反省会。
メールは海に面し、背後をモンブルマ山に囲まれた漁業の町である。
めったに人が訪れることもないので宿屋はなく、4人は町長の家に逗留していた。
「倒せなかったといえば倒せなかったが、火をふくわけでもなく、魔術を使うわけこともない。しかもあの大きさなら放置しておいてもいいんじゃないか」
テシカンのいうことはもっともだ。
「竜は殺されない限り、永遠に生きるといいますよ。いまは弱くとも、いずれあの魔竜は世界を滅ぼす存在になりうるでしょう。私の5つの投槍でも、あの竜を滅ぼすことはできなかった。簡単にあの竜を消し去ることはできないと思います」
「俺の炎の柱で無理だったんだから、火系統の魔術じゃ無理だ。あんたの聖なる一撃はどうだったんだ」
「私の力が不足していた可能性も否定できません。しかし、邪悪なる存在なら聖なる一撃で動きが弱まったり、部分的に浄化されたりするはずですが、そういった兆候はまったくありませんでした」
「つまり、あの魔竜は邪悪なる存在ではないということか。だったら俺の連撃をうけて切り刻まれても死ななかった理由はなんだ」
「私が思うに、あの竜は邪悪なものから生み出されたのではなく、自然に生まれたものだと思われます。ヴィーネ様の神託も、正確には<世界を滅ぼす竜があらわれる>というものでしたからね。よく考えてみると、魔竜という呼び方は、我ら神官が他の竜と区別するために使いはじめた名前であったようです」
「いまさらそんなこといわれてもさぁ」
クデンヤは頭をポリポリ掻きながらつぶやいたが、テシカンとウゼは黙ったままだった。
「今回の遭遇で、我々がえた情報をまとめてみたいと思います。間違っているところや、正確でないことがあれば指摘してください。そして、どのような対策があるかを考えてみたいと思います。いいですか」
みなが黙ってうなずく。
「あの竜に対する魔術、武器攻撃は有効である。しかし、それを上回る再生能力がある。細切れにしても肉片どうしが寄り集まって再生する」
特に異論はない。
「火、水、浄化、負の力は特別な効果を持たない」
「あと、雷もだな」
ウゼが補足する。
「正確な数値はわからないが、再生するときに大きくなる。これくらいでしょうか。なにか付け加えることがあればお願いします」
「じつは―――」
クデンヤが口をひらいた。
「あんたたちにはわからないかもしれないが、俺はあの魔竜を一目見たときから信じられない量の魔力を感じたんだ。魔術師っていうのは、ある程度戦う相手の魔力の量を感じ、強いか弱いかを判断することができる。おそらくあの魔竜は、すべてが魔力でできているんではないかと思う」
たしかに、あのときのクデンヤのあわてようは滑稽でさえあったが、魔力を感じての行動なら納得がいく。
「ほかにはなにか、気がついたことはありませんか」
沈黙が回答であった。
「それでは、どうすればあの竜を倒すことができると思いますか」
「酸はどうだ。溶かしてしまえば再生しないんじゃないか。たしか酸の魔術が使える知り合いがいるから、俺が使えるものなら伝授してもらうことができるかもしれない」
クデンヤのもつ呪術師の贈物は、どのような種類の魔術も使うことができる。もちろん得手不得手があるだろうが、普通の魔術師にはとてもできないことであった。
テシカンが口をひらく。
「俺はやはり放っておくことをすすめる。モンブルマ山への立ち入りを禁止し、魔竜も通れないような柵で周囲を覆えば、あと数十年は大丈夫だろう。その間に対策を考える」
「そういえば、竜って空を飛べるものもいるんじゃないですか」
ウゼのことばに、全員が魔竜に空を飛ぶような羽があったかを思い出そうとするが、自信をもって羽の有無を断言できるものはいなかった。
「わかりました。今回の顛末を書面にしたため、神殿に指示を仰ぐことにします」
その日の話し合いはこのように終わったが、翌日、まさかあのようなことがおきるとは誰も想像だにしていなかった。