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男の子。

 張り紙をしてから二日後のことだった。 

 「表の張り紙みたんですが―――」

 正午少し前、表の入り口の方から大声でどなるのがきこえた。

 特にすることもなく、ぼけっとしていた私は、あわてて表の入り口のほうへむかう。

 入口には、どう見ても、まだ10を超えていないような男の子がたっていた。

 「表の張り紙をみてきたんですが、ぜひ僕を雇ってくれませんか」

 見た目は子どもだが、話し方や表情はすっかり大人びている。

 服装を見るかぎり、けっして豊かな生活を送っているわけではないことがわかるが、くたびれたズボンの膝のところの穴もしっかりと継ぎが当てられており、少なくとも愛情をもって育てられていることは想像できる。

 「名前はなんていうのかな」

 坊主とか小僧とかいうと、怒り出しそうな雰囲気があったので丁寧に話しかける。

 「パンジっていいます」

 「歳はいくつかな」

 「ことしで10になります」

 私が10歳の時に、ここまでハキハキと大人と話せただろうか。利発そうな男の子だから、仕事もきっとすぐに覚えるだろう。

 「ところで、イモの皮をむいたりする料理の下ごしらえはできる?」

 「はい、できます」

 もうこの男の子でいいような気もしたが、ベンユ爺さんの言葉を思い出した。

 「じゃあ、ちょっと奥にきてくれるかな」

 採用されたと思ったのか、男の子の顔がパッと明るくなる。こういうところはまだまだ子どもだ。

 奥の食堂までつれていくと、台所から皿とナイフ、そしてイモをとってくる。

 「じゃあ、すこしテストをさせてもらうね。このイモの皮をむいてみて」

 男の子の顔が急にくもる。まさかテストされるとは思っていなかったのだろう。

 「無理だったらいいんだよ。怪我されてもこまるしね」

 「大丈夫です。やります」

 意を決してナイフとイモを手に取り、ぎこちない手つきでイモの皮をむいていく。

 かなり時間がかかって最後までやりとげたが、むいた皮は分厚く、イモは一回り小さくなっていた。

 泣きそうな顔で、男の子はいった。

 「これから練習してもっとうまくなりますので、ぜひ雇ってください」

 必死さは伝わってくるが、減点一だ。この男の子は何のためらいもなくウソをついた。

 少しの逡巡もなくウソをつける人間は要注意だと、いつも親父がいっていたし、私もそう思う。

 ただ、この子は頭の回転がはやそうなので、しっかり教えれば役に立つだろうという気はした。

 「雇うかどうかは5日後に返事をするので、パンジくんの家を教えてほしい。家はどのあたりなの」

 「山のほうです。5日後にまたここにくるので、その時に答えを教えてもらえますか」

 山の方というのは、鉱山の近くにある山師たちの集落だろう。

 ほとんど銅の取れなくなった鉱山に入る人たちが、簡単な家を建てて暮らしている場所のことだ。豊かとはいえない暮らしを知られるのが、恥ずかしかったのかもしれない。

 「わかった。じゃあ、5日後にまた顔を出してくださいね」

 大きくうなずいたが、少し肩を落として男の子は表からでていった。

 ほかに人がいなければ、あの男の子を雇ってもいい。ベンユ爺さんがあの男の子を知っているかどうかはわからないが、意見を求めよう。

 皿とイモをかたずけようと手にしたとき、また表で声がした。

 「すみません、表の張り紙をみたのですが」

 声は女性のものだった。

 しかも若い女性の声のようにきこえた。

 少し胸をときめかせ、皿とイモはそのままに表の入り口にむかった。

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