表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/60

竜殺し。

 「なんでも、あのオッサン逃げ出したらしいぜ」

 魔法の杖を磨きながら、クデンヤがぽつりとつぶやく。

 さきほど立ち寄った町の代官所で、手紙のようなものを受け取っていたので、その中にオッサン逃亡のニュースがあったのだろう。

 「たしかに世界を救うということには、考えられないほどの重圧があるでしょう。しかし、ヴィーネ神が与えたもうた試練から逃げ出すことは、神への冒涜に等しいとは思いませんか。テシカンさん」

 「神官のあんたにはそう思えるんだろうけど、俺は自分の剣だけを信じるし、剣でならどんなことでも成し遂げられると思ってる」

 「その剣の腕前も、ヴィーネ神が授けた<剣の達人(ソードマスター)>の賜物ではありませんか、テシカンさん。神の贈物ギフトがなければ、あなたといえども、その剣で竜を倒すことなんてできなかったのではありませんか」

 横からウゼが口をはさむ。

 「あの竜のとどめを刺したのは、私の魔化エンチャントされた槍では?」

 「いや、とどめは確かに槍だったけど、ほとんどのダメージは俺が剣で与えたぞ」


 4人は、数日前に火の竜を倒していた。それぞれが英雄級の実力を持ったこのパーティーは、ついに小型ではあるが大人の竜を仕留めるまでになっていた。オッサンという重荷から解き放たれ、4人は十全に自分たちの実力を発揮していたのだ。


 「おいおいもめるなよ。お前たちは大活躍だったけど、今回出番のなかった俺の立場にもなってくれよ。ほとんどなにもできなかったから、恥ずかしくて竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の称号を名のれないんだぜ」

 テシカンは火の強力な魔法を使うが、今回は火の竜が相手であったため防御とサポートの魔法しか使っていなかったのだ。

 「ちがいない」

 テシカンとウゼが意図せず言葉を重ねた。

 4人は大きな声で笑った。


 外が薄明るくなると、自然に目が覚める。

 畑仕事は日の出から日が沈むまでに限られるので、朝になると目が覚める習慣は身にしみついている。

 寝起きの顔のまま、ランプに火を入れて明かりをつけ、食堂の奥にある鉱泉の脱衣場へ入る。

 ランプを壁の掛け金にかけ、素早く服を脱いで鉱泉に飛び込む。

 水が飛び散るが、誰にとがめられることもない。

 この瞬間のために、この宿屋を買ったのだ。

 チョロチョロと鉱泉の吹き出し口からぬるい湯が流れ出してくる。

 この時期だと鉱泉の温度は外の気温より低いので、冷たさが心地よい。

 鉱泉で顔を洗い、寝ぐせの髪の毛をなおす。

 鉱泉は肌に心地よいが、鉄臭くてそのままだとベタベタするので、あらかじめ井戸水を満たしていた大きめのたらいから水をかぶる。手ぬぐいで体をぬぐい、あらためて服を着て食堂にもどる。 

 水差しから水を一杯木のコップにそそぎ、飲み干して食堂を見渡す。

 自分の部屋すら持っていなかった私が、この宿屋の主人であることにあらためて感動する。


 そして日常のはじまり。宿屋の入り口を開け放ち、前の道を箒で掃いてきれいにする。

 さびれた町なので、ふだんから人通りも多くなく、それほど目立つゴミもない。

 土ぼこりが飛ばないよう、打ち水をする。

 これもベンユ爺さんに教わったことだ。

 張り紙が通りから見えることを確認し、新たな出会いへの期待へ胸を躍らせる。

 しかし、仕事希望の人物が現れたのは二日後のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ