部屋のドアが叩き開けられ、窓からグバウが顔をのぞかせることもない。宿屋の玄関から兵士が飛び出してくることもない。
あおむけに地面に寝ころんたまま、少し体を動かしてみるが、特に痛みを感じる場所もなかった。
そろそろと体をおこすが、警告の叫び声も、誰何の声もない。立ち上がって、音をたてないように埃を払う。どちらに進めばいいのかわからなかったが、宿屋から一刻もはやく離れたいので大きな通り沿いに進む。
朝までは街道をいき、そこからは街道をそれよう。街道沿いは警護の騎兵にすぐ追いつかれる。いったんは山か森に入り、追っ手をやり過ごす。そしてメコアの町に向かうんだ。一緒に旅をした四人には悪いが、もう英雄ごっこはおしまいだ。あの4人なら、魔竜だってきっと倒してしまうに違いない。かつて仲間だった四人に思いをはせる――――。
「今日の当番は誰だっけ。ビッデさん?」
「そうですよ、テシカンさん。もう少しでできあがりますので、しばらくお待ちください」
あたりにいい匂いがただよう。
「あー、おなか減った。はやくメシにしようぜ」
背丈ほどもある杖を手にしたクデンヤが、焚火に近づいてくる。
「クデンヤさん、獣よけの結界いつもお疲れ様です。もう少しでスープができますので、食事にしましょう」
そうしているうちに、両手で布製の丸い袋をゆらゆらさせながら、重そうに運んでくるウゼも戻ってきた。
「水を汲んできましたよ。そこの木にかけておくので、後始末に使いましょう」
四人は火を囲んで、夕餉をとるところだった。
薄い円盤状に焼き上げられたパンを、自分が好きな大きさにちぎっては隣にまわす。
木の椀からスープを口に運びながら、みなは今日の冒険について語りだす。
「今日のキメラの巣って、結局何匹くらいいたんだっけ」
「子どものキメラまでいれると、7匹くらいですか。私は槍で3匹仕留めましたよ」
「俺は電撃で3匹は倒したぜ」
「俺も剣で3匹殺したよ」
「なぜ合計9匹のキメラを倒したのに、死体が7匹なんですか!」
くだらないことを話しながら、食事に舌鼓を打つ。
「ところでさぁ」
クデンヤがぼそりといった。
「いつもオッサンが料理してたけど、マズかったよね」
みなが顔を見合わせる。
「まずいというより、味がなかったですね」
ウゼも同意する。
「その場にいない人の陰口はいけないと、ヴィーネ神はおっしゃってます」
神官のビッデが、たしなめるようにいう。
「体を動かす俺たちのような戦士には、もっと塩分が必要だってわからなかったんだろうな。食事もやたら野菜とかを使ってたけど、戦いのためには肉で力をつけないとダメだ」
テシカンが吐き捨てるようにいった。
「それに、陰口じゃなくて真実だろ」
ビッデは困ったような顔をしていたが、にっこり笑ってうなずいた。
「違いないですね」
4人は腹を抱えて笑った。
パーティからオッサンがいなくなったことで、それまであった不満や違和感がなくなっていた。
ここにいるのは、それぞれの任務を果たすことができるプロフェッショナルだ。
お互いに尊敬できる、最高の技術を持ったパートナーである。
このパーティーなら、魔竜だって倒せるにちがいない。
4人は思い思いの未来を思いいだききながら、眠りについた。