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絞首台。

 「おいおい、あの女が捕まったそうだぞ」

 ベンユ爺さんは部屋に入ってくるやいなや、興奮した様子でいった。

 意識が戻ってから、まだ3日しかたっていないというのに、あまりにも早い展開に驚く。

 やっと昨晩から、普通のものを食べることができるようになった私は、まだまだ本調子とはいえない体をベッドの上でおこし、シェスがどこでどんなふうに捕まったのかをたずねる。

 「くわしいことはわからんが、なんでもシウテルムで、身分不相応な大金を持っているということで拘留されておったらしい。代官所に金を盗まれたことを届け出たときに、その話をきいておったシウテルムからきた役人が、捕まっていた女のことを思い出したそうだ」

 シウテルムは乗合馬車で着くはじめの町で、なぜそんな近くでシェスがぐずぐずしていたのかはわからなかった。

 やはり悪いことはできないものだ。天罰は遅いが必ず下るというが、今回は早かったわけだ。

 「それで、シェスはどうなるんですか」

 「おそらく、このメコアまで連れてこられて」

 ベンユ爺さんは、ちらりと私の顔をみて続けた。

 「縛り首になるだろうな」

 ヴィーネ金貨1枚盗めば死刑というのは誰でも知っている。

 しかし、なぜかシェスが死刑になるということは、少しも考えていなかった。

 私はシェスが縛り首になることを望んでいたのだろうか。


 むかし、両親につれられて、罪人が縛り首になるのを家族で見にいったことがある。

 町の広場には絞首台がつくられ、近隣の農村からもたくさんの見物客が集まってきていた。食べ物を売る屋台がいくつも並び、父に飴を買ってもらったことを覚えている。人が多すぎて3人の男たちの表情までみることはできなかったが、首に縄をかけられて、刑吏に足をのせていた台が蹴り飛ばされると歓声があがったことはよく覚えている。

 人が少なくなった後、家族で絞首台にぶら下がっている3人の男たちを近くまで見にいった。

 顔は苦痛に歪んでおり、ズボンには染みができていた。


 シェスの首に縄がかけられ、足もとの椅子が蹴り飛ばされて、皆が笑いながらビクビク痙攣するシェスの姿をみて歓声をあげる様子が脳裏に浮かぶ。

 私はそんな姿をみたいのだろうか。

 「シェスがこちらに着くのはいつごろなんですか」

 「さあ、数日か数週間か、あるいは数か月か。代官所にきけばわかるかもしれん」

 「ぜひ、きいておいてもらえませんか」

 真剣な私の表情をみたベンユ爺さんは、黙ってうなずいた。

 「それよりメシの支度をするから、なにか食いたいものがあれば教えてくれ」

 あれだけ血を流したというのに、数日で普通の食事ができるようになった自分の回復力に驚いていた。

 食事の話をきくと、苦痛なほど自分が空腹であることを思いだした。

 シェスのことが気がかりではあるが、体が食べ物を求める激しさには驚くばかりだった。

 「じゃあ、前に食べた豆を煮たものをお願いできませんか。できれば塩を少なめにお願いします」

 「少し時間がかかるが、かまわんか」

 問題ないとこたえると、ベンユ爺さんは部屋を出ていった。

 ひとりになったので、なんとなく左手首をみてみる。

 傷跡がなくなっている。

 これは回復術の効果なのか。

 テキンさんが回復術を使ってくれたのは、風呂場から連れ出された直後と、意識を失っているとき、意識が戻った時の3回。

 その時にはまだ、左手首に傷が残っていた。

 そもそも回復術で傷跡は消えるものなのか。

 わからないことは多いが、今はたくさん食べて体力を回復することに専念したい。


 シェスがメコアにもどったのは、3日後だった。

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