表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋色の魔王の建国物語  作者: 御子柴
第一章 覇道
8/46

第八話 緋色の里

「あぁ……生き返る……」


 赤星との戦いから一週間。現在フレアは影人の里にて凡そ十日振りの風呂に堪らず破顔する。にへらぁと笑みが零れる。こんな顔はミケ以外には誰にも見せられない。

 そもそもなぜ凡そ十日間も風呂に入れなかったのか、まず三日間の拠点生活では純粋に風呂がなく、此処影人の里も風呂の文化はなく、近くに流れる川で水浴びをする程度なのだ。

 故にフレアがジン太に桶を作らせてそれにて湯浴みをしようと試みた。しかし、フレアはまだ肩の怪我が治っておらず、泡影にせめて怪我が治ってからと止められていたのだ。


 そして今日、肩の怪我も少し跡が残っている程度まで回復しようやく泡影から許可が下りたのだ。


「しかし、風呂とはそんなに良いものなのですか? わざわざ湯を沸かすくらいなら水浴びで十分なのでは?」


「泡影、お前はわかっておらんな。風呂とは私の祖国では日々の疲れを癒し、心までをも満たしてくれる至高の娯楽の一種でもあるうえ、湯によっては病気や怪我など治療の効能もあり____」


 長々と演説が始まった。所々かなり盛りながら話しているが、それだけ風呂に対して愛があるのだと、それだけ素晴らしいものなのだと泡影は理解する。


「……あの、フレア様?」


「その歴史遥か古代ローマの……ってなんだ? お前も入りたくなったか?」


「えっと……はい、少し興味が……」


「ふむ、なら入ってみるといい。二番風呂で申し訳ないが私ももう上がる。ゆっくり浸かるといい」


 湯が減るのが勿体無いと言わんばかりにフレアはそっと立ち上がる。この桶がもう少し広ければ一緒にどうだと声を掛けていたのだが、スタイルというなんというか、誰に見られるわけでもないが比べられるのが嫌という気持ちも少なからずあった。


 のだが、


「どこ行くんですかフレア様! 私はフレア様の直属の護衛ですよ!? 」


「うむ、いつそうなったのかは知らんが、お前がそう思うんならそうなんだろうな」


「はい! じゃなくて、私がこの風呂に入ってたらフレア様を護れなくなります!」


「……なんとなくだが、察してしまったんだがそういう意味か?」


「フレア様が察せられたのなら、それはきっとそれが正しいのだと私は思います!」


 もう言葉も出ない。ただ溜め息を吐き、いそいそと泡影の用意した上下黒の寝間着へと袖を通す。全体的なサイズは身長差もあるので少しブカブカなのは仕方ないが、胸の辺りの衣服の萎れ具合がどうしてもやるせなくなる。


 だが、まだそれはいいとしよう。問題はそんなに瑣末な事ではないのだ。


「あっつっっ! フレア様! あっついですよ!?」


「そりゃ風呂だし、私が浸かってたんだから湯が冷めるような事もないだろうしな」


 この小娘(年上)はフレアの護衛としての責務を話す為に、己が風呂を楽しむ為に主であるフレアをこの場より逃すまいとしているのだ。

 別にこの程度のワガママくらいいくらでも聞いてやると、その辺はフレアとしても許容範囲なのだが、許容できないのが目の前で風呂に入る為に裸になる泡影のスタイルだ。

 率直に言おう。スタイル自体は負けてはいない。負けているのは胸囲の脅威の格差だ。


 が、これ以上はフレアの自尊心が粉々になる恐れがあるので、これ以上の描写は控えさせて頂こう。


 そしてところ変わり里長の家。

 今現在この家はこの一週間で、フレアの指示の下ジン太の活躍により藁葺きの頃よりかなり家としての形をとり成している。

 フレアに建築知識が皆無な事で立派な家とは言い難いが、丸太による四本の支柱をベースに藁や蔓を巻きつけ、そこに幅の広い葉を貼り付けて壁とし、天井は同様に細めの丸太を梁として勾配をつけてその上に肉の厚い葉を何枚も重ねて屋根としている。

 仮設小屋としてもレベルはかなり低い仕上がりだが、藁小屋の頃から比べると素晴らしい出来栄えだろう。

 それをフレアに褒められた事によりジン太はジンギ監督の下に今も同様の新しい小屋を建てようと奮起している。


「……なあ長」


「どうしよった? 赤星よ」


「フレア様ってさあ……何だと思う?」


「何……とは?」


 以前よりも数倍は広くなった里長の家。細かく部屋を作るような事はまだ出来ておらず、見た感じの内部イメージは正方形空間の広いテント、と言ったところ。

 赤星はそこで療養している。


 カンパネラの去った後、フレアに応急処置により出血の止まった赤星はジン太の所有していた飲んでよし、塗ってよしの薬草のおかげで赤星は一命を取り留めた。が、それで薬草を使い切ってしまった事でフレアの肩は自然治癒に任せている。


 普通ならこんな事は有り得るはずがないのだ。

 魔族なら、力のあるものなら尚のこと、臣下の治療を優先して己の治療を後回しにするなど。

 魔族、魔人、魔王、人間でもそうだろう。力ある上に立つ者は下剋上を非常に恐れる。ならばこの状況、本来なら己の怪我を治してから部下を気にかけるというが普通だろう。


 赤星が目覚めた時、その事をフレアに問い掛けた。


 “は? お前は私の臣下であり、私が庇護する私の民だ。民を守らずして王を名乗れるはずがないだろう?”


 何言ってんだ? 馬鹿かお前は? とでも言いたそうな呆れた表情でそう返された。

 フレアが元人間だとは既に聞いている。だが元が人間だからとそんな事を当たり前のように言えるなんて思えない。


「あんなに強い人、俺は見た事がない。まだ生まれて間もないのにあれだけの能力を有し、何よりも心が強い。俺はあんな人になりたいと、魔人の俺が心の底からそう思ったよ」


「なら、心から巫女姫様に仕えよ。あの方がお前を許した。ならばそれが我ら影人の総意でもある。あのお方に心より仕え、そして支えよ」


「ああ、わかってる。フレア様が言ってくれたからな。罪は償えるって」


「……うむ、精進せよ赤星。我が息子よ」


 そこで二人の会話は終わった。そこからは沈黙のみが流れた。言葉を交わす事など必要ないのだ。血が繋がっているのだから心でも繋がれる。

 二人は視線が重なると、互いにどちらともなくフッと笑みを零した。



 ◇◇◇



「んで、これからの事だが」


 里長の家、そこには現在フレアと里長、ジンギ、ジン太、泡影と、床に伏している赤星がいる。

 先日に赤星から聞いた情報を元にこれからどうするか、その方向性の話し合いである。


「取り敢えず、私は今は皆で力をつける事が先決だと思っている。私もまだまだ弱い。力をつけねばならないし、赤星も今はまだ立ち上がる事すら出来ない。と、なると今此処での戦力はジン太と泡影だ」


「私はフレア様の護衛としての仕事もございます!」


「あー、うん。誰が決めたのか知らんがそうだな」


 どうやら泡影はフレアの側を離れたくないらしい。確かにこの一週間、基本泡影は一回たりともフレアから二メートル以上離れていない。トイレに行く時まで付いてくるのが困りものだ。


「とにかく、今はあのカンパネラもこの土地自体には用はないと言っていた。信用は出来んが信じるしかないだろう」


 この里には兵はいない。戦える者はフレアと泡影とジン太の三名。ジンギも戦えると息巻いていたが、流石に年寄りを駆り出すのは忍びない。


 カンパネラがこの地を攻めていたのは赤星の真なる魔人化が目的と言っていた。と、なると赤星が此方側についた以上もうこの地には用はないはずである。

 が、不安要素もある。それはフレアがカンパネラに目を付けられたという点である。


「カンパネラは……あいつは危険だ。戦えば当然負ける気はしないが、勝てる気もしない」


 そう言う赤星の目は真剣だ。赤星は泡影の薬を入手しようと帝国へと赴いた際、カンパネラと出会ったらしい。その後、薬を引き渡すと引き換えに己の主の城へと招待された。

 そこで出会ったのだ。


「あいつの、あの【強欲の魔王】の魔王は本当に危険だ。相対した瞬間死を覚悟したよ。そして言われたんだ。俺の下で働け、と」


 赤星が怯えている。魔人にまで上り詰めた男が怯えている。それだけでその強欲の魔王とやらが途轍もなく恐ろしい存在である事は理解出来る。


「なあ赤星。お前は魔王の直属だったのか? それともカンパネラの直属だったのか?」


「え、いや、俺はカンパネラの直属だった…です」


「別に無理するな。お前にとっての普段通りでいい。……と、それとだな、お前が魔王の直属であったならば魔王の手下を奪ったってことで此処も危なかったのとは思うが、カンパネラなら問題ない。もしかしたらあいつがちょくちょくちょっかいを掛けてくるかもしれんが、私の機嫌を損ねるような事はしないだろう」


 なにせ私を新たな魔王として祭り上げようとしていたからな……とは言えず、そこで言葉を区切った。


「とにかく今の私達に必要なのは戦力と、そして此処を私達の新たな拠点としての国力の増加だ」


「国力……ですか?」


「そう、今はただの小さな集落でしかないが、此処を私達の国として発展させる。人材を集め、人材を育て他の勢力に負けない組織を作り出す。私達の国として、私が魔王となってそれを統治する。他の魔王なんぞに手は出させない。私が私のそれら全てを庇護するんだ」


 その言葉にその場にいる全員が目を輝かせる。

 自分達の力です国を立ち上げる。何者にもどんな勢力にも怯えることのない世界中に名を轟かせる国を作る。

 それはどんなに素晴らしい事だろうか、自分達の理想郷、それがそこにあるのだ。


「フレア様! だとするとフレア様は我が国のお姫様になるわけですね! 私はその親衛隊の隊長ですね!」


「泡影、飛躍しすぎだし私は王だ。姫じゃなくてせめて女王だ」


「ッス! じゃあオラは王子ッス!」


「こらジン太。私は太った男の嫁になる気はない」


「そうだな、だとすると姫には俺のような優秀な遺伝子が必要だよな」


「赤星、お前は口出すな。寝てろ」


「ンナァーォ」


「ミケ、お前はずっと私の相棒だからな、安心しろ」


 国という彼らの間に出来た新たな究極の目標。それが彼らを盛り上げる。

 やれやれと、呆れたようにしながらもフレアも心が躍る。目標はまだ遥か遠く、その頂は少しも見えないが皆と心を一つに大きな目標に挑むのだ。


「てなわけで、ジンギ、里長。私らの拠点は此処にし、里の名を私が庇護する里との意味合いを込め、此処は今より【緋色の里】と名乗る。文句はないな?」


「文句などありますまい。のう里長」


「全くよ。文句など有りはしませぬ。我らは我らの主、フレア様に永遠の従属を誓っております。緋色の里、素晴らしいではありませぬか姫様」


「いや、あのな、だから姫はやめろ? ……まあいい、何はともあれ此処からが私達のスタートだ。これかれ忙しくなるからな。覚悟しろよ?」


 こうして始まった彼女達の国作り。

 これから幾多の困難が彼女達を待ち受けているだろう。しかし、彼女達はそれすらも乗り越えて行くと覚悟を新たにして歩み出す。


「あーっ、姫様ー! 逃げないで私のこの服着てくださいよー!」


「ばっかそんなヒラヒラしたの着れるか! てか性格砕けすぎだお前は! そしてお前も話を聞けジン太ァー!!」

やっとタイトルでもある国造りスタートです。まだ先は長いですが、お付き合いお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ