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裏切り。

 いつもと同じように、3の鐘で目が覚める。

 冷静に考えると二日ほど食事をとっていないが、頑丈に生まれついた体は特に不調を訴えることはなかった。

 いつものように鉱泉につかり、身なりを整えてから料理の下ごしらえをする。

 なにかしている方が、気がまぎれるからだ。

 表にメニューをだすと、しばらくしていつもの鉱夫3人組が入ってきた。

 シェスのことをきかれるが、休みだとこたえておく。

 それとなく会話に聞き耳をたて、デカいのがトップ、小さいのがユン、太いのがリリという名前であることを知る。シェスがいなくても、一人で食堂を続けなければならない。

 朝食を3人分用意し、食べ終わるのを確認すると、礼をいって代金をもらう。

 これで仕事も終わりかと思っていると、ひょいと代官所の役人が入ってきた。

 「おはよう、朝食ひとつもらえるかな。今日はシェスさんどうしたの」

 「休みです」

 ひょっとして、この男がシェスのいなくなったことと関係あるのではないかと思っていたが、間違いだったのか。シェスは、なにかのトラブルに巻き込まれるか、ケガか病気で動けなくなっているのではないだろうか。いままで勝手に、私が嫌いでこなくなったと思っていたのは、間違いだったのか。

 このお客さんが帰れば、食堂を閉めてシェスの家に行ってみよう。急に心配になり、居ても立っても居られなくなる。

 「ごちそうさま、代金はここに置いていきますね」

 役人が席を立ったので、食器をさげ、テーブルをふく。食器を洗うのは後だ。

 急いで裏口の戸締りをする。

 出がけにメニューを中に入れ、表の扉を閉めておけばしばらくは大丈夫だろう。

 気がはやる。

 少しでも早くシェスの家に向かおうとメニューを片付けていると、声をかけてくる男がいた。

 「ロワさん、忙しいところすみません。肉屋ですが、今月のお代をいただきにあがりました」

 「ちょっと急いでるんで、また明日にしてもらってもいいですか」

 少し不機嫌そうな声で答えてしまう。

 「ロワさんのお店とは、まだたったひと月のお付き合いなんで、絶対にお代をもらってくるように主人からいわれてるんです」

 「後で払いにいきますから、待ってもらえませんか」

 一刻もはやくシェスのところへ向かいたかったが、肉屋の店員は一歩も引かなかった。

 「払えないっていうことですか」

 店員の失礼な態度に腹が立つが、ベンユ爺さんの紹介があったとはいえ、肉屋の私への信用がないことも理解はできた。

 「わかった。いくら払うんだ」

 すこし乱暴な口調になる。

 「ありがとうございます。銀貨1枚、銅貨11枚、鐚銭びたせん7枚になります」

 財布をみるが、銀貨と鐚銭しかなかったので、おつりがあるかをきく。

 「すいません、さっき別のお客さんにおつりを払ったので、今は銅貨5枚と鐚銭しかないんです」

 「じゃあ、部屋からとってくるので、すこし待っててください」

 肉屋を待たせ、二階の自分の部屋にむかう。

 自分の部屋にしている部屋に入り、ベッドの横の棚から小銭を入れている小箱を引っ張り出す。

 銅貨が1枚足りないが、今日の売り上げが台所に置いてあるはずだから、鐚銭の10枚くらいにはなるだろう。

 あわてて台所にいこうとしたとき、よくわからない違和感を感じた。

 もう一度棚をみる。

 引き出しの一番下の段が、完全に閉じていたのだ。

 ほんの少しだけ、わざと完全に閉めずにおいた引き出しがきっちり閉まっている。

 あわてて一番下の引き出しを、完全に取り外す。

 シェスティンがなぜ、3日待ってくださいといったのか。

 その理由がはじめてわかった。


 そこにあるはずの、ヴィーネ金貨が入った袋がなかったのだ。

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